| ブックショップはワンダーランド(P111〜131) 永江朗 六耀社 |
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| 読み出したらとまらないミステリーを探しています ときわ書房本店にミステリー本のうんちくを訊く ミステリー評論家から書店に復帰 こんなことを言ってはときわ書房の社長、専務およびスタッフの皆さんに申し訳ないが、ときわ書房の名前が広く知られるきっかけは、茶木則雄さんの店長就任だった。茶木さんは東京・飯田橋でミステリー専門書店、深夜プラス1をつくり、長く店長を務めてきた人。その後、評論家に転じ活躍してきた。それが2002年、6年ぶりで書店に復帰した。ときわ書房本店の店長として。 書店員からもの書きになる人は、私を含めて珍しくないが、そこからふたたび書店の現場に戻る人は珍しい。「どうして?」とたずねると「ある仕事で全国の書店さんを回る機会がありまして。現場の人と話していると、面白いんですよ。売り場の本棚なんか触っているうちに、『オレにとってやりがいがあるのは(評論家か書店員か)、どっちだろう?』って思って・・・。それが大きな理由のひとつです」と言う。文章を書く仕事も嫌いじゃないし、書店に復帰しても評論家を廃業したわけではないが、いまの本業は書店員である。 ときわ書房の創業は1965(昭和40)年。当時、編集者だった社長夫妻が、まったくのゼロから始めた。書店経営の経験も知識もなかったから、最初は手探り。貯めた利益で1店舗ずつ増やし、いまでは15店舗を展開する(取材時)。茶木さんは地元、船橋の住人だが、とくに関係があったわけではない。就職することになったのは、たまたま両者を引き合わせる人があったからにすぎない。 本店は船橋駅前にある。JRと東武線のターミナル駅だが、新しい商業施設と昔ながらの商店街が共存するエリア。1フロア50坪、合計100坪の店舗は、ロフト的感覚のある独特の空間だ。「3年勤めた僕だって、ここはやっぱり変だよなと思いますから。段ボールが似合いそうな、昔の本屋さんの匂いがある」と茶木さんも話す。 着任以来、茶木さんはいろんなヘンテコなことをやってきた。たとえば、2002年のクリスマスには、「返品保障つき!サイン会」。これは「このミス大賞」の金賞を受賞した浅倉卓弥『四日間の奇蹟』を、「読んで面白くなかったら、100人に限り本の代金を全額お返しします」ということでサイン会をやったのである。 「返品保障というのは例がないわけじゃないけど、サイン会で、しかもクリスマスにというのはたぶん世界初。うちの社長と専務は、日本初、世界初という言葉に弱くって。提案したら即座に『よし、やろう!』って」と茶木さんは言う。 そのほか、早朝からコミックを販売したり、店先でマイクを持って雑誌の創刊号を売ったり。スタッフが選ぶ『夏の文庫100冊!公式ガイドブック』は2005年で3年目になった。パソコンで印字してコピーして綴じた、手作り感溢れる力作である。 ミステリーはあまりに拡散してしまった ところで、茶木さんが書店現場に復帰するというと、誰もがミステリー専門店をつくるのだろうと思った。ところが違った。たしかにミステリーの品ぞろえはピカイチだが、ときわ書房は専門店ではない。なぜ専門店にしなかったのかということに絡ませつつ、ミステリーの現代史を語ってもらった。 「書店に復帰するという時点で、僕自身、ミステリー専門店をやる気はなかった。ミステリーがあまりに拡散してしまったから。僕が深夜プラス1を始めたのが1986年。当時が右肩上がりだったとすると、いまはバブル崩壊みたいな状況なんですね。なんでもかんでも面白ければミステリー扱いしている。それは僕らがやったことの結果でもある。たとえば『影武者徳川家康』や『透明人間の告白』や『リプレイ』がミステリーのベストテンに入ってくる。昔なら時代小説やファンタジー、SFとして扱われていた作品です。それをミステリーとして取り込んできた。その結果、エンタテインメントの9割はミステリーという実態を僕たちはつくりあげてしまった」 20年前、ミステリーは日陰者だった。要するに、あまり売れなかった。売れなかったけれども、一部の人を強烈に惹きつける力はあって、惹きつけられた人々に被差別意識と選民意識の混じった奇妙な自意識をもたらすことにもなった。 