| 食欲減退、 痩せられる(かな?)本 |
| スプラッタ映画をみながら普通に食事ができる私が、二食ほど抜かしたのが何を隠そう一位の「異形家の食卓」である。あまりに悔しいので、私の想像力が逞しすぎるのだろうと、自分に言い聞かせた記憶がある。昔からラグクラフトやキングになじんでいた子供だった。それゆえ、我ながら想像力が豊かなのだと思う。(自慢じゃないですよ)。 フィクションということで、とても気持ちが悪かったのが愛犬家連続殺人事件と異常快楽殺人である。これらはかつてのホロコーストや七〇三細菌部隊を髣髴とさせる。あまり愛読していると感覚が麻痺してしまいそうなのでご注意を。ちなみに「異常快楽殺人」は途中で一度小休止を取ったため、大丈夫だった。そうでなかったら記録を更新して、三食くらい駄目だったかもしれない。これはぜひお試しいただきたいところである。 (本店・小峰) |
| 異形家の食卓 田中啓文著 集英社文庫 ¥648 | |
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読み終えたときには自分がやつれた気さえした。そんな悪趣味な本である。 まず表紙からしてオカシイ。内容も短編集だというのにどれをとってもオカシイ。食べるという行為は栄養摂取という生存のための行為なのだと思い込もうとしても…胸がむかつくのは抑えられない。食人を扱った本は珍しくないし、それなら慣れている。ノンフィクションなら第5位で紹介する「異常快楽殺人」にでてくるジェフリー・ダーマーもなかなかの食人家である。しかし異形家の人々は正体不明の「ニグ・ジュギベ・グァ」なるものまで食べてしまうのだ。正体が分からないからこそ想像が先行して気色悪い。注目して欲しいのは擬音語の生々しさである。「ただれた皮膚から出る汁で顔をべとべとにしながらじゅるじゅると膿をすう」しばらく、私がシュークリームは食べられなかったことはいうまでもない。 |
| 眼球綺譚 綾辻行人著 集英社文庫 ¥552 | |
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背中が薄ら寒くなる感覚が読んでいるあいだ、つきまとっていた。常識とカニバリズムの曖昧なグレーの境界線の上を、ふらふらと歩かされているようだった。私が始めて読んだ当時は中学生の時である。さすがに刺激が強かった。 本書は、すべてに「ゆい」という名の女性が出てくる7編からなる短編集である。すべてのゆいは同一人物ではないが、それぞれ人間離れした特技を持っている。切っても切ってもはえてくるとかげのような身体だったり、イカモノ食いだったり。しかし七人のゆいはあまりに無邪気でそこがまた恐ろしい。 さて。短編の中でも特に絶品といえば「特別料理」である。「回虫と鉤虫のミックスグラタン」なるCメニュウから始まり、同族のお肉であるBメニュウ、そして一生にそうは食することのできぬ秘密のAメニュウ。その正体についてはご一読願いたい。 |
| 絢爛たる屍 ポピー・Z・ブライト著 文春文庫 ¥724 | |
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生々しすぎて気持ち悪い。これが私の第一感だった。 文字から浮かび上がって想像できるのはヴィヴィッドなセックスシーンと殺人シーンだ。それはひとえに登場人物たちが正直に内心を吐露しているゆえに他ならない。素直に受け取って想像していると、気持ち悪くなってくるのでご用心を。いくら愛するものを自分の手元に置くためとはいえ、セックスまだしも、その殺しと解体の詳細を記されては、読んでいるこちらの身がもたない、というのが本音だ。 セックスやネクロフィリアならただのポルノ小説といいきることもできる。しかし・・・「二人はそろって唇はどす黒い血で紫色に染め、その顎はそろって筋だらけの肉を噛んでいた。ほかならぬトラン自身の肉を」暴力も超えたこの表現に耐えられる人が何人いるか、楽しみだ。 ちなみに私は、あまりの気色悪さに机を叩いていた。 |
| 愛犬家連続殺人事件 志麻永幸著 角川文庫 ¥619 | |
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事件が露見したのは九十五年のことだ。関根逮捕の十二日後阪神大震災がおこったせいもあり顛末を知らない人も多いだろう。 連続殺人犯・関根元が人を殺し解体するのを側で見ていた共犯者本人の記述だけあって実にリアルな臨場感がある。監禁されていたわけでもない著者が、なぜ警察に駆け込まなかったのか。それは巧妙な言葉を操り著者の心を束縛する、関根の強烈なキャラクターのなせる技だった。関根が目論んだのは「ボディを透明にし」死体を残さないことによる完全犯罪。そのために死体を解体し、肉を殺ぎ落とした骨を高温でじっくり焼き散骨したという。「三センチ四方のサイコロステーキのようにカットされた肉が河に遺棄されていくさまは桜の花のようだった」これでしばらく私はサイコロステーキを食することができなくなったのだ。想像して欲しい。私たちも骨と肉の塊なのだということを。 |
| 異常快楽殺人 平山夢明著 角川文庫 ¥686 | |
