ライト兄弟初飛行から100年

 わが国 傑作 

         航空ノンフィクション
    カッコイイ。
    幼いころに感じたこの想いをそのままに、航空機に興味を持ち続けてきた
    成長し、多くを知るようになり、
    キレイごとばかりではない、
    あれもこれも知ってしまったが、
    いまだ私のなかで、
    あの焔が消えることはない。
    ここにご紹介する作品たちは、
    日本の航空史の一端を教えてくれる、
    と同時に、航空機に関わることで、
    人生を賭けて戦ったひとたちの、
    忘れてはならない、
    歴史の数々を教えてくれる。
    ぜひ、多くのみなさんに、
    その事実を知っていただきたく、
    想いをこめて、ご紹介する。


               宇田川(本店)






 YS―11国産旅客機を創った男たち 前間孝則著 講談社+α文庫 ¥780
 初の純国産旅客機ということもあるだろうが、これほど問題の多いもの (機種そのもの的にも、取り巻く環境的にも) でありながら、耐用年数を遙に越えてなお空を飛び、多くのひとびとに愛され続けた飛行機も珍しい。
 私が生まれて初めて乗った飛行機は、このYS11である。その当時は、最新のジェット機に乗れるものと勘違いし、あの大きな二つのプロペラを見て、うわジェットじゃないじゃん! などと思ったものである。だがいまは、わざわざこの飛行機に乗れるよう計らってくれた父親に感謝し、この旅客機で人生最初の空の旅を経験できたことを誇りにしている。YS11は、かつてまだ貧しかった時代の日本で、民間輸送機を飛ばすことを夢見た男たちが情熱を持ち寄り、苦闘のすえに形にし、守り抜いた結晶なのである。本書は、その戦いの記録が丁寧に、克明に描かれた労作である。読後あなたもきっと、彼らとYS11を日本の誇りと思うはずだ。

 ジェットエンジンに取り憑かれた男 前間孝則著 講談社+α文庫 各¥740
 今年、函館に行く機会があったのだが、羽田から函館まで約1時間二十分で着いてしまい驚いた。私が自宅と、ときわ書房本店を往復する時間とほとんど変わらないではないか。これすべて、ジェットエンジンがなければ、実現していなかった話である。
 ここでは、ご存知の方もいると思う、終戦直後に空を飛んだ国産初のジェット機 「橘花」 の完成から、その四十年後、日本が世界のトップメーカーとともにエアバスA320搭載のジェットエンジンV2500を開発するまでに至る成長と戦いの記録が描かれている。どんなハイテクにも、かつて不可能と疑わなかった現状を打破し、ただ情熱を糧にして打ち込んだ技術者たちが根底にいる。そして、その逸話のひとつひとつはどれも、いまの私たちに情熱を授けてくれるーーー。本書は、ぜひ『YS11国産旅客機を創った男たち』と併せてお読みいただきたい。日本航空史を考えるとき、どちらも外せない名著である。

 機長のカバン 石崎秀夫著 講談社+α文庫 ¥680
 パイロットは何時くらいに空港に来るの?
 コックピットは、なんで 「コックピット」 って云うの?
 飛行機はなんで飛び上がれるの?
 飛行機を利用するひとしないひと、大人も子供も、こんな素朴な疑問を持ったことはありませんか? この本は、羽田から福岡空港まで向かうと想定して、離陸から着陸まで、機長自らが疑問のひとつひとつに、おもしろいエピソードを交えて答えてくれる楽しい一冊です。私のような飛行機好きはもちろん、将来パオロットになりたいというお子様のいるご家庭、あるいは子供を是が非でもパイロットにしたいと執念を燃やすお母様は必携のエッセイでございます。あ、ちなみにコレ読ませてもキムタクにはなりませんので (笑)。
 さあページを開いて、いざ空の旅へ。
 HAVE A NICE TRIP!

 虹の翼 吉村昭著 文春文庫 ¥552
   ライト兄弟が初飛行に成功するより十二年も前(明治二十四年)、すでに航空機を考察していた青年がいたことをご存知だろうか。しかもそれが日本人だったということを。これは大空を目指した男の情熱の物語である。と同時に、ひとりのきらめく才能が世情や体制のなかで踏み潰され、にじられる哀しみの物語だ。貧しさから家族を守るため仕事人となり、それでもなお研究をあきらめず、ようやく実りかけた情熱の成果を、しかし冷淡に扱われてしまう苦渋。そして眼にする、ウイルバー・ライト飛行成功の新聞記事――。このページを読んで、涙を流さないものはいないだろう。この報われない結果に、怒りと悔しさにさいなまれないものはいないだろう。いまの世も、かつてのような国状はなくなったにせよ、報われない情熱は星の数ほどある。情熱を傾けることにいったいどんな意味があるのかーーあなたの心が熱を失いそうなとき、この男の生涯は、きっと答えを教えてくれる。

 大空のサムライ 坂井三郎著 光人社NF文庫 ¥952
 わが国航空史を語るうえで、三菱零式艦上戦闘機――ゼロ戦を抜かすことはできない。ゆえに、この戦闘機の開発物語を挙げるのもひとつではあるが、ここは切り口を変え、パイロットの物語、それも最強と謳われたゼロ戦パイロットの物語をご紹介するとしよう。どんなに優れた航空機も、所詮はマシン。乗り手のいかんで、どうにでもなってしまうのだからーー。ある書籍に掲載されていた1枚の写真――高高度飛行用電熱服実験飛行直前に、飛行服にゴーグル、腕を組んでカメラを見据える二十三歳の青年がいた。それが、撃墜王――坂井三郎を見た最初だった。撃墜王などと云うと、おれは戦争中に何十機も撃ち堕してやった! などとわめく輩を思い浮かべるかもしれないが、このひとは違った。最大の誇りは、列機を一機たりとも死なせなかったことだという。私は瞬時にして、この空の英雄のファンになった。

