夏休みに浸る10冊

花火 海水浴 プール スイカ カキ氷 麦わら帽子 蝉の声 虫取り網田舎のお姉ちゃんお婆ちゃん 蚊取り線香 旅行 絵日記夏の恋こどもの頃の夏休み。様々な思い出、イメージが湧いてくる。
私たちが大人になって失ったもの。それは40日間の長い夏休み。
休養 ビール ゴロ寝 家族サービス大人になって働き出してから、僅かな連休の夏休みのイメージってこんな程度だ。悲しい・・・
でも短き故のはかない夏の思い出は、きっとこどもの頃より鮮烈で印象深い。
いつの間にか、ただ長いだけがよい夏休みでないことを知っている。
この10冊に収められた様々な夏休みのかたち。
あなたのよき思い出に加えることができますように。
『1985年の奇跡』 
五十嵐貴久 双葉文庫 ¥700
『白いへび眠る島』 
三浦しをん 角川文庫 ¥660
 夏の風物詩といえば、甲子園だ。そう、汗と涙の高校野球である。少なくても、今から20年ほど前、1985年当時はそうだった。これは落ちこぼれの弱小高校野球部が、甲子園を目指す痛快青春小説である。何が面白いって、山あり、谷ありのストーリー展開もそうだが、出色なのはキャプテンである男子高校生の語り口だ。上質のボケやツッコミをふんだんに盛り込んだ「お笑い」のテクニックを駆使して、読む者をクスグリまくる作者の技量は半端ではない。しかも泣かせるのだ、これが。進学率向上を第一に野球部に何かとイチャモンをつける校長と対決し、因縁の強豪校と再戦を向かえるクライマックスは、わかっちゃいても、熱い涙が流れて止まらない。ラストはもう、笑いと涙の波状攻撃。堪りません。読後の爽快感は文句なし。夏の暑さを吹き飛ばしてくれること、請け合いである。
茶木(本店・聖蹟桜ヶ丘店・いわき店 兼任店長)
海。帰省。祭り。冒険。科学的に説明のつかない不思議。どれもが、夏を表す単語である。そして本書、『白いへび眠る島』を彩る言葉たちである。因習の残る閉鎖的な島を舞台に繰り広げられる物語は夏の匂いをふんだんに含んでいる。それも、太陽が照りつけるような開放的な夏ではなく、どこか怪しげな雰囲気を醸し出す深い夜を思わせる夏である。目には見えない、言葉には出来ない、けれど何かが確かに蠢いている。薄気味悪いけれども、どうしてか心惹かれてやまない。ただし、この作品はホラーと一言で形容出来ない。主人公の少年二人の成長物語でもあるからだ。歳の近い長男を義兄弟のように育てるという島の風習で、性格はまるで違えど共に過ごしてきた二人は、ひと夏の冒険を通して自分を見つめなおす。少年の成長という、これもまた夏に相応しいテーマであろう。本書で是非、夏を感じて欲しいと思う。
永守(八千代台店)
『ミタカくんと私』
銀色夏生 新潮文庫 ¥380
『でりばりぃAge』
梨屋アリエ 講談社文庫 ¥520
 夏の初めに『ミタカくんと私』を読んで、一足早く夏体験してみてください。私(ナミコ)の家には、ママと弟のミサオ、そして幼なじみのミタカくんがいついている。パパは、家出中。毎日が普通に過ぎていく物語なのだけど、思わず笑えるエピソードがいっぱい! 本読んでて久しぶりに笑ったし、突っ込みも入れた! この物語は、『ひょうたんから空』という続編があるのですが、そちらではパパが大活躍します。ナミコ一家が気に入ったら是非そちらも読んでみて下さい。
山内(芝山店)
 青空と向日葵が清々しい表紙そのまま、夏に読むに相応しい爽やかな作品。主人公は十四歳の中学生、真名子。夏期講習に身が入らず、窓から眺めた先に見えたのは、民家の広い庭に吊るされてはためく真っ白なシーツ。
 あの八月の風をはらんだかろやかな洗濯物に、いますぐつつまれたら……。
 発作的に教室を飛び出してその家に入り込んだ真名子の前に現れたのは、風変わりな青年(ローニンセイ?)だった。講習をサボッて二人で過ごすうち、真名子のさまざまな悩みや不満がほぐれてゆき・・。最後のページまで読んだときの、あの気持ちよさ。まさに真夏の洗濯物のようでした。
池田(新松戸店)
『悲しみよ こんにちは』
サガン 新潮文庫 ¥460
『夏、19歳の肖像』 
島田荘司著 文春文庫 ¥590
 たとえ若返れたとしても少女には戻りたくない。なぜって、少女は大変だから。そして、少女性は恐ろしいものだから。その残酷さ、肥大した自意識、感傷的で、浅薄で、手に余るもの。『悲しみよ こんにちは』の主人公・セシルは本当に少女らしい少女だ。十七歳。南仏の海岸で女たらしの父親と、思慮深く完璧な父親の恋人・アンナと一緒に過ごす夏休み。父親への愛情と、父の恋人への憧れと反発の入り混じった気持ち。人生に取り返しなどつかないということに、気付くことさえできず、人を追いつめていくその気持ちは、読み手の中に知らず知らずのうちに入り込んでしまう。サガンの美しい文章、きらめく太陽、希望に裏切られたアンナの顔。一度きりの夏休みが一生忘れられなくなることを、恐れつつも、どうしてか憧れずにはいられない。きっと夏がくるたびに思い出す本になること間違いない。
