ひとりごと 17・気が付いたら、“ひとりごと”をつぶやかなくなって、5ヶ月が過ぎていた。
3歩進んで2歩半下がるような、そんな日々が続いているが、なんとか現在もこの仕事を続けている。諦めに身をゆだねれば、あっという間に堕ちていけるほど暗い話題にあふれたこの業界。自分のできることを手の届くところから順番に進めていく――それしか生き抜いていく方法はないわけで。まあ、そんなこんなで青息吐息ではあるが、またぶつぶつと“ひとりごと”をつぶやいていこうと思えるところまで、なんとか戻ってまいりました。今度こそ、間を空けないようにしなくては!――なんて気負いすぎるとまた潰れるので、力は抜いて手は抜かず、ほてほてと進めていくとしよう。
 さて、これは以前に別の場所でも書いたことだが、みなさま最近、書籍のオビ、POP、パネル、雑誌や新聞などで、書店員のコメントや名前を見かけることが多くなったかと思う。ワタクシも芸も才もないくせに、うっかりお声が掛かりましたなら、恥ずかしげもなく駄文を投じたりしているわけだが、そこには「この作品を読んで欲しい!」という強い思いとともに、ときわ書房本店をひとりでも多くの方々に知っていただきたいという(ひとによっては“いやらしい”と感じるかもしれない)気持ちもあったりする。
 当店は昭和40年から船橋で商いをしているが、それでも都心にそびえる有名な大書店ほどの知名度は、当然ない。いまだにお客様のなかには、「こんな店あったんだ〜」「初めて入ったここ〜」と、おっしゃる方もいるくらいで、そういう声を耳にするたびに「ああ売り場を良くすることも大事だが、この店を知ってもらうことも大事だな」と思うようになり、前述のような気持ちが生まれたわけである。ただし、念のためいっておくが、お声をいただいても「読んで欲しい!」と思えなかった場合は、ちゃんとお断りしてますからね。まるで節操なくオススメしているように勘違いされがちなんで……。
 とはいえ、確かに近頃、書店員のコメントや名前の露出が多すぎるというのは、指摘されるまでもなく、ワタクシ自身感じているし、同じ思い、あるいは嫌悪感を抱いている同業者も多いと思う(書店員が、こうした書店員のコメントを、すべからく信用歓迎しているわけではない。誤解している向きもあるようなので念のため)。正直、書店員のコメントや名前を使うことで話題になった時期は、もう終わっているだろう。いや、むしろ状況はもっと悪く、書店員のコメントや名前の載っている本なんか買わない――そんなひともいるのが、“いま”かもしれない。なので、たとえば「乱発による信頼の喪失を招いた一因はオマエみたいな奴がいるからだ!」と糾弾されたなら、それはもうゴメンナサイと平伏するしかなく、もし書店員が口を閉ざすことで、ひとりでも多くのひとによき本との出会いが訪れ、本の真価に気付いていただけ、わずかでも心豊かになっていただけるなら、喜んで口を閉ざして顔を伏せましょう――という覚悟は、常に心に宿しているつもりだ。
 書店員なんてもんは黙って本だけ売ってりゃいい――そう思っている(読者同業者を問わず)多くのひとから、書店員のコメントや名前が出るたびに、これからも厳しい意見が浴びせられることだろう。では、どうするべきか? 自分のできることを手の届くところから順番に進めていく――やはり、これしかない。「読んで欲しい!」と思った作品には誠意と熱意を込めたコメントを。そして、もし厳しい意見を持ったひとが店を訪れてくれたときには、「ま、コイツなら信用してもいいかな」と思ってもらえるような売り場を作っていくことしかないのだろう。
 今回は、この辺で。
 明日は、あるお方がご来店予定。サイン本を作ってもらっちゃうよ! ヒントは、スパイ、ゲーム、D機関。さあ、どなたかわかるかな?(9月4日)