「深夜プラス1ができたことは、ミステリーといえば西村京太郎さん、赤川次郎さん、内田康夫さん、要するにノベルス新書の全盛時代で圧倒的に売れていた。一方、大沢在昌さんや志水辰夫さん、北方謙三さんなんか全然売れなかった。だからこそそういうものを中心にそろえていって、石が沈んで木の葉が浮かぶ時代を逆転して、やっと真っ当になった。真っ当になったらなったで、みんなベストセラー作家。どこでも浮くんですよ。昔は本当に売れるべき作家が売れなかったからこそ、専門店をやる意味があったし、やりがいもあった」 逢坂剛の『カディスの赤い星』は、初版わずか7000部だった。茶木さんの深夜プラス1は、これを100冊仕入れた。飯田橋のたった18.5坪の店が100冊というのも見事だが、それを売り切った。逢坂は直木賞を受賞し、ベストセラー作家になった。 「そういうふうに売っていく快感というのが、いまはないですよね」と茶木さんは言う。 絶対に負けない分野をつくる 茶木さんの深夜プラス1のつくり方で特徴的なことがふたつあった。ひとつは「ないものはない」。これはミステリーならなんでもある、ということであると同時に、置かないものは断固として置かないということ。もうひとつは、ミステリー専門店を名乗りながらも、大人向けのコミックとエロ本はしっかり置いていたこと。言い換えると、ミステリーを好むような大人の書店という、客層で切った専門店だったことである。 「深夜プラス1で培ったものは、ときわ書房でもすごく役に立ちました。まず何をそろえるかではなくて、何を切るかから始めた。どういう本屋さんにしたいかというと、本の好きな人が真っ先に覗いてくれる本屋さんにしたい。どういう人が活字好きかというと、面白い本を常に探している人。この本を探しに来るという目的買いじゃなくて、『何か面白い新刊は出てないかな』と本屋さんを3日に1度くらいは必ず覗くような人。そういう人が使ってくれる店にしたかった。ではそこで何を切ろうかといったときに、半端にあった児童書を切る、学参を切る、人文書を切る。どんどん切っていって、絶対に負けない分野をまずつくろうと考えた」 6年ぶりで書店に帰ってみると、ミステリーの現場は少し変わっていた。売れる文芸書の6、7割が広義のミステリー、つまり一部の時代小説やSF,ファンタジーも含めたミステリーになっていた。ところが茶木さんが復帰してしばらくすると、『世界の中心で、愛をさけぶ』を筆頭とする泣ける小説の大ブームがやってきる。そうなると、宮部みゆきら一部の作家は別格として、ミステリーはいまひとつ伸びが悪い。 もうひとつの傾向は、翻訳ミステリーが減っていること。ヒットが出なくなっているのと同時に、出版点数も減少気味だ。 「深夜プラス1時代から『隠し玉ってないですか?』ってよく聞かれます。これから伸びそうな作家さんですね。たとえば浅田次郎さんは極道ものを書いているときはさほど売れなかった。『鉄道員』が出るまでは隠し玉だった。ところが今は売れない時期があまりなくなってきているんです。伊坂幸太郎さんにしても、隠し玉にしておけたのは2年もないですよね」 書店員が惚れ込んで、でも世間ではイマイチ売れていなくて、そのことに義憤のようなものを感じて、客に「これ、すっごく面白いですよ」と熱っぽくすすめる対象となるような作家、作品が減っている。もちろん個々の作家にとっては歓迎すべきことなのだろうが、言い換えるとそれは、ミステリーを取り巻く情報環境が変わったということ。『本の雑誌』や『ダ・ヴィンチ』があり、さらにはインターネットでいくらでも情報が手に入る。もっといえば、茶木さんが中心となってきた『このミステリーがすごい!』、通称『このミス』の功罪もあるだろう。 「ありますね。『このミス』のランキングに入ると読者は注目するし、そうなれば当然、編集者も注目する。作家にとっては書く機会が増える」 おすすめして絶対外れがない翻訳ミステリー ――さて、ここからはときわ書房のミステリー定番リストについてうかがいます。国内作家のものは除外して、翻訳ミステリーに絞ったものをつくっていただきました。 茶木 これは選んだ日の気分も入っています(笑)。でも僕が「何か面白い本はありませんか?」って聞かれたときに、おすすめして絶対に外れがないという意味であげました。 ――『葉と爪』は返金保障小説で一部袋とじですね。でも茶木さんが『四日間の奇蹟』でやったみたいに、書店が返金(厳密に言うと、あのときは茶木さん個人が返金でしたけど)するのではなく、出版社が返金してくれるという本です。 茶木 日本で出ているミステリーでいまも封をしてあるというのは、もう『葉と爪』ぐらいしかありません。返金保障というのをずっと頑なに守り通している東京創元社も偉い。ずっと売れているんですよ。でも案外、お客さんは知らないんじゃないかな。「返金保障?何、それ」って感じで。 ――クライマックスのところから袋とじになっていて、そこを破っちゃうと返金の対象にはならない。でも読んでいくと絶対に破らずにはいられないし、出版社も破らせる自信があるから返金保障なんですね。 茶木 いま普通の本で袋とじなんてないですからね。雑誌ではいくらでもあるんだけど。 ――『クリスマスのフロスト』はオッサン刑事が活躍しますね。それも、いま流行のちょい不良オヤジじゃなくて、ただの汚くて下品なオッサン刑事。でも、そこがグッときます。 茶木 この定番書リストでは、シリーズものは第1作目を上げるようにしました。フロストシリーズはいわゆる警察小説というよりも、僕にいわせると「ワーカホリックなおじさん小説」。働くおニイさんもおネエさんも、仕事に疲れたらフロストだよ、とすすめたい。こんなに働いて、しかもあんまりいいことないけど、でもしっかり仕事する。コロンボのめちゃくちゃ働くバージョンですね。フロストは下ネタ好きで、汚くて、デブで、下品で。そういうキャラって昔からあるんですけど、そのなかでもミステリー的にいっても面白いし、疲れたときに読むと元気がでますよ。フロストがこんなに働いている。それに比べるとオレはまだまだだよな、と。 ――加齢臭の漂う小説ですね。『ストリート・キッズ』のニール君は、フロストと対照的かも。若くてかっこよくて、でもひねくれているところは共通している。 茶木 青春小説とミステリーがうまくとけ込んだ小説で何か1冊といったらこれ。 ――孤児が幼いときからスパイ教育を受けてっていう設定にわくわくしましたね。家捜しをするとき、イメージのなかで空間を切り取って、順番に探していくんだなんていう話は、自分でも失せ物を探すときに応用しています。『真夜中の死線』はまだ読んでいないんですが、どういう小説ですか。 茶木 個人的にすごく好きです。デッドリミット型のサスペンスって大好きなんですよ。決められた時間以内に何かをなしとげないといけないっていうのが。さらにそこに死刑が絡むのが、デッドリミット型のなかでも僕にとってはもっとも好ましいタイプ。死刑執行が迫るなか、冤罪をはらして、つまり真犯人を見つけてひっくり返さなければならない。この小説のタイムリミットは24時間もない。それまでは48時間というのがいちばん短かったんだけど、それよりもはるかに短い。 ――刑事ものですか。 茶木 主人公は新聞記者。ところがとんでもないだめ男なんですよ。女には手が早いし。しかも正義感で真犯人を捜すわけではないんです。なんとか手柄を立てて、新聞社内で出世しようという動機。 ――おやおや、よこしまな。 茶木 そう、よこしまなの。でも、もともと仕事はすごくできる人間で、それなりの矜持ももっていればジャーナリストとしての信義もある男ですから。事件を追いかけはじめたら、真相を探るまではあきらめない。僕のいちばん好きなパターンなんですけどね。死刑の是非論なんかも出てくる。リーガルサスペンスが流行ったころ、死刑の是非についてもよく出てきたんだけど、たいていどこかうさんくさいんですよ。どっちの立場に身を置いても、作家自身の主義主張が筆のどこかに入ってしまう。でもこの『真夜中の死線』はニュートラルな立場で、「そもそも死刑って何なんだろう?」と考えさせてくれる。 ミステリーとハードボイルドがうまく融合 ――ロス・マクは『さむけ』ですか。 茶木 このリストにはあえてハメットもチャンドラーも入れなかったんですが、ロス・マクだけは入れた。なぜかというと、ミステリーのあるべき姿って、方向性がふたつあるんです。ひとつは、ミステリーは時代を映す鏡だという考え方。ハードボイルドなんかがとくにそうです。もうひとつは、ミステリーは驚愕の文学だという考え方。