| 大危機における人間の本質10選 『ポセイドン』、『日本沈没』、『日本以外全部沈没』(笑)。 今年はパニックムービーが盛り上がっているようで・・・。 人間という生き物の、最高とも最低ともいえる本質は、確かに大事故、大災害、滅亡など、大いなる危機にこそ、明らかになるものである。 今回は、「大危機における人間の本質」と題し、ジャンルを問わず、十作品選んでみた。 素晴らしくも、愚かしい、愚かしくも、素晴らしい、人間の姿が、ここにある。 宇田川(本店) |
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『復活の日』 小松左京 ハルキ文庫 ¥861 |
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『哀歌』上・下 曽野綾子 新潮文庫 上¥620 下¥580 |
| 映画『日本沈没』がリメイクされ、今年の夏の邦画を盛り上げているが、小松左京原作映画として、この『復活の日』もまた、パニック大作として多くのひとの記憶に残る作品である。事故による最近の蔓延が引き起こす人類滅亡の危機は、四十年以上前に著した作品とは思えぬほどの迫真さで「いまそこにある危機」を描いており、今世紀においてもなお一級の作品として十分に通用する。この事実、まったく驚愕という以外にない。信念も矜持も通用しない破滅の波は、希望や祈りを嘲笑うがごとく世界を蹂躙し、南極に生き残った一万人の人類は生き残りの争いのなかで、再生への道を模索する。人間は、かくもはかなく、また、たくましい。本テーマを代表するわが国の物語として、ぜひ、『日本沈没』と併せて手にしていただきたい。 | ルワンダ大虐殺をはるか昔の出来事だと勘違いしているひとが実は多い、と気が付いたのは、映画『ホテルルワンダ』を観たあとのこと。会話のなかで、九四年の出来事だと分かると驚かれることが何度もあった。情報化社会とはいっても、これが現実。仮に日本で同じような大虐殺が短期間で起こったとしても、先進国以外で果たしてどれだけのひとが気にするかを予想するのは考えるまでもないことだ。大いなる危機の前に、人間は無力である。天を仰ぎ、祈りを繰り返してもそれを回避できる保証はない。また同時に、大いなる危機に見舞われたひとを前に、人間は無力である。アフリカ最貧国に赴任した日本人修道女は、百万人が殺されたこの混乱ですべてを失い、陵辱によって子を身ごもる。だが、彼女は、無力ゆえに受け、背負ったものに屈しはしない。大虐殺に人間の本質を見ることができる一方で、ここに示される真実の愛情に、私は涙が、ただただ止まらない。 | ||
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『美保関のかなたに 日本海軍特秘遭難事件』 五十嵐邁 角川ソフィア文庫 ¥700 |
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『安政江戸地震』 野口武彦 ちくま学芸文庫 ¥945 |
| わが国の海軍史を振り返るときに、昭和二年八月に島根県美保関灯台沖で起きた大事故――美保関事件を無視することはできない。夜間演習中の駆逐艦と巡洋艦の二度の激突により、百二十名の水兵が命を落としたにもかかわらず、この大事故後、軍法会議で真相が究明されることはなかった。 その事故から半世紀、駆逐艦「蕨」艦長の遺児が、証言、記事、書類、記憶から真実に迫るのが本書である。この一冊が歴史の闇に光を当てたノンフィクションとして優れている一方で、当時の海軍の旧体制への批判は必読であろう。 どれだけの月日が経とうとも、かつての大いなる危機に向けられた強い眼差しは、隠された真実を射抜く。ここにもまた、人間の本質が描かれている。 |
安政二年(一八五五年)十月二日、死者七千人以上という大被害をもたらした直下型地震が江戸を襲った――これがタイトルにもなっている「安政江戸地震」である。 本書は、江戸時代の巨大災害の被害状況を検証するとともに、それが幕府倒潰のきっかけになった点に着目し、いかに国家権力が失墜したかを考察した一冊である。権力と社会は歪むもの。表層が平らかなほど、裏では策謀と欺瞞が渦巻き、一部の持てる者たちは力をより揺るぎないものにすべく知略を尽くす。持たざる者は、力の差を前に従うしかないが、巨大な災害は、その歪んだ堅牢を一瞬にして弱体化させる。大いなる危機は、多くの人命を奪う一方で、時として思わぬ結果を生むことがある。歴史の転換で訪れる浮き沈み。人間の本質を垣間見るに、これほど絶好のものはない。臆することなく、手に取られたい。 |
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| 『南極大氷原北上す』 リチャード・モラン 扶桑社ミステリー ¥652 |
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『ダスト』上・下 チャールズ・ペレグリーノ ヴィレッジブックス上¥840 下¥861 |