16・現在は文庫書き下ろしの時代小説を続々と上梓されている小杉健治さんだが、作家活動の初期の頃には優れた法廷ミステリをいくつも発表されていた。そんな小杉さんの法廷ミステリの代表作ともいうべき、『絆』(集英社文庫)をご存知だろうか? 1987年に刊行されるや、第41回日本推理作家協会賞を受賞し、当時の直木賞の候補にもなった傑作なのだが、2月に集英社さんからの依頼で、この作品にワタクシのコメントが入ったオビを付けて1万部重版し、出荷したところ、大変好評を賜りまして、さらに1万……2万……と重版が続き、おかげさまで4月に入り、ついに10万部の報せが。ありがたや。
 ちなみに当店でも2月16日からドドンと積んで展開しているが、いま現在150冊を突破して、新刊・話題作に負けない勢いで売れ続けておりますので、ぜひご来店の際にはお手に取ってみてくださいませ〜。なんたって、「このミス」1位にもなった、あの作品とあの作品が備えていたうまみが1冊に詰まっていて――といわれれば、どんなものか読んでみたくなるでしょ?(笑)一読を乞う次第、後悔はさせません!(4月4日)
15“明暗”の感じ方などというものは、ひとそれぞれ。だが、おそらく日々の暮らしというものは、光のなかで影を感じるより、暗がりを心もとない明かりで照らす――そんなことのほうが多いようで。まあ、なにがいいたいかといえば、当欄を2ヶ月も停滞させていたのは、“心もとない明かり”よりも“暗がり”のほうが勝っていたから……とでも思っていただきたく。さ、山盛りのろくでもないことは、ひとまず忘れるとしよう。
当社ホームページをご覧の方はお気付きかと思うが、なんと4月27日(日)14時から、本店入口にて、トクマ・ノベルズEdgeの人気シリーズ「ヤングガン・カルナバル」第10弾にして第2部完結編『ヤングガン・カルナバル 後夜祭・ラストマンスタンディング』の発売を記念し、深見真さんのサイン会を行なうこととなった。
 これには正直、ワタクシ自身が驚いていて――というのも、「ヤングガン・カルナバル」(以下YGC)第8弾刊行のときから、某場所にて深見さんにお目にかかったのが縁で、当店にてYGC新刊サイン本を販売させていただいていたのだが、4月23日発売予定の『YGC 後夜祭・ラストマンスタンディング』も、当初は“サイン会”ではなく、これまでのように“サイン本販売”という形になるはずであった(そもそもイベントできるほど店も大きくないしネ)。ところが、である。当店で〈ヤングガン・フェスタ〉と称して1年以上続けてきたYGC全点フェアが、思わぬ好成績――ワンフロア35坪程度の店で累計700冊に迫る数を叩き出し、徳間書店さんからの「せっかくこれだけ売ってんだからサイン会やりましょうよ〜」という無謀なお言葉に、お祭り大好きな当社がまさか断るわけもなく、あれよあれよという間にサイン会開催決定となったのであった。
 さて、ここで当店をご利用されたことのあるお客様が、誰しもきっと思うであろうことについて言及しましょうか――「え、あの狭い店のどこでサインすんのよ?」という当然の疑問について(笑)。今回の深見さんのサイン会は“ツアー”になっており、神奈川、千葉、東京の順に行なわれるのだが、もうね、神奈川・東京の会場に比べると、笑っちゃうくらいウチだけぶっちぎりでフツーの“街の本屋”なんだな〜これが。200人全員を店内に並ばせるなんて、当然ムリな話しなわけで。「じゃあ、どうすんのよ?」といわれれば、お客様には25人ずつ15分間隔という時間差で並んでいただき、入口の横に机をよっこらしょと出して深見さんにはサインしていただく強行策を予定。深見さんの今後の作家人生のなかでも、これだけミニマムで庶民的な、いろんな意味で忘れがたいサイン会もないと思うので(笑)、深見さんの記憶に大口径ライフル弾のごとき巨きな弾痕を残すであろうそんな機会に参加したい方は、ぜひぜひ当店へ。JR船橋駅南口(京成が通っているほうです)を出てすぐ眼の前ですからね。うっかり北口に出てしまい、「店が見つからないよ〜(泣)」というお問い合わせが多いのでくれぐれもご注意を。と、こう書いているそばから、店頭、電話ともに参加申し込みがドシドシ来てますので、絶対にサイン会に参加したい方は、お早めに!