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刺激の強い本である。一気に読み終えるにはかなり強靭な精神力がいると思う。精神衛生上はとてもおすすめできない。 『サイコ』『羊たちの沈黙』などのブームでサイコ・ホラーはポピュラーになったといえる。しかしここで留意すべきは、本書に登場する殺人鬼たちが「ほんもの」であるということ。彼らの手は皮を剥ぎ、その口は人の肉を咀嚼したのだ。記述の生々しさといったらない。ホラー小説を読みなれた私が、絶対の自信を持って読み始めたにもかかわらず途中で一度気合を入れなおしたほどである。一説によれば食人は古代には大切なタンパク源であり、食べることで相手の能力ごと自分の中に取り込むと考えられていた。そうは言っても「トマトソースで煮た脳が二つ、カリフラワーのように浮かんでおり別の鍋にも煮とけた手足が入っていた」ときたら、ミートソースはしばらく食べられまい。 |
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蟲 坂東眞砂子著 角川ホラー文庫 ¥500 |
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| 私は虫が苦手だ。両生類、爬虫類はいけるけど、昆虫は鳥肌ものである。 「半透明のぬめぬめと光る粘膜に覆われたものが、白い首からうごめきながら這い出してくる」この描写だけで私は息苦しくなる。 新婚で妊娠中のめぐみが夫の上に見た常世虫。それは果たして現実なのか、幻覚なのか。いずれにしても重要なのは彼女にとっての常世虫は身体に入り込んでその人間の精神状態までも操る存在であるいうことだ。誰でも近しい人の「変化」には疑念を覚えるが、夫の変化をすべて取り付いた虫のせいにし、悪い虫をはらおうとする彼女は、変化そのものを恐れているように見える。ともあれ、お店で観葉植物を見ても心から和めなくなってしまったのは間違いなく本書のせいである。だって、橘の木に抱きついた人間の首から、いつ何時透明な虫が這い出てくるか…。 |
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| 闇から来た少女 高橋克彦著 中公文庫 ¥560 | |||
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| ブラッド 倉坂鬼一郎著 集英社文庫 ¥533 | |
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普通の人々が狂気に目覚めていく、そんなストーリィの小説はざらにある。本書の特徴は、日常の匂いがするところにあるといえる。それこそ、自分の中の狂気の存在を考えるほどに。 主人公の公卿小太郎も初めは殺人に注目する観客の一人だった。が、偶然か必然か事件の渦中へと巻き込まれてゆく。事件に関心をもった時点で、既に観客から出演者へと、立場が変化してしまっていたのかもしれない。物語は彼を主人公として進んでゆくが、被害者兼加害者となる登場人物たちの視点がいれかわりたちかわり表れるため、ものすごいドライブ感である。ただ暴力的な死を、ここまで無機質に描くことができるのは、ある意味恐ろしい。「それ(顔)は血と肉のピザと化した」など著者らしい表現も健在で、想像力の逞しい方なら顔を顰めること請けあいだ。私は当分ピザは遠慮したい。 |
| 嘘、そして沈黙 D・マーティン著 扶桑社ミステリ文庫 ¥641 | |
| 殺人を犯し、少女を誘拐して潜伏するフィリップ。彼の狂気じみた行動やその言葉は、常に読み手に不快感を与えつづける。「誰かに暗闇で舐められているような嫌な感じ」としか表現できないが。「右手がついていたところから、ぎざぎざの骨が一本突き出している」フィリップが持ち歩く腕の主の描写にはぞくぞくするほどリアリティがある。 主人公テディは天才的な頭脳を持つ刑事でも、正義感が強いわけでもない。妻子に逃げられ孫にも会わせてもらえない、むしろ駄目人間の部類だ。しかし相手の様子を見るだけで嘘をついているかを見抜く特技があった。その目で事件の闇を見抜きながら暴くことに躊躇する彼はとても人間らしい。 嘘、そして沈黙。この題がすべての謎を結実していることを、読み終えてから「ああ」と感じて頂きたい。 |
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| アメリカン・サイコ ブレッド・E・エリス著 角川文庫上下各¥580 | |
| はっきりいって、ワケがわからない小説である。パトリックなるビジネスマンの日常は、仲間との見栄の張り合いと自分を鍛えること、そして、自らの異常変態趣味に費やされている。その彼の日常を脚本のようにつづったのが本書だ。場面は矢継ぎ早に展開し、決して分かりやすくはない。いわば読者がこの混乱の中から何を感じ、何を読取るかを試されている気さえする。 すべてがパトリックの幻覚であるようにも、現実と夢の融合であるようにもみえる。くだらないと切り捨てるのは簡単だけれども、この、見事なまでに不可解な世界に放り出されたままラストを向かえるという感覚を、是非とも味わっていただきたい。 後はご自分の論理的思考力でこちらの世界に戻ってきていただければ幸いである。戻ってこられるかどうか、保証はいたしませんが。 |
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