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| 『日本沈没』のように、タイトルを見れば内容は一目瞭然。もちろん、そうはいっても読みどころがないわけではない点も同じであるから、読者諸兄はご安心を。ハリウッド大作を大味だと斬り捨てることは容易だが、大スケールの迫力を演出する点においては、世界でもっとも秀でている――これは誰しも認めるところだろう。スペインの国土ほどもある大氷原を移動させてしまう壮大な奇想には唖然とするしかないが、独創的着想からドラマを広げて大演出を貫き、あるもの(ナイショ・笑)を登場させてのラストの飾り方など、本書は良い意味でハリウッド的な持ち味を備えている。物語を映像でしか摂取したことのないひとたちにこそ読んでみていただきたい、これは大危機を描いた小説の入門書といえる。ちなみに、本書は入手困難商品ゆえ、いま買っておこう! なくなっちゃっても、知らないよ! | 人類滅亡に立ち向かう人間の姿を紹介する一方で、こんな疑問が浮かんでくる――では滅亡が自然の摂理の中で組み込まれたものだったら、果たして人間はどうするだろうか? チャールズ・ペレグリーノは膨大な科学情報を駆使し、壮大な破滅SFを誕生させた。ここには人間に対する特別な視線は存在しない。終わりに向かってのカウントダウンが、淡々と描かれていく。聞けばこのペレグリーノ、クライトン『ジュラシック・パーク』のあのネタ――琥珀に閉じ込められた吸血昆虫から恐竜のDNAを採取して〜、の発案者だそうで。人類滅亡に絡めて、恐竜絶滅の真相に迫るあたり、なるほどと納得。 科学を通じて滅亡のビジョンをも冷静に物語として仕上げる、これもまた、人間の本質がなせる業なのかもしれない。 |
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『トーテム 完全版』上・下 デイヴィッド・マレル 創元推理文庫 各¥987 |
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『超音速漂流 改訂新版』 ネルソン・デミル トマス・ブロック 文春文庫 ¥740 |
| 「完全版」と書いてあるので、ん? と思った方も多いと思うが、『トーテム』は一九七九年に一度発表された作品で、今回のものは加筆訂正版である。 ホラーファンなら、キングの『呪われた町』(集英社文庫)は、ご存知だろう。もし分からないなら、小野不由美『屍鬼』(新潮文庫)は、いかがだろうか。町や村が異形のものに支配されていく恐怖を描いたこれら傑作と同じく、本書もまた同系列のホラー――ただし、こちらはアクションをぐっと増したヴァイオレンス・ホラーになっている。 ゲームや映像作品ですっかりおなじみとなってしまった設定だが、大いなる危機に立ち向かう人間たちを描いて秀逸。この諦めの悪さと根性もまた、人間の本質といえまいか。B級テイストと侮るなかれ。物語の質は、いささかも低くない。モダンホラーの傑作として、太鼓判を押す! |
誤射されたミサイルが旅客機を直撃し、素人操縦士と管制官が協力して着陸を目指す航空サスペンスといえば、ありきたり――だが、本書のミソは、機体に穴が開いて酸欠状態の乗客たちが脳障害を引き起こし、生ける屍として襲い掛かってくるところ。つまり、航空サスペンスにモダンホラーの要素を加えた、パニック小説の傑作なのである。 また、読みどころのひとつとして忘れてはならないのが、誤射を隠蔽しようとする軍と賠償問題解決のためにいっそ墜落させてしまおうと画策する航空会社の連中の卑しさ。人間の弱さ、狡さがこれでもか描かれ、パニックを大いに盛り上げるとともに、主人公にこれでもかと試練を与えてくれる(笑)。本質云々は抜きにしても、一気読み確実のエンターテインメントとして、休みの午後にでもひもといていただきたい。 |
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| 『パニック・裸の王様』 開高健 新潮文庫 ¥460 |
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『三陸海岸大津波』 吉村昭 文春文庫 ¥460 |
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| ネズミの大発生が人間社会を大危機に陥れる――といえば、西村寿行『滅びの笛』、『滅びの宴』を思い出すひとも多いと思うが、残念ながら入手困難だから今回はパスね(笑)。とはいうものの、『パニック』は単なるその代用程度の作品ではない(当たり前だが)。 ここに描かれる、大いなる危機で顕在化される役人体質を見るがいい。 人間の本質を描くという点で、これほど見事で、なおかつ単純におもしろいと思える純文学はないであろう。 昭和三十年代に書かれた短編が備える、現在の大作に劣らぬこの表現力。 長編は苦手でも短編なら大丈夫かも、というあなた。 まずは最初のページを開いてみよう――。 |
フィクションばかりをご紹介してきたが、それ以外にも良書は数多く存在する。なかでも、本書は分量の薄さに似合わぬ充実の内容で、明治二十九年、昭和八年、昭和三十五年に三たび三陸沿岸を襲った大津波を、体験者の証言を交えて検証していく。とにかく、その前兆から、津波来襲の様子、また被害を受けた際の印象、そして被災後の状態まで、それぞれの段階を見事に再現して、読者の眼前に見せてくれる吉村昭の手腕に、改めて驚嘆せずにはいられない。防波堤などの対策が進み、かつてほどの被害は出ていない現在だが、大自然の脅威の恐ろしさは現在も変わることがない。大波にさらされた人間はあまりにも無力だが、一冊の本によってイメージや情報を伝えること、またそれを得ることで津波を識ることができるのは人間の偉大なる力である。どちらに本質を見るかはいうまでもない。真に「不朽」という言葉が当てはまる、日本が誇る名作である。 |