 あ、ちなみに当店に来ると、“青春殺手”の文字がカッコイイYGC台湾版ポスター(もちろんホンモノ)が見れますよ。あと、ドラマCD第4弾『YGC ガールファイト』の予約も大好評受付中ですので、併せてよろしくお願い致します〜。(4月3日)
14・ご存知「酒飲み書店員」――通称“千葉会”とは、千葉周辺の酔いどれ書店員たちによる集まりなのだが、以前から水面下で着々と準備が進められていた“酒飲み書店員京都支部”が、ついに本格的に動き出すこととなったのでご報告。
 前回の「酒飲み書店員大賞」にも参加してくれた、恵文社バンビオ店Oさん、三省堂書店京都駅店Nさんが中心となり、会の名前は“水無月会”と銘々。というのも、京都版「酒飲み書店員大賞」である「京都水無月大賞」は、その名のとおり6月に大賞が決まるためで、今月から千葉と同じ選考方法を経て選んでいくのだそうな。千葉よりも女性率の高い書店員たちが、いったいどんな作品を選ぶのか、ワタクシも大いに楽しみ。
 なお、1〜6月まで、出版業界紙「新文化」の書店員コラム「レジから檄」にて、Nさんによる大賞決定までの実況中継が読めますので、業界関係者はチェック。もちろん当欄でも中継しますので、みなさまどうぞよろしく。
 そうそう、じつは集英社さんが作ってくださったロゴマークが「酒飲み書店員」にはあるのだが(活用してなくてスマン!)、京都でも独自のロゴマークを作成。先日、東京に来ていたNさんにチラっと見せていただいたのだが、これがとっても素敵なロゴで(いまお見せできないのが残念!)、こちらもまたどんなものか楽しみにしていただきたい。
 ちなみにわれわれの方の今年の予定だが、第4回の前に、「文庫スター誕生!」の第2回を開催予定。前回惜しくもグランドチャンピオンを逃した、角川書店H氏のリベンジなるか?(笑)…………と、その前に、本屋大賞がございましたね。早く2次投票を済ませないと。(08年2月4日)
13・昨年暮れに、当社聖蹟桜ヶ丘店が“オトナの事情”で撤退を余儀なくされ、1月15日をもって閉店するという、なんとも気力体力ともに消耗する1ヵ月が過ぎ、何歳か老いた気さえしている今日この頃。ようやく08年最初の「ひとり言」である。
 今年も、どうぞよろしく。今度こそ、ちゃんと週1回は更新しますんで……。
 さて、何から話そうか。
 そうそう、某日、新刊『ラットマン』(光文社)を上梓されたばかりの道尾秀介さんがご来店。
 今回、光文社さんが販促用に作られた小冊子とパネルに、ワタクシのコメントを使っていただいたご縁で、わざわざ船橋まで来てくださったのだ。ありがたや。
 ジャンルとしての“ミステリ”に真正面から挑むのではなく、“ミステリ”の手法を用いて「道尾秀介式物語り」とでも呼ぶべき独特の世界観と仕掛けによって、読者をアッと驚かせる道尾さんだが、新刊『ラットマン』は、まさしくその「道尾秀介式物語り」の最高傑作! 早くも年間ベストテンにランクイン確実な作品が登場したといっても過言ではない。終盤で、過去と現在の事件の様相が様々に変化し、ついに衝撃の真実が明らかになる瞬間は、だれしも思わず声を上げてしまうことだろう。さすがだ!
