「担当者熱烈推薦!もっと売りたいこの10作家」 2007

文庫の刊行点数はそれほど多くはないけれど、これからもっと活躍するに違いない。そんなパワーと才能にあふれた作品を、ときわ書房の文庫担当者たちが独断と偏見で選びました。売り場から、作品に対する愛 が、みなさまにも伝わればいいなと思います。
青木(聖蹟桜ヶ丘店)
『FUTON』
中島京子 講談社文庫 ¥680
『透きとおった糸をのばして』 
草野たき 講談社文庫 ¥490
 高校の国語の時間のことだ。田山花袋の「蒲団」について習ったときの衝撃が、いまでも忘れられない。女弟子に恋をして、彼女の恋路を邪魔して、さらに彼女が去ったあと、その蒲団にうずくまった男の話だときいて、忘れろというほうが無理な話である。そのくせ、「蒲団」をきちんと読んだのは、「FUTON」を読んで、これが大変面白かったからだ。「蒲団」の本歌取りをしたこの小説には、「蒲団」の登場人物たちの関係を現代にあてはめたり、原典には決して書かれない主人公の妻の気持ちが書かれるなど、試み満載だ。ぜひ原典と読み比べて欲しいとは思うものの、先に本書を読んでも十分に楽しめる。
 あの短い、要約するとなぜか破廉恥な感じが濃く漂ってしまう「蒲団」を面白く膨らませていく。そんな芸当をデビュー作でやってのけてしまう作家を、応援しないわけにはいかない。
青木(聖蹟桜ヶ丘店)
 この人はどうして、こんなに私の気持ちをよく知っているのだろう。小説を読んでいて、そんなふうに感じる瞬間がある。私にとって草野たきさんはそういう小説を書く作家だ。
 親友と仲たがいしてしまい、そのことを認められない中学生の香緒。対面ばかり重んじて、好きな人に想いを伝えることのできなかった大学院生の知里。知里の同級生で、彼氏に心変わりされたるう子。大切な人をうしなった三人の共同生活を書いたこの小説は、私たちが生きていくなかで、繰り返し問いつづけなければならない疑問をぶつけてくるのだ。心が離れてしまったら、その人との関係はおしまいなの?ずっと繋がっていくことはできないの?と。
 これから何度も大切な人との別れを経験しなければならない人には勿論、もううしなう痛みなど知り尽くしたという人にも読んでほしい。
青木(聖蹟桜ヶ丘店)
『老人と宇宙』
ジョン・スコルジー ハヤカワ文庫 ¥882
『空を見上げる古い歌を口ずさむ』
小路幸也 講談社文庫 ¥600
 偉大なる作品からあまりにも大きな影響を受けた者が物語を紡ぐ場合、その輝かしい呪縛に動きを封じられて沈むか、その輝きをまとって自在を得るかのどちらかである。ハインライン『宇宙の戦士』(ハヤカワ文庫)の輝きを浴びたスコルジーは、もちろん『老人と宇宙』で堂々後者の地位を勝ち得た作家である。七十五歳以上の男女のみ入隊できる宇宙軍が、地球には二度と戻れないという条件付きで最新の人造体へ老人を移植し、地球外生命体と激烈な戦いを繰り広げているという設定は、長い年月を経て多くの大切なものを失った人間が、輝きを少しずつ取り戻していく様を描くにとても効果的である。人間性なき世界で発揮される人間性は、「老いてなお、ひととしてかくあるべし」という信念に置き換えることもできるだろう。波乱万丈の物語を主人公と駆け抜け、漲る熱を少しでも宿してもらえたら、とても嬉しいと若造は思っている――。
宇田川(本店)
「いつかお前の周りで、誰かがのっぺらぼうを見えるようになったら呼んで欲しい。」
 20年前、凌一の兄・恭一はそう言った。その言葉を思い出したのは、自分の息子が『のっぺらぼう』を見るようになったからだった。凌一の前から姿を消した兄は、知らせを受け取り町へ戻ってくる。そこで兄は空白だった過去を語り、そして他の町で過ごす間に体験した不思議な出来事を重ねていく…。
 人と人の距離がまだ今より近くて、それゆえにどこか閉鎖的な空気のあったあの頃。
 どこかそんなノスタルジーを感じながらも、どこか不思議なその世界は一気に私たちを取り込みます。今注目を集める気鋭・小路幸也のデビュー作であります。ご注目あれ!
