暗黒実話集

恐怖といっても種類は様々。
得体の知れない異形の存在への身の毛のよだつ恐怖、人間の悪意・憎悪の塊に触れたときの眩暈を覚える恐怖、精神的・肉体的にとことん追い詰められた末の絶叫。
様々な恐怖をとりそろえてみました。
長い夏の夜、ひとりきりでお楽しみ下さい。
津山三十人殺し 『津山三十人殺し』
筑波昭 新潮文庫 ¥620
死体が語る真実 『死体が語る真実』 
エミリー・クレイグ著 文春文庫 ¥760
 昭和十三年五月、岡山県で起きた村人三十人殺し。わずか1時間半ほどの出来事だったという。犯人・都井睦雄は手に猟銃、腰に日本刀、腹にナショナルランプを、そして頭に懐中電灯二個をくくりつけ、村中の人々を殺した。一般に津山事件と呼ばれているこの事件、私は長らくフィクションだと思っていた。おそらく幼い頃に読んだ横溝作品とあいまって記憶していたせいだと思う。実際この事件をモデルにしたり、想起させるミステリは案外多い。本書は加害者の生い立ちなどから加害者の生い立ちなどから殺人者の素顔を割り出そうとしている。実際、幼い頃のエピソードや遺書を読むと、都井を生身の人間であると実感することができる。と、同時に生存者のインタビューからは実に生々しい現場の雰囲気が伝わってくる。自分を殺そうとしている男との会話。扉一枚隔てた恐怖を生存者の証言はまざまざとみせつけてくれる。現代史に残る大量殺人の記録、一読の価値あり、です。
小峰(IY船橋店)
法医学者エミリークレイグの事件簿、という内容だがすべてノンフィクション。実際に取り組んだ事件について、専門知識、マスコミ・世論の動き、そして自分の思いや感傷などを交えて詳細に描いている。被害者の身元を割り出すべく顔の復元にとりくむ著者は、科学者としての客観性と、被害者の身になって憤りを感じられる人間性、そのバランスをしっかりとることこそ重要だという、その姿勢に感動を覚える。9・11のテロ現場、大量の死者の身元確認作業のシーンは読んでいるだけで暗鬱な気分になり、心が震える思いがする。当時私はTVで、遺体を袋に詰める作業員の姿をみた。しかし、参加していた人の言葉は映像の何倍もリアルだ。さまざまな手がかりから被害者たちの声を聞こうとする必死さ、そこから著者の仕事に対する誇りがひしひしと伝わってきた。重く、しっかりと心に残る一冊。
小峰(IY船橋店)
世紀末の隣人 『世紀末の隣人』
重松清著 講談社文庫 ¥580
少年A矯正2500日全記録 『少年A矯正2500日全記録』
草薙厚子 文春文庫 ¥470
私はよく犯罪ノンフィクションを読むほうだ。そして重松清もよく読む。ということで、期待していた通り、一風変わった犯罪ルポだった。ノンフィクション特有の固く無機質な印象とは異なり、著者が多く著してきた少年小説のままに、あたたかくやさしい視点で事件を見つめている。池袋の通り魔事件、カレー事件、音羽の幼女殺人事件などセンセーショナルな報道も記憶に新しい十二の事件について、きちんと時系列に追いながら当時の社会状況を述懐し、彼らの心情に思いをめぐらせる。犯罪者といってしまえば、遠く異質な存在である彼ら。その生い立ちや日常の生活を重松さんの文章で垣間見ることでどこにでもいる人、すなわち隣人に見えてくるのだ。糾弾するでもなく、哀れむでもなく、読み手に何のバイアスも与えないよう描く、その手腕は素晴らしいとしかいいようがない。
小峰(IY船橋店)
 この本は、神戸児童殺傷事件に関して、元東京少年鑑別所法務官が「少年A更正プロジェクト」の全容を明かしたレポートです。この事件に関する本は他にもたくさん出版されています。加害者の父母の手記『少年Aこの子を生んで……』(文春文庫)、被害者の母親が書いた『彩花へ「生きる力」をありがとう』(作者山下京子・河出文庫)など、このような事件は、どちらの立場にたっても胸が痛みます。このレポートでは、多発している少年犯罪に根底から立ち向かっている人々が大勢いることをあらためて認識しました。
山内(芝山店)
明治・大正・昭和 華族事件録 『明治・大正・昭和華族事件録』
千田稔 新潮文庫 ¥780
桶川ストーカー殺人事件 遺言 『桶川ストーカー殺人事件―遺言』
清水潔 新潮文庫¥620
 タイトルでもわかるように、これは華族と呼ばれるやんごとなきご身分の方々が起こした事件を収録した一冊です。文章は多少硬いかなと思われるかもしれませんが、要は昔のスキャンダルです。割とすらすら読め、ちょっと笑えたり、あきれたり、トリビアにもなる逸話が満載です。小説やドラマのイメージで、華族などというと浮世離れして優雅そうに見えます。しかし、実際は生々しい人間模様や欲があり、食い詰めたり、貧乏ゆえにという犯罪が意外と多いのには少し驚かされます。また、華族という立場であるが為に起こった犯罪などは、少々皮肉にも感じられます。また、当時の庶民の反応を見ると、結局は現代人がアイドルのスキャンダルを面白おかしく見ている、といったことと変わらないように思います。人間は今も昔も、身分が高かろうが低かろうがちっとも変わらない、そんなことを感じさせてもくれる一冊です。