 道尾さんには、過去に鮎川哲也賞授賞式などでお目にかかったことはあるのだが、あらためて観察すると、静かなたたずまいに知性を漂わせたクールな印象。さらりさらりとサインをしながら、ワタクシのくだらん話しに時折笑みを浮かべつつ、あらあら、たちまちサイン本の山が完成――と、ここで当店スタッフがバタバタと事務所へ駆け込んできて、「お客様がサイン本をお待ちになってます!」というから、道尾さん、光文社の方々、ワタクシなどなどビックリ仰天! これは絶対に道尾さんからお客様に手渡しするべきだ! ということになり、いそいそとフロアへ。道尾さんからサイン入り『ラットマン』を直接手渡されたお客様はもちろん、道尾さんも「自分の本が買われていくのを目の前で見るのは、これが初めて」と喜んでいただき、一同よかったよかったと満足気にうなずくのであった。
 というわけで、いま売場にはサイン入り『ラットマン』が並んでますが、大変売れ行き好調のため、すぐなくなってしまったらゴメンナサイ。欲しい方は、お急ぎを!(08年1月29日)
12・しばらく間を空けてしまった。が、その時間を使って、これまで駄文をつづってきた新聞での活動の数年間を俯瞰して見ることができたし、新聞連載を終えたことについて、予想以上に多くの方々から、様々なご意見を頂戴し、大変感謝しております。
 ありがたいお言葉も、悪意にまみれたののしりも、それぞれに受けつつ、またポツポツと文章をつづってみます。よかったら、どうぞお付き合いを。
 さて、第5回本屋大賞の1次投票が始まり、エントリーしている書店員は11月末日までの1年間に刊行された国内文芸作品から3作品を選んで投票せねばならない。とりあえず、11月の時点で2作品――近藤史恵さん『サクリファイス』(新潮社)、金城一紀さん『映画篇』(集英社)は、すでに決めていた。あと1作……。ワタクシ、じつはある作品を刊行前から「有力候補になるのでは」と狙っていたのだが、ついにその作品が刊行され、むさぼるように読了するや、もうなんともいえぬ、大傑作を読んだときにしか得られない満ち足りた気分で、「絶対これが1位!」と叫んでしまった。その作品こそ、伊坂幸太郎さん2年ぶりの書き下ろし長編『ゴールデンスランバー』(新潮社)である。
 キルオ(=切る男)と呼ばれる連続刺殺魔が出没したことをきっかけに、“セキュリティポッド”なる情報収集端末による監視システムが導入された仙台。新首相の凱旋パレードが盛大に行なわれるなか、爆弾を仕掛けたラジコンヘリコプターが飛来し、首相を爆殺。その直前に旧友から、「逃げろ! オズワルドにされるぞ」といわれた元宅配便ドライバー――青柳雅春は、まさしく言葉のとおりに、瞬く間に首相暗殺犯に仕立てられ、追われる身となってしまう。いったいだれが? なぜ自分なのか? 理由も分からぬまま、監視の眼が光る街で、青柳は孤独な逃亡を開始する――。
 伊坂幸太郎さんほど、「一番好きな伊坂作品は?」という質問で、上がってくる作品がバラバラな書き手も珍しい。ちなみに私の一番は、『重力ピエロ』……だった。そうなのだ、なんと、「だった」のである。つまり、超えてしまったのだ、この『ゴールデンスランバー』が“私の一番”を! それほどの大傑作――最高傑作なのだ。
 まずケネディ暗殺をモデルにした事件の全体を、「事件のはじまり」、「事件の視聴者」、「事件から二十年後」の3章で俯瞰することにより、大衆の揺るぎやすさを描くことで、のちに中心となる人物たちの揺るぎない強さを明確にする描き方が素晴らしい。そして、カバーに記された本作の英題が『A MEMORY』とあるように、学生時代の思い出、別れた恋人、辞めた職場の先輩などが忘れがたいエピソードとして登場するのだが、すでに終わり、とっくにつながりもなくなったと思っていたそれらが、じつはまだつながっていて、いまの自分を支えていることを実感していく瞬間のひとつひとつの小さな感動が、さりげなく書かれたささいなことと絡み合って絶妙な伏線となり、つぎつぎと回収されていく見事さは、絶対に読み逃すべきではない。できれば読む前とあとにビートルズのアルバム「アビーロード」をお聴きいただくと、より作品に愛着がわくぞ(時間がなければ「GOLDEN SLUMBERS」だけでもOK)。
今年あと1冊なにか読みたい、あるいは新年1冊目はなにを読もうかと迷っている方、ワタクシ自信満々で『ゴールデンスランバー』をオススメするので、ぜひ。
 本屋大賞は、第1位『ゴールデンスランバー』、第2位『映画篇』、第3位『サクリファイス』で票を投じる。さて、結果やいかに?