その両方を融合させたものが僕の理想とすべきミステリーです。このリストのなかでは、クックなんかもそうですね。時代性もありながら、謎解き小説としてもびっくりさせる。クリスティーとかクイーンとかカーとかっていう古典も、昔から大好きなんですけど、なんで好きなのかというと、やっぱり驚くからです。読んでいてびっくりする。なかでも『さむけ』は、ロス・マクのなかでもミステリーとハードボイルドがいちばんうまく融合している。 ――ディック・フランシスは『興奮』。茶木さんに初めて会った十数年前、誰がいちばん好きですかと聞いたら、ディック・フランシスと答えた。それで、「じゃあ、競馬もお好きなんですね」と言うと、「ほら、みんなすぐそう言うんだから」と笑ってました。 茶木 そう。僕は競馬をやらないから。ギャンブルは好きなのに。フランシスも『大穴』とか『血統』とか『利腕』とか、『興奮』より好きな作品がいろいろあるんですけど、これを選びました。彼の主人公は1作ごとバラバラですから、どれから読んでもいいんですけど、でも番号順に読んでいく人が多いでしょう。僕はたまたま『興奮』から読んだので、これを選びました。 ――なんで1作1作主人公が違うんだろうと思っていたんですが、ひとりの主人公でシリーズにした人は、たいてい途中でつまらなくなる。フランシスはそういうことがわかっていたんでしょうね。 茶木 同じ主人公でも良さそうな話って結構あるんです。実際、同じキャラを2、3度使っていますから。ただ、あれってある種のキャラクター、言ってみたら萌え小説みたいなもの。主人公にどれだけ感情移入したり、あこがれをもつかというところから、常に違うキャラクターを立てていきたかったということがあるんじゃないかと思う。原型はみな同じような男たちだから、似たようなキャラクターがいっぱいあるんですよ。僕はディック・フランシスがどんどん忘れられた作家になっていくのがいやなんですよね。たしかに、後半、だめな時代も続いていましたけど。いまディック・フランシスが書店の棚から消えていっている。そういう意味でもぜひ入れておきたい。 ――リューインは『刑事の誇り』ですね。 茶木 警察小説のなかで1冊といわれると、『刑事の誇り』かな。渋い男。こういう男ってすごくみんなから嫌われるだろうけど。刑事って私立探偵と違って、組織のなかで生きるじゃないですか。組織のなかで誇りをもって生きている。だけどまわりからは誤解されている部分があって。本当に知っているやつはめちゃくちゃ信頼するけど。 ――『静寂の叫び』はどんな小説ですか。 茶木 こういういい方が適切かどうかわからないけど、聾唖(ろうあ)ミステリーとして最高傑作。ディーヴァーって、小説でしかできない仕掛け、いわゆる騙(かた)りのテクニックがすごい。読みはじめたときは、まさかあんな状況だって絶対にわからない。ある状況が描写されているとき、読者は逆の立場だと思って読んでしまう。ところがこれが逆転する。映画だとできない、小説だからこそできる騙りのテクニックっていうのを十全に発揮しはじめたのが『静寂の叫び』なんですけれども。 ――『五輪の薔薇』は長い作品ですね。 茶木 休みのときに何を読むかというと、これがいい。長尺もので面白くて、次から次へとページを繰らせることが起きるから、読みおわるまでやめられない。続きが読みたいっていう小説って、昔は結構ありましたよね。初めて『竜馬がゆく』の1巻目を読んだとき、「この続きはどうなっているんだ。なんでまとめて買わなかったんだ」と思いましたけど。本屋が開くまでずっと待っていたり。そういう気持ちをもう一回味わうとしたら、『五輪の薔薇』なんていいんじゃないかなという気がしますね。 ――『リプレイ』はSF的な小説ですね。広義のミステリーということになりますか。 茶木 僕は究極の願望充足小説と捉えているんですけど。SF的設定を借りて、そこにリアリティを吹き込んで、いまの現代のなかでどういう物語の展開が起こりうるのか、という小説です。魂だけが若い肉体に蘇るというのは究極の願望ですよ。いまの経験と知識をもっている20代の自分がいるんですから。しかも、これから先の世の中の動きが全部わかる。株でいくらでも儲けられる。競馬をやっているやつだったらすごいですよね。この年のダービーはどの馬が勝つかわかっているわけですから。