青木(聖蹟桜ヶ丘店)
勢いだけで突っ走っちゃうような、赤面ものの青春小説が好きだ。熱い魂を抱えた男が好きだ。そんな人におすすめ。島田作品のなかでも、私的には異邦の騎士と並ぶ一位だ。バイクで事故って入院した十九歳の夏、主人公は病室の窓から見える家の女性に恋心を抱き、偶然を装って近づく。そうして二人は恋人同士になる。だが彼女の母親やヤクザに執拗に追いまわされ、やがて真実を知ることになる。中盤まで彼女はちょっとした謎の女だった。その正体より恋の行方が気になっていたので「ちょっと」程度だった。それが明かされる衝撃のラストはまさに島田作品。謎の女・理津子の正体に思わず「そうだったのか」とうなってしまった。主人公の一途さは熱く、エネルギッシュな若さそのものだ。ただ主人公がすべてを回想するという形式のために作品全体が陽炎のようなオーラを纏っている。まさに、熱い熱い、ひと夏の思い出だ。
小峰(IY船橋店)
『夏期限定トロピカルパフェ事件』
米澤穂信 創元推理文庫 ¥600
『夏休み』
中村航 河出文庫 ¥490
 日本の夏休み。人それぞれ思い浮かべるものは違うけれど、小鳩くんにとって今年の夏は「小山内さんとスイーツ廻り」の夏。
 ちょっとかわった性格ゆえに、ふたりが出会ってから友に目標としてきた「小市民の星」をつかむこと。その星をつかむ為には、普通の高校生は体験しないようなこと、(例えば、なんでもないことにこだわってみて、その謎を解いてみたり)なんていうのはもっての外。
 にっこりと手渡された「小山内スイーツコレクション・夏」、小鳩くんの「小市民への道・夏」はこのリストがにぎっている!
 さあ、あなたもスイーツリストを片手に小鳩くんと一緒にひと夏の甘いもの三昧と苦悩と、推理な日々を堪能しませんか? ほら、こんなにも、わくわくする夏休みだから、二人と一緒に遊ばないと、損ですよ?
高橋(聖蹟桜ヶ丘店)
 温泉に入って、美味しい料理食べて、飲んであとは寝るだけ・・・なんて、1日だけとはいえ羨ましいとおもいませんか。義理の友人である吉田くんの家出のせいで、僕まで離婚の危機に晒されてしまうのに、あまり深刻な話にならずにさらりと読める作品です。でも登場人物は皆とても個性的。吉田君が家出したから、じゃあ私たちも家出しましょうって旅行に出る僕の妻のユキさんと吉田くんの妻の舞子さん。彼女たちはいつでもフェアで真剣でそしてなんだか強いのです。暑い夏に熱い作品も良いけれど、嫌な感情とか男女のもつれ話なんて一切でてこないこの作品は読後がとても気持ち良いです。読み終えたら、せかっくの夏休み。僕と吉田くんのように温泉に入って美味しいもの食べにいくのはいかがでしょう。もちろん、レンタカーで。
鈴木(千城台店)
『ボトムズ』
ジョー・R・ランズデール ハヤカワ文庫 ¥861
夏の朝の成層圏 
池澤夏樹 中公文庫 ¥590
 アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞作にして、ランズデール最高傑作の呼び声も高い、傑作中の傑作である。優れたミステリとしてだけではなく、忘れられない至高の文芸作品として、あらゆる層の読者へ絶対の自信でオススメしたい。寝たきり老人が回想する七十年前の夏。一九三〇年代のテキサスを舞台に、低湿地―ボトムズで続く黒人女性連続殺人事件を軸にして、惨殺死体を発見した少年と犯人を追う父親の物語が展開するのだが、単なるエンターテインメントを越えた強烈な印象を残す一番の要因に、黒人差別問題を浮き彫りにしている点が挙げられる。集団リンチに代表されるような凄惨な場面が出てくるが、それはいまなお根強く続いている意識であり、決して過去のものではない。本書は、お手軽な夏の爽快を微塵に叩き潰し、あなたの内面に大きな傷を残す。だが、その傷跡は熱を帯びたまま、必ずや心を支える夏の記憶となるだろう。    宇田川(本店)  船の遭難事故により南の島へ漂着した主人公は、たどり着いた島で自然と戯れる生活を始める。しかしこの物語は、ロビンソン・クルーソーのような刺激と冒険に満ちたアドヴェンチャーでもなければ、もっとスピリチュアルに自然と大地に根をはるような力強いストーリーでもない。椰子の木繁る南国のイメージそのままに、あくまで美しく描かれる南の島の大自然。その中であくまでスマートな現代文明人として振舞う主人公と、島を訪れる人々との極めてクールな交流を描いた不思議な物語だ。まるで成層圏のように崇高な場所のように描かれる南国での生活。だがその生活が終焉を迎える時、池澤夏樹ならではのやさしさと美しさと切なさに溢れた作品。この夏ぜひ紐解いていただきたい一冊である。
日野(八千代台店)