 最後に、店頭にて伊坂さんが書いてくださった直筆POPを展示中。お買い求めの際に、どうぞご覧くださいませ〜。
11・この「本店文芸担当のひとりごと」は、これまで「船橋よみうり」というローカル新聞に週間売れ行きランキングとともに載せていた、「本屋さんのひとり言」の文章を再掲載してお届けしていたのだが、ある事情により、新聞連載を中止し、今回からこちらでのみ続けることとなった。ちなみに、その“ある事情”とは、なんぞや? という方のために、「本屋さんのひとり言」最終回(11月17日)を以下に載せておこう。
 まずは先週(11/10)の当欄に、10月27日掲載済の文章が、ふたたび載ってしまった件について。念のためお断りしておくが、私はある海外ミステリの傑作についての文章をしたため、いつもどおりにお渡ししたゆえ、みなさま「原稿落としやがったな」「こりゃ穴埋めだな」などと、くれぐれも邪推なさらぬように。さて、振り返れば、もうずいぶんと長い期間、毎週毎週この欄で「ひとり言」をつぶやいてきた。ひとりの人間が同じことを続けるのも、才能や芸があれば味わいも出るだろうが、無能な者がやればマンネリという無様このうえないものに堕してしまう。もちろん私には才も芸もない。無様を承知で、これまでお眼汚しを続けてきたが、今回こういった事故が起きてしまったのも、つまりは代わり映えのない――だれも違いに気が付かないような駄文を連ね、マンネリに陥った結果であると猛省している。というわけで、これ以上醜態をさらし続けるほど私も無神経ではないので、今回をもって当欄には幕を引かせていただこうと思う。永い間のご愛読に感謝。うんざりさせてしまってゴメンナサイ。では、閉幕。
 というわけで、本来載るべき原稿は、当欄の10.だったのだが、どういうわけか8.の文章がまたもや掲載されてしまう底抜け珍事が発生。過去にもこの新聞では誤字、あるいは同じ行が繰り返してしまっているなどのミスはあったのだが、今回ばかりは、なんだかもう哀しくなってしまいましてね……つまりこれって、編集部のだれも眼を通してなくて、確認すらされてなかったわけじゃない? 見るのもイヤだったのか俺の文章は(笑)。そんなにつまらなかったですかどうもスミマセンねブリブリブ〜。というわけで、上のような最終回の文章となり、こちらで続けることと相成ったわけである。
 一応、当欄は新聞のときと同じように、週1回程度で更新していくつもりである。仮に、だ〜れも読んでなくても、会社から書くようにいわれている身ゆえ(サラリーマンだからね)、大海原に小石を放るがごとく、“ひとりごと”をとつとつとつぶやいていこうと思うので、おヒマでしたらお付き合いを。どうぞよろしく。
10・年末恒例ミステリランキングへの投票締切が迫るも、最終日ギリギリまで粘ったのにはわけがある。これを読まずば投票できまい、リンカーン・ライムシリーズ通算七作目となる、ジェフリー・ディーヴァー『ウォッチメイカー』(文藝春秋)の刊行を待っていたのだ。そして、早速読んでブッ飛んだ。なんという傑作か! もう文句なし。今年最高の海外ミステリは間違いなくこれだ。シリーズものはだんだん質が落ちていく――そんな定説はディーヴァーには当てはまらない。今回は時計や時間に執着を持つ連続殺人鬼“ウォッチメイカー”とライムの対決……と思いきや、物語はいくつものサプライズを経て、予想もしない形で進んでゆく。ディーヴァーは、どんでん返しの名手ゆえ、最後の最後まで何が起こるかまったく油断できないのは周知の通りだが、それにしてもこの展開は凄い(読んで驚け!)。しかもラストは、胸熱くなる温かな場面で締めくくられ、仕掛けに凝っただけの作品にはない忘れがたい読後感を与えてくれるのだ。もちろんワタクシ、ランキングには第1位で投票した。ミステリを読む愉しさ、醍醐味が、最高の形でここにあるぞ!