ところが最後、人生は一回だからすばらしい、と思わせるのが素晴らしいんですよ。 ――『闇よ、我が手を取りたまえ』も読んだことがありません。 茶木 ハードボイルドにはチャンドラー派とハメット派があります。いっとき流行した暗黒小説、ノワールは、ハメットの流れから出てきていると思います。エルロイのまったく内面を描写しない叩きつけるような文体にしても、遡っていけばハメットやジェイムズ・M・ケインに結びつく。でも、僕はチャンドラーが好きなんですね。なんでかというと、叙情性、リリシズム、絢爛な比喩。時代は殺伐としているから、ノワール方面が受け入れられるのもわかりますが。この作家はチャンドラー直系です。チャンドラー→ローレンス・ブロック→デニス・レヘインと受け継がれる。チャンドリアンとしては貴重なチャンドラーの血統を受け継ぐ若手。映画もヒットした『ミスティック・リバー』の作者です。 ――『殺人症候群』はどうですか。 茶木 リチャード・ニーリィはどんでん返しの作家です。折原一さんが傾倒している叙述のトリックの名手。読んだ人はみんなびっくりします。トリックには二種類あって、犯人が仕掛けるトリックと、作家が読者に仕掛けるトリックがある。これは作家が仕掛けるトリックなんですね。それまでの世界を全部ひっくり返して「えっ?」と言わせる。土俵際の大どんでん返しです。ちゃぶ台をいきなりひっくり返された気分。しかもちゃぶ台にのっている料理が豪華なものですから、普通に食べてもおいしいんですよ。まさかひっくり返してしまうと思っていないから。普通の小説としての面白さにどっぷり浸り込んでいるのに、ドカンとひっくり返される。びっくりしますよ。 ――『シンプル・プラン』もヒットしました。 茶木 ほんとに単純な話なんですよ。物語の出だしと結末を言うと、どうやったらそんな話になるの、と思うような。途中で何十人と死んでいく。物語の最初を考えると、そんな結末は予想もつかない。ところがどんどんのっぴきならない状況に追い込まれていく。いちばんのポイントは、僕が主人公でも、たぶん同じことをしただろうと思わせるところです。オレだって一歩間違って最初の殺人にいたったら、あとはこうするしかないだろう、と。運命の悪循環ミステリー。散歩してて犬が駆け出すところから始まる。そこからとんでもない話になる。あのとき犬が駆け出さなければよかったのに、と思います。 ――『隣の家の少女』は、ちょっといやな小説と言われます。 茶木 読み終わったあと、絶対、二度と触りたくないと思うもの(笑)。こういう小説を書評で取り上げたり褒めたりするのはいかがなものか、というくらい唾棄すべき小説。後味が悪い小説はいっぱいありますけど、そんな次元ではなくて、僕は壁に投げつけましたよ。許せないな。「よくこういうひどい話を書くなよ」と思いました。 ――なのにリストに入っている。 茶木 ところが、ずっと残っているんですよ。いまだに『隣の家の少女』というと、ああいやだ、二度と読みたくない、と思う。でも、こういう気持ちを読書のなかにずっと残させるというのはすごい作品だなあとあらためて思います。こういういやな気持ちはぜひ皆さんにも味わってもらいたい(笑)。少女監禁の話なんですけど、それがとんでもないシロモノで。読んでいて何の救いもない。 ――番外にもってきた『夜明けの睡魔』は、小説ではなくて評論ですね。 茶木 これからミステリーを読んでみたいという人はぜひ読んでいただきたい。これくらい本について面白そうに書ける才能はすごいと思います。実際に読んでみるとそれほどでもない小説も結構あるんですけどね(笑)。それでも、こういう読み方もあるのか、とすごく勉強になりますね。 ときわ書房本店定番の翻訳ミステリー 歯と爪 ビル・S・バリンジャー 創元推理文庫 ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫 北壁の死闘 ボブ・ラングレー 創元推理文庫 さむけ ロス・マクドナルド ハヤカワ文庫 あなたに似た人 ロアルド・ダール ハヤカワ文庫 クリスマスのフロスト R・D・ウィングフィールド 創元推理文庫 真夜中の死線 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