高橋(聖蹟桜ヶ丘店)
『うそつき』
日日日 新風舎文庫 ¥691
『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』
桜庭一樹 富士見ミステリー文庫 ¥525
  好き、愛してる。
 そんな言葉の、意味は知らない。竹宮輝夜・16歳は、誰も教えてくれない感情の意味を問う。そして答えの出ない、意味のわからないものなんて「くだらない」、彼女はそう言い切る。教科書に載っていないのに軽やかに唇に乗せられる言葉がある。その意味なんてきっと誰も説明なんて出来ない。けれどきっと誰もが知っている感情。それが自分の中から湧き出てきたと知ったとき、彼女の世界は一変する。
 愛って何、と問い続ける彼女の姿は、今の自分にはまぶしすぎる若さではある。けれどだからこそ、一瞬も彼女の姿から目が離せない。走れ、少女!と青臭くも応援したくなるのです。
高橋(聖蹟桜ヶ丘店)
 可哀想な子供が、可哀想なまま行き着く先は・・・。この本の内容を一言で表現するとこういうことなのだろう。
 力のない子供たちは、さまざまな形で行き場のない感情を吐き出す。それは、空想したり、引きこもったり、暴力という形で現れたりする。
 結果、どうなるか?もちろん、何にもならない。現実を変える力にはならない。子供たちは傷ついたけれども、それがいつかは成長する糧になる、ということもないような気がする。子供たちの弱々しい抵抗は、大人の目線でみると馬鹿だなあとしか思えないけれど、子供の頃の狭い世界と乏しい対抗手段しかもっていなかったことを思い出すとしょうがないとしか思えない。結末に救いがあるかどうかを判断するのはこの本を読んだ方次第なのだろう。
太田(瑞江店)
『断章のグリム T 灰かぶり』
甲田学人 電撃文庫 ¥599
『檸檬のころ』
豊島ミホ 幻冬社文庫 ¥560
 クリック?クラック!今回はライトノベルの話をしましょう。昨今、ライトノベルが非常に注目され始めていて、各出版社が続々とライトノベル業界に参入しています。原動力となったのは間違いなく、萌え文化の台頭でしょう。中でも、「ツンデレ」といわれる型が流行っています。気の弱い男主人公が、強くて性格の尖った、でも肝心な場面で主人公に甘えたりするヒロインを助けるというもの。現代の若者の心をガッチリ掴んだようで、多数の「ツンデレ」ライトノベルが出版されています。『断章のグリム』もその形態を継承していますが、甲田学人の手にかかればそれは、まったく新しいホラーファンタジーへと変貌します。『灰かぶり』の本質を恐ろしく残酷に、そして可愛く現代風に書き直した本作、ハードカバーにも進出してきた甲田学人とともに期待大です。
松丸(IY船橋店)
 豊島ミホさんが好きだ。彼女は特別と思えない瞬間を特別に見せる技を持っている。彼女の作品に共通しているのは「日常の何か」を題材にしているということ。『檸檬のころ』での「何か」は高校生活における恋や友情や進路で、大概の人が今までどれか一つくらいは経験しているだろうという内容ばかり。その良くあることを非常に曖昧な表現だけれど、なんだかきらきらさせてしまう。(収録されている「ルパンとレモン」を読むとこの「きらきら」の感覚が伝わるかと思います。)そして読後にわが身を振り返ってみると、自分の日常にもこのきらきらが見えてくる気がするから不思議だ。本当に特別なことなんて日常の中で偶然に発生することはほぼ無い。と断言しても良いくらいに起こらない。けれど良く目を凝らせば日常の中にだって「特別」は隠れているのだ。青臭いなんて言わずにぜひ読んでみてください。どの作品も一押しです。
鈴木(千城台店)
『青空の卵』
坂木司  創元推理文庫 ¥780
『夭都七事件』 
物集高音 祥伝社文庫 ¥600
 今、私が最も新刊を待ち望んでいる作家のひとりが坂木司である。2002年に、本書で覆面作家としてデビューして以来、その爽快感あふれる作風でファンを魅了している。会社員の主人公・坂木司と友人でひきこもりの鳥井真一が、身近な人々の抱える小さな謎・トラブルを、まさに糸をほどくように解いていく。ばっさり切るのではなく、とても丁寧に。坂木作品では、登場する誰もがそれぞれの優しさをもっていて、読んでいて実に気持ちがいい。読む者を幸せな気持ちにしてしまう。これぞまさに坂木マジックなのである。台詞がまたいい。時折、主人公が口にする、切なく祈るような台詞。優しい気分に浸りきって読んでいた私は、そんな台詞に出会うと不意に泣きたくなる。そして、前よりもっとこの作家のファンになるのだ。
小峰(IY船橋店)
 明治末期と昭和初期という、近代でありながら幾分かの闇を抱え込んでいた時代を舞台に怪しげな事件が発生する。人間の仕業とも思えない怪奇に彩られていると思いきや、探偵役であるご老人の謎解きが始まるや、そこには科学的で明快な答えが待っている。(時々、ほんの少しの謎が残っていることもあるけれど)
 こう紹介すると、単なる安楽椅子探偵ものかと思われてしまうかもしれない。しかし、この作品は作者の博識を十二分に活かしたものになっており、推理物、妖怪もの、歴史物、民俗学もの、そういったものに心惹かれる方にはぜひ読んでいただきたい短編集である。と、いうよりは絶対に読まなくてはいけない作家だと断言できる。
 これをきっかけに、物集高音という作家を知って頂ければ幸いである。
太田(瑞江店)