9・以前、当欄でもお知らせしたように、第3回酒飲み書店員大賞は、宮田珠己さん『東南アジア四次元日記』に決まったものの、出版社に在庫がないため展開できないという残念な結果となってしまった。が、われわれも落ち込んでばかりはいられない。それなら……と新企画、第1回「文庫スター誕生!」をこのたび立ち上げた。32歳のワタクシですらおぼろげな記憶しかないので、一応良い子のみんなのために説明しておくと、かつて「スター誕生!」というオーディション番組があったのね(欽ちゃんのギャグで「バンザ〜イ、無しよ」とか知らないかな?)。で、今回はその方式を踏襲し、出版社の営業さんに自社の隠れた傑作・名作を熱烈にプレゼンしてもらい、それをわれわれが審査して猛烈応援文庫を決めちゃおうという企画なのだ。そして先日、厳正なる審査により、ネビル・シュート『パイド・パイパー 自由への越境』(創元推理文庫)が、第1回グランドチャンピオンに決定した。老紳士と子どもたちが戦火をぬって祖国イギリスを目指す物語で描かれる、大人の意地とやさしさといったら……。胸を熱くする忘れがたい感動を保証する。ぜひ!

8・某日、第20回東京国際映画祭へ。日本ホラー小説大賞の歴代受賞作のなかでも“最恐”を誇る、貴志祐介さん『黒い家』(角川ホラー文庫)が、99年の森田芳光監督版に続いて、このたび韓国でも映画化され、来春の日本公開に先駆けて「特別招待作品」として上映されたので、拝見させていただいた。前評判の高さを裏切らぬ出来で、森田監督版よりも原作に忠実なうえに、画と音に漲る緊張感と、まるで客席に向かって突進してくるような――そんな熱量をはらんだ“恐怖”の演出には終始圧倒されっぱなしだった。ぜひみなさまもご覧になって、大いに震え上がることをオススメする(笑)。また、上映後には、なんとラッキーなことに貴志祐介さんに直接お目にかかることができ、映画について、小説について、そして完成間近という待望の新作巨編『新世界より』(講談社より発売予定)だけでなく、さらには先日文庫化されたばかりの日本推理作家協会賞受賞作『硝子のハンマー』(角川文庫)に続く本格ミステリの次回作について貴重なお話しを伺うことができた。新たな大傑作の登場まで、もうしばし待たれよ!

