競馬はロマンだ!

   女書店員が選ぶ

   ウマ本 ベスト10!
  プロローグ
  競馬はロマンだ!と一言では言い表せないほど奥深いものです。
  競走馬は、ただひたすら速く走るために改良を重ねられてきた歴史を持つ、経済動物という側面を持つ一方で、  私たちに夢を与えてくれます。
  そしてそんなサラブレッドに携わる人々の努力によって保護され、鍛えられ、磨き上げられる。
  生産者、馬主、調教師、厩務員、そして数多くの競馬ファン。
  そこにはそれぞれの人生があり、一頭の馬に賭ける人々がいる。
  ここにはそうした競馬の姿をさまざまな面からアプローチした、バラエティに富んだ10の作品を挙げました。
  競馬に興味のある人、馬が好きな人、そうでもない人にもお気に入りの一冊に出会えることを願ってーー。


      (ウマ好き女書店員K)






 サラブレッド一〇一頭の死に方 大川慶次郎ほか著 徳間文庫 ¥762

 今回のウマ本ベストを選ぶにあたり、この本だけは全てのウマ好きの人に読んでほしいと願っている一冊です。
 シンザン、キーストン、テスコガビー、テンポイント、プリティキャスト、ライスシャワー・・・読んでいるだけで涙がにじんでくるまさに号泣本。一気に読むと胸が苦しくなってしまうので、心臓の弱い方には少しずつ読むのをおすすめします。
 ここに挙げられた一〇一頭の馬たちは、ほんの一握りでしかありません。
 真のウマ好き、競馬好きの人達に、真剣に受け止めてほしい現実がまざまざと書かれている渾身のルポ。
 競馬ファンの老いも若きも大泣きすることでしょう。
 この夏一番の号泣本。涙が出ます。

 利腕 ディック・フランシス著 ハヤカワ文庫 ¥720

 競馬小説といえば、大御所のやはりこの人。練りに寝られたストーリー、巧に組み立てられたプロット、息もつかせぬ展開、文字通り最後の最後までわからないあっと驚く結末。そして、随所に漂うイギリス風のダンディズム。数ある中でもなぜ、この「利腕」なのか・・・?
 ディック・フランシスの小説でも、例外的に二度同じ主人公が登場するのがこの作品であるからと、(もう一作は「大穴」)この作品が自己回復、復活のストーリーであるからである。主人公シッド・ハレーの心の叫びに、私は女であるにもかかわらず、別れた妻よりも男である彼に感情移入しないではいられない。
 もし競馬は好きだが、ミステリーは読まない、もしくは、ミステリーは老後の愉しみと思っている方がいたらぜひどうぞ。はまることまちがいなし。極上の読書時間を約束してくれることでしょう。

 競馬(「驟雨」所収) 織田作之助著 ちくま文庫 ¥760
 オダサクの短編である。教師だった男が、カフェーの女給に入れ込んで妻とし、その妻におぼれ、しかもその妻が癌に侵され、死に、残された男は競馬にのめりこんでゆく・・・。いやー、王道ですな、無頼の。あらすじだけを書くと、実に陳腐な小説家と思われがちなのだが、いやいやさすがはオダサクである。彼独特の文体が胸に響いてくる。オチではじーんときます。男泣き(って女ですが)。
 男がなぜに競馬にのめりこんでゆくかのさまが、実に魅惑的に描かれており、自分に何も失うものがないならば、こんな生き方がしてみたいもんだ、などと思ってしまう。昭和初期の競馬風景というのも、今とは驚くほど変わりはないのだな、と思ったものです。
 しかし、こんな短い作品で強烈な読後感とは、さすがにオダサク。同時収録の作品も文句ナシの面白さ。

 ファイト かなざわいっせい著 講談社文庫 ¥667
 短編集。
 レースの勝ち馬データと、レースファイル、そしてひとつひとつの小説のなかに実況のように描かれるレース模様が、当時の記憶をたぐり寄せる。
 収録されているレースも、比較的記憶に新しいものが多いこともあり、自分もこのレースの時は、この馬に賭けて負けたんだった、と当時が甦ってくる。 
 そして、このレースのときこうだったように、この小説の登場人物たちのような人も間違いなくいたんだ、と。
 競馬にドラマがあるというのをわかってもらうのに、この文章をかわりに差し出したほうがよいのだな、とおもう、そんな一冊です。