 続・大空のサムライ 坂井三郎著 光人社NF文庫 ¥857

 坂井三郎の著書のすばらしい点は、もちろんその生き方や躍動感あふれる文章など挙げられるが、なにより戦争を戦い抜いた者たちの記録として記述が克明なところである。多少なりとも、こういったものに興味のある方はご存知だと思うが、かつて激戦を潜り抜けてきたかたがたの話というのは、実は非常に曖昧なものが多い。本書は、この部分がしっかりしていることで、空にあこがれる三郎少年とともに蒼穹を見上げ、海軍に入り初飛行の緊張と興奮を味わい、そしてサムライとしてはるか南方の地で空の戦いを繰り返し、散華した多くの友への哀しみをわかちあい、無謀な戦いを強いた世情に怒る、それらすべてを心から彼とともに体感できるのだ。私にもしも男の孫ができたら、読む読まないは彼の自由だが、人生の比較的早い段階で本書に触れてほしいと思う。広く読まれれば読まれるだけ、永く読まれれば読まれるだけ、日本人の意識が変わるほどの大傑作だと信じているから。

 研究機開発物語 秋本実著 光人社NF文庫 ¥743
 いまから百年前、ついに空を飛ぶことを覚えた人類は、もっと早く、もっと高く、もっと遠くまでと、技術の向上を夢見て、チャレンジを続けてきた。日本は、そのスタートこそ出遅れたものの、男たちの人生を賭けた努力と執念により、数々の目覚しい成果を挙げてきた。本書は、世界の水準を目指した日本がそこに追いつき、そして世界記録を樹立するに至った過程を、四機の研究機にスポットを当てて紹介する傑作である。本書が、技術者たちの人間ドラマとして最高級であるのはもちろんだが、なによりも注目してもらいたいのが、貴重な写真の数々である。たとえば表紙に載っているプロベラをご覧いただきたい。この独特の湾曲など、文章から想像するよりもはるかにインパクト大であり、好奇心を煽ること至極、その資料的価値の高さもお分かりいただけよう。ちなみに、 「航研機」 に興味を持たれた方、富塚清著『航研機 世界記録樹立への軌跡』(三樹書房)をオススメする。

 死闘の本土上空 渡辺洋二著 文春文庫 ¥590

 初飛行に成功したとき、兄弟が感じた興奮は、それはそれは大きいものだったと思う。だが、その瞬間、この技術がいずれ、どれだけの人命を奪うことになるかとまでは、思い至るどころか、チラとも脳裏を過ぎることはなかっただろう。第二次大戦で日本は、本土の主要部分で地上戦を経験せず敗戦した。きわめて珍しい国である。その要因のもっとも大きなひとつが、米軍の超重爆撃機B―29――通称スーパーフォートレス(超・空の要塞)の存在である。本書は、こういった記録ものには珍しいほどの臨場感で、アメリカの高性能機に対し、わが国がいかに空の戦いを繰り広げてきたかが描かれている。今回選び出した作品群は、普段こういったものを読みなれていないひとでも、興味深く読み通せるものとして選んだつもりである。なかでも、図や掲載写真の多い本書は、まさに広い読者層向きであるので、ぜひ多くの方に、この空の 「本土決戦」 を知ってもらいたいと強く願っている。

 兵士を見よ 杉山隆男著 新潮文庫 ¥819
 たとえばなにげなく見上げた青い空、ぽっかり浮かぶ雲に自由を感じたりすることはあっても、その空がどれだけ厳重に守られているかに思い至るひとは、ほぼ皆無であろう。ひとたび日本の空に脅威が訪れたなら、音速で最前線へ翔けつけるのが、戦闘機F-15イーグルである。本書は、航空自衛隊の花形であるF-15パイロットーーイーグル・ドライバーたちを丹念に追った傑作ルポである。訓練とはいえ、死と背中を合わせる毎日と、そんな彼らを地上で待つ妻子や恋人たち、そして年齢ゆえにイーグルを降りなければならないベテランたちーー。緊迫の世界を生きるひとびとを追って浮かび上がる戦闘機乗りたちの素顔は、空を翔けること、そしてイーグル・ドライバーとしての誇りにあふれ澄んでいる。一読して、孤高の男たちに感動を覚えるか、単に破壊兵器の操縦者として見つめるか。読後、あなたが仰ぎ見る空は、以前と違ったものになっているかもしれない。

 墜落の夏 日航123便事故全記録 吉岡忍著 新潮文庫 ¥514
 当時サッカー少年だった私が夏合宿から帰ると、両親がテレビに釘付けになっていた。忘れもしない八五年八月――五百二十名の犠牲者を出した日航機墜落事故。わが国の航空史を振り返ってみても例のない、最悪の大惨事である。どれだけ優れたシステムが確立されようと、飛行機だけではなく、車でも、船でも、鉄道でも絶対の安全は得ることができない。本書は、全記録――とあるように、事故とその前後の詳細が克明に描かれた労作である。それゆえ、飛行機になんか絶対乗りたくない、と気持ちを強くする方も多くいるかもしれない。確かに、ここには忘れてはならない最悪の全貌が描かれている。だが、いま現在、この最悪を二度と繰り返さないために夜毎戦い続けるひとたちがいることも決して忘れないでほしい。航空機を愛するひとりとして、そのことを強く願うとともに、この夏、ぜひとも手にしていただきたい一冊である。