7・WEB本の雑誌をご覧になった方にはいまさらだが、千葉の酔いどれ書店員が決める「酒飲み書店員大賞」の第3回が決まったのでご報告。大賞は、宮田珠己さん『東南アジア四次元日記』(文春文庫プラス)に決定(拍手)……なのだが、文藝春秋に問い合わせたところ、現在すっかりさっぱり在庫はなく、今後重版の予定もないとのこと(泣)。「酒飲み書店員大賞」初の、決まったはいいが売り場で展開して応援することができない、まったく残念な結果と相成ってしまった。無念。もし古本屋や図書館で見かけたら、どうぞお手にとってみてくださいませ。10年勤めた会社を辞めて、宗教の名のもとにマジメに作られたヘンなもの(笑)を探して東南アジアを数ヶ月かけて旅した爆笑の記録なり。ところでみなさま、そもそも宮田珠己さんをご存知だろうか? 笑える旅行記を書いたかと思えば、2年間で世界の109のジェットコースターに乗ってみたり、各地の巨大仏を見て回ったり、ベトナムの不思議な盆栽「ホンノンボ」の謎を探ってみたり……一読あなたも宮田珠己(タマキング)のファン――タマキンガーになること請け合いだ!
6・今年、これまで小学館文庫で刊行してきた「千里眼」シリーズを、角川文庫に移してリニューアルスタートするや、物凄いハイペースで作品を連発し、ついにシリーズ累計500万部を突破した人気作家――松岡圭祐さん。にわかには信じられないほどの怒涛の刊行ペースで、もはや説明するまでもないが、最近は大変ご多忙であり、今後は執筆に専念するために、もうサイン会などのイベントはやらないという方針を固めていたのだそうな。ところが、なんとそんな松岡さんが、最後の書店サイン会を我がときわ書房でやってくださるというからビックリ仰天! しかも、当日寄せられた全員の質問に(作品についてのものに限る)公式ホームページsenrigan.netで回答してくれる&今後発表される作品に貴方の名前が登場する、という驚きの2大特典付きで! 10月19日(金)ときわ書房志津ステーションビル店にて18〜19時、そしてときわ書房八千代台店にて19時半〜20時半まで、2時間半かけて2ヶ所で行ないます。このラストチャンスをお見逃しなく。ああ、ワタクシの名前も使ってくれないかしらん?(笑)
5・某日、渋谷のホスト探偵団が活躍する『インディゴの夜』、『チョコレート・ビースト』(ともに東京創元社)で人気の加藤実秋さんが、約1年ぶりにご来店。今月連続TVドラマ化される最新作『モップガール』(小学館)が発売されたので、ご挨拶に来てくださったのだ。が、普通なら映像化を大いに喜ぶべきところ、われわれの表情はチト微妙かつ複雑なのであった。というのも、このドラマ版「モップガール」、確かに加藤さんの小説が原作なのだが、それはそれは脚色がビシバシ施してあり、設定から、ストーリーから、ぜ〜んぜん違う。しかも、その脚色が海外の某ドラマにまったくソックリで、ネットなどで「これってパクリじゃん。つーことは原作の加藤実秋がパクってるってこと?」みたいな文章が出る始末で、まったく腹立たしい限り! ここで断言しておくが、小説は某海外ドラマとは重なる部分などない、良質なミステリテイストの連作ユーモア小説である。一風変わった清掃会社でバイトを始めた、時代劇マニアの女の子が遭遇する事件の数々の面白さったらもう(笑)。加藤さん、早く続編書いてくださいね!