 プレーンソング 保坂和志著 中公文庫 ¥688

 これはウマ本か、というとウマ本ではありません。が、主人公が競馬好き、ネコ好きで彼の淡々とした日常が淡々とした語り口でつづられてゆく、異色の作品です。この作品が書かれたのは一九九〇年よsり少し前、ちょうど日本がバブルの頃ですが、この小説を読んでいてもそんな浮かれた日本を思わせる描写はほとんどなく、むしろノスタルジックな気分を思い起こさせてくれる。登場人物たちが語ることばには、思わずうん、うんとうなずいてしまう。何なのでしょう?この本は??どことなくジャームッシュの映画を彷彿とさせる不思議な作品である。あ、競馬の話もエピソードしてちゃんと出てきますよ。競馬の好きな人の日常を描いた、夏のけだるい日に読む一冊。三十を過ぎた人に特におすすめです。

 この馬に聞いた!炎の復活凱旋編 武豊著 講談社 ¥400 

 去年の二月、中山競馬場に程近い場所に住む私は、武豊落馬、負傷のニュースを、仕事から帰った夜、テレビよりも早く、馬券オヤジの父より聞き知った。そして思ったことは、「ダービーは絶望か?」だった。しかし、全治三ヶ月のケガをふた月足らずという驚くべき早さで克服し、ターフに戻ってきた。
 二〇〇〇年よりユタカは、海外遠征で、日本人騎手ながら、世界の舞台で活躍しているが、本書では、なかなか伝わってこない海外競馬の様子も窺い知ることができる。
 まぎれもない現役超一流ジョッキーである彼の姿からは、当然あるべきはずのプレッシャーという負の側面よりも、常に前を向き、気負いなど感じられない明るい、しかし、冷静な印象を受け、さわやか読後感。だが、彼は厳しい勝負の世界に身を置く男なのだ!

 勇者の故郷 寺山修司著 角川春樹文庫 ¥680
 歌人、劇作家、評論家と、さまざまな才能のデパート、寺山修司の魅力が堪能できる珠玉の一冊である。競走馬の生産牧場の息子が、愛馬と離れがたく、騎手として上京する様、人生を一頭の愛馬の馬券に賭し夢破れた青年、悲哀ただよう人生を背負った人間の生き様が長編詩(バラード)や戯曲、散文と種々の形式で綴られてゆく。今は若い女性でもたいして臆することなく競馬場へ行くことが出来るほど競馬のイメージはアップしているが、寺山のいた頃の風景はもっと濃く、盲目の予想屋、拾い屋など今は目にすることのなくなった光景が鮮やかに描かれる。ただ、今も昔も競馬場では、そこに集う人々はいろいろなものを背負っているのは変わらないー。サラトガ、ミカズキ、バルカンジャック、ロンググッドバイ。登場する馬たちがいとおしく感じられ、後をひく読後感。

 優駿(上下) 宮本輝著 新潮文庫 上¥514 下¥552

 決して大牧場とはいえぬ一馬産者が、一世一代の大賭けに出た!といわれるほどの配合で種付けしたサラブレッドの仔馬が誕生した。その仔馬は後にスペイン語で「祈り」という意味のオラシオンと名づけられ、名門牧場に預託され、一流のトレーナーによってその才能を開花させてゆく。そして、オラシオンの成長とともに、周囲の人びとにも運命的な出来事が起こりー。オラシオンが順当に勝ち進み、クラシックロードをひた走る。そして迎えたダービーで・・・中継とはちがい、馬に跨る騎手の目で展開されるレース模様には、そのリアリティに手に汗握ります。感動巨編、というと安っぽい響きですが、競走馬を題材に書かれた小説の中でも、細やかな人物描写や、競馬界を丹念な取材で克明に書ききった本作はまさに傑作です。
 吉川英治文学賞受賞作!

 競馬どんぶり 浅田次郎著 幻冬舎アウトロー文庫 ¥571
 思い出のレースというのをいろんな人が語っているけれど、やはり人によって勝った、負けた、が違っているわけで、その感慨も人それぞれ。競馬以外では競輪もやりましたが、あのレースのあの時・・・と思い起こしたりするのはやはり競馬に直結している。そして、いろんな思いが透けて見える気がするのが、私が競馬を好きな理由なんだ、とこのエッセイを読んで思いました。しかし、競馬は紛れもなくバクチであるという事実は否めない。だからこそ、より楽しむためのスタイル、お作法、馬券哲学というものが必要オなのだ。人生においても、なるほどー、と思わずうなる名言の宝庫。あくまでもクールに語る浅田氏の言葉には上級者も初心者も、必ず得るものがある名エッセイ!
 一度読んで再びプロローグを読むのをおすすめします。