太田(瑞江店)
 息を呑むおもしろさ――という言い方は、遺族や関係者には大変失礼だとは思う。どうか襟を正して読んでいただきたい。とはいえ、良質のミステリを読むようなこの緊迫感はただものではないのだ。当時の埼玉県警上尾署の怠慢と隠蔽体質が大きな問題となり、「ストーカー規正法」制定のきっかけともなった女子大生猪野詩織さん刺殺事件。被害者は執拗なストーカー被害を受けていたにも関わらず警察は耳を貸そうとせず、悲劇はそれゆえに起きたといっても過言ではなかった。事件発生後、新聞等の報道機関が「お上」の情報を鵜呑みにし、歪んだ事件像・被害者像を流し続ける中、ひとりの週刊誌記者が独自取材を続け事件の真相に迫っていく。警察の捜査が「難航」する中、これに先んじて犯人を特定、逮捕へと導いて、当時大変な話題になった。被害者を悼む気持ちと大ネタに近づいていくドキドキ感とが相半ばする自身の心理描写も含めて、まさにノンフィクションの金字塔。
近藤(新松戸店)
黒のトリビア 『黒のトリビア』
新潮社事件取材班 新潮文庫 ¥420
『東京伝説 呪われた街の怖い話』
平山夢明 ハルキ・ホラー文庫 ¥630
トリビア trivia 意味 つまらない話
役に立たないがおもしろい話
まさに事件のトリビア、ウラ雑学本です。
思わず声に出して「へえー!」と言ってしまうかも
「凶悪犯に襲われる確率が、最も高いのは千葉県!」
ほらね、思わず「へえー!」
山内(芝山店)
今年の日本推理作家協会賞短編部門を『独白するユニバーサル横メルカトル』(『魔地図』収録・光文社文庫)で受賞した平山夢明の、『「超」怖い話』シリーズと双璧をなす最恐(凶)度を誇る、『東京伝説』シリーズの記念すべき第一弾が本書である。超常的なエピソードを集めた『「超」怖い話』に対し、『東京伝説』は人間の恐ろしきエピソードの拾遺集となっているが、これを「実話」として括ることには異を唱えるひとも多いだろう。だが、ここに集められた常軌を逸した話の数々を、果たしてあなたは絵空事と笑い飛ばし、簡単に読み捨てることができるだろうか? 実話かもしれないし、フィクションかもしれない――この狭間を眼で追う時、あなたは日常という薄皮のすぐ裏側で蠢く悪鬼たちの姿を認め、自分たちがその魔手に知らず知らず触れかけている真実に背筋が凍り付くことだろう。さあ、東京の「暗黒実話」に心ゆくまで慄えるがいい……。
宇田川(本店)
魔性 整形逃亡5459日 福田和子事件 『魔性・整形逃亡5459日 福田和子事件』 
大下英治 新風舎文庫 ¥791
・・・ 『帰りたくない!』 
茶木則雄 光文社知恵の森文庫 ¥680
 福田和子。同僚のホステスを殺害し、時効直前まで十五年もの間逃げ続けた稀代の悪女。逮捕直後の映像を見た時の衝撃を、今も忘れることはできません。ふてぶてしい逃げっぷりとあまりにあっけない捕まり方が、まるで2時間サスペンスのようでした。そんな女の逃亡生活について、詳しく記してあるのが本書。今更金払ってまで福田和子かよ? なんておっしゃらないで下さいませ。ノンフィクションとして面白く、「女子力」について深く考えさせられ、「就職力」も身につく(かもしれない)名著ですから。逃亡する先々で嘘を重ねまくり、驚くほどあっさり職にありつき、何度もプロポーズされるそのバイタリティ。極限状況で磨き抜いた、人の心の隙に付け入る技。犯罪者とは言えお見事です。その能力を、もっと別のことに生かせばよかったのに・・・。それにしても、彼女はなぜ人を殺したのでしょうか? それだけは、この本を読んでもよくわかりません。
高頭(聖蹟桜ヶ丘店)
 本書は、解説の目黒考二氏をして、「(再読であるにもかかわらず)何度も吹き出したほど面白かった」と言わしめ、辛口批評で鳴る中条省平氏から「抱腹絶倒の面白さにおいて、この『バカ妻』エッセーは東海林さだおの食べ物エッセーの塁を磨すとさえいいたくなるくらいだ」(「論座」書評)と絶賛された、お笑いエッセー集である。それが何ゆえ「暗黒実話」か。なるほど、こんなダメ夫、ダメ親父を持った家族にとっては、迷惑以外の何者でもあるまい。お先真っ暗といえば、確かに真っ暗だろう。職場のスタッフから「上司でまだよかった」とまで言われる正真正銘のろくでなしである。しかし見方を変えれば、家族からこれほどないがしろにされている父親も、また珍しい。「鬼嫁」を凌ぐ暗黒実話(笑)、と言っても過言ではないぞ。何しろ本人が言うのだから、間違いない!
茶木則雄(本店・聖蹟桜ヶ丘店・いわき店 兼任店長)