4・総合病院に立てこもった強盗と警視庁の敏腕交渉人の対決……と思いきや、予想を裏切る結末へ読者をいざなう、20万部突破の傑作サスペンス、五十嵐貴久さん『交渉人』(幻冬舎文庫)。単行本刊行から4年半、待望の続編『交渉人 遠野麻衣子・最後の事件』(幻冬舎)が、ついに発売された。都内各所で続発する爆弾事件。犯人の要求は、かつて2000人の死傷者を出した地下鉄爆破テロの首謀者であるカルト教団の教祖の釈放。警視庁との交渉役として犯人が指名したのは、いまは第一線を退いて広報課に勤める――前作で活躍した、あの遠野麻衣子だった。人質は東京都民。交渉が滞れば、いつまたどこで爆弾が爆発するか分からない最悪の条件下で、麻衣子は真犯人を暴き、爆弾を発見し、東京を救うことができるのか? 抜群の牽引力で読み手の眼を釘付けにする、まさに“巻置くあたわず”の内容。映像に負けない迫力の展開に、ぜひ手に汗握っていただきたい。フジテレビのポッドキャスティング「フジポッド」の「今日のきょう!」でも、ワタクシが本作をご紹介する予定なので、よろしければそちらもぜひ。

3・いやいや驚いた。わずか240ページに、ロードレースの魅力とスリリングな人間ドラマを凝縮し、さらにミステリとしての仕掛けに恋愛小説の趣まで備え、ラストで明らかにされる真実には思わず胸が熱くなる……。近藤史恵さん『サクリファイス』(新潮社)は、金城一紀さん『映画篇』(集英社)と同じくらい「今年必読!」と断言する、素晴らしき作品である。以前、書店員仲間から「『サクリファイス』は絶対にアンタ向き」といわれ、「おお、それは楽しみ」と大いに期待していたのだが、いざ読んでみたらば、もう凄いのなんの! わが国ミステリ史に燦然と輝く、風間一輝さん『男たちは北へ』、斎藤純さん『銀輪の覇者』(ともにハヤカワ文庫)に続く、新たな“自転車ミステリ”の傑作がここに誕生した。現在店頭にて、ワタクシを含めた各地の書店員たちの熱い熱い直筆コメントが記された『サクリファイス』応援パネルを展示中。ぜひ、ご来店の際には見てやってくださいまし。ところで全然関係ないが、某アニメ劇場版を観に行ったら公開初日でパンフレットが売り切れていたのにはビックリだわさ!

2・うつろな日々に潰れそうになったので京都へ行ってみた。毎年夏に開催される、水木しげる大先生(“だいせんせい”ではなく“おおせんせい”ね)、京極夏彦さん、荒俣宏さんなどが集う、日本の妖怪者たち最大のイベント「世界妖怪会議」の第12回が、東映京都太秦映画村であったからだ。開催の前日には「前夜際」として、アニメ版「ゲゲゲの鬼太郎」第4期(ちなみに現在放映しているのは第5期)第101話「言霊使いの罠」を上映し、脚本と声優の両方で参加した京極夏彦さんと監督の角銅博之さんのトークショー。そして翌日「大祭」では、ついに水木大先生登場。立ち見も出た400人を超える満員の会場で、85歳の大先生は、電気で暗闇が減って人間の感受性が鈍っている、妖怪に電気はいかん、と繰り返し、最後には用意された大きな一枚紙に迷いのない筆使いでスラスラと鬼太郎と目玉おやじを描き、会場は拍手喝采。そして京極さんからは妖怪者にはたまらない情報もあれこれ報じられ、大変盛況な2日間であった。こうして妖怪ブームは、まだまだ続くのである!

1・おかげさまで7月25日に発売した『愛こそすべて、と愚か者は言った』(角川文庫・解説をワタクシが書いてます)、発売3日で20冊を超える好調な売れ行き。お買い求めいただきましたお客様、ありがとうございます。まだの方は、ぜひご来店の際にお手に取ってみてくださいませ。さて、最近なぜか作家さんのご来店が続いている当店だが、今度は第1回酒飲み書店員大賞受賞作『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)でおなじみ、高野秀行さんが突然ご来店。『幻獣ムベンベを追え』から18年ぶり、怪獣ジャナワールを探す爆笑の未知動物探索行をつづった新刊『怪獣記』(講談社)を刊行され、船橋までご挨拶に来てくださったのだ……が、当店すぐに売り切れてしまったため、前代未聞の「作家さんが来ているのにモノがない」というなんとも情けないことに(泣)。泣き崩れて売り場を転がるワタクシに、高野さんは、サイン本作って送りますよ!とやさしいひと言。というわけで近日、サイン入り『怪獣記』入荷予定ゆえ、みなさまお楽しみに!