「戦後六十年」
          必読十冊



ひよっこ特攻 永沢道雄著 光人社NF文庫 ¥790
 刻一刻と悪化する戦況に業を煮やした大日本帝国は、「国内態勢強化方策」の一環として、学生の徴兵猶予停止を定めた。これにより、一年繰り上げで兵隊になったのが、本書で語られる第十四期海軍飛行予備学生である。「どうせ兵隊になるなら陸軍よりは海軍のほうが楽そうだ」とか、「戦闘機に乗って空を飛んでみたい」という、なんとも若者らしい動機で海軍航空部隊を希望した者がほとんどだった。初めはごく一部の英雄の行為と思われていたが、予想以上の戦果を挙げるうちに、いつしかあたりまえの作戦として行われるようになっていった特攻。十四期予備学生もまた、ろくに訓練もしないまま、ボロボロの飛行機で飛び立つことになる。紫電隊の下士官が言った。
 「おー ひよっこもいよいよ特攻かい」
 特攻が志願か強制か、美挙か愚挙か。
 議論は尽きないが、自ら神風となる事を決心した彼らの心境は、ひしひしと伝わってくる。

吉岡(本店)

特攻へのレクイエム 工藤雪枝著 中公文庫 ¥820
 私は戦争関連の本が苦手で、今まで多分一冊も読んだことがない。文字からは想像できないことが起きたのに、それを文字だけで理解しようとすると、もう頭の中では描ききれず、苦しくて悲しくなるから。
 今回の本も実は「特攻」と聞いて一歩ひいていたのだけど、各地を周って丁寧に取材され、そして何よりも、散っていった彼らの想いを細やかに描写するすばらしい作品だった。
 「戦争が終わったら、世界から尊敬される、平和で豊かな文化国家を建設して、人類の平和と繁栄に貢献する、日本を再建して下さい」という隊員たちが残した訣別の辞を読みながら、今の自分たちの手の中にはなにがあるだろう、これから一体なにが出来るだろうと、ただただ、考えてしまった。

高橋(聖蹟桜ヶ丘店)

今日われ生きてあり 神坂次郎著 新潮文庫 ¥460
 特攻隊員の遺書や手紙、そして遺された家族や恋人をはじめ、最期のあたたかいひとときを共に過ごした基地の町・知覧の人々の記憶と証言――二度と還らなかった若者たちの不在を埋めるかのように、「戦争で死ねなかった」著者は様々な断片を集め、一つ二つと物語を積み重ねていく。刻一刻と迫る死の瞬間を前にして特攻隊員たちが記した言葉は、どれも圧倒的に美しい。けれども私はそれらが放つメッセージを、どうしても一度に飲みこむことができないままである。そして彼らが書かなかったこと、書けなかったことの方へと思いをめぐらせてしまう。遺された言葉はたったこれだけなのだ。
 ぜひ店頭でこの本を手に取って、まずは巻頭の写真をめくり、第一話だけでも読んでみてほしい。逡巡しながらページを繰り、今自分が一冊の本と対峙している、そんな感覚を覚えたのは久しぶりのことだった。

岸(本八幡店)

KAMIKAZE 石丸元章著 文春文庫 ¥670
 戦争は遠くの出来事ではない、はずなのに、思い描くことは出来ない、時代のこと。
 この作品は、特攻隊員を取材し、石丸氏独自の目線でその言葉を追いかけている。 そこには単なる聞き手ではなく、戦争を知る世代への暖かい気持ちがある。戦争しかなかった時代はたしかにあった。戦争をしらない私たちの世代は、あの頃を知る人たちの語ることを大切に受け止める必要があるのだと思う。
 文章はファンキー、でもその向こう側に流れているのは、生き抜いた人たちへの愛だ。

高橋(聖蹟桜ヶ丘店)

極限の特攻機 桜花 内藤初穂著 中公文庫 ¥800
 「彼らは一体どんな気持ちで、心意気でこの学校にいたのか、少しでもわかりたい」。高校時代、広島・江田島の旧海軍兵学校を訪れたことがある。人間魚雷「回天」と、壁一面に並んだ肖像写真から降りそそぐ特攻隊員たちのまなざしに外の暑さを忘れた。その場所は現在海上自衛隊の学校になっている。帰り際、グラウンドで訓練中の学生たちを遠巻きに見ながら、少し緊張して門を出た。外は静かな町だった。
 この本は今から六十年前の太平洋戦争末期、ある人物の発案のもと、技術を結集して作り上げられた特攻兵器「桜花」とその搭乗員の物語である。人間が爆弾と一緒に敵に体当たりし、諸共に炎上するという未曾有の戦法。隊員は潔く散る桜花の姿にたとえられた。すべてが極秘裏に進められた文字通りの「プロジェクトX」は、多くの失敗や不満、憤りを生みながらも、ついに中止されることはなかった。どうして? 何かが狂っていただけなのだろうか……?

岸(本八幡店)

月光の夏 毛利恒之著 講談社文庫 ¥520
 読んでいて涙が止まらなかった。戦争ものは嫌いなのに、大切な一冊になってしまったと思った。
 若き二人の特攻兵は小学生の前でベートーベンの「月光」を弾き、出撃していった。戦争は当時、小学校教師をしていた女性やピアニストを志した青年の人生を否応もなく変えた。本書を読むと、特攻にいった人たちに心を揺さぶられる。「自分の死や苦しみが、愛するものを守るなら」という想い。「死にたくない」という想い。戦争で、仲間失うということ。家族を残して死にゆくということ。
 ずっと戦争からは目をそらして生きていきたいと思っていた。だけど、そう思う私は、戦争でなくなった方々の上に立っているのだ。死んでいった人たちの想いを、残された人たちの想いをなかったことになんてできないし、絶対にしたくないと思った。

青木(聖蹟桜ヶ丘店)

重い飛行機雲 渡辺洋二著 文春文庫 ¥580
 戦争の理解に必要不可欠なものは、個に視点をしぼり、その肉声に耳を傾けることである。『重い飛行機雲』は、教科書やデータからは得られない、人間ひとりひとりのエピソードが丁寧に書かれ、戦場の真実をわれわれに教えてくれる。
 人間の価値が著しく低いものになってしまった現実と、世情に流されることなく命の重みを正しく理解し、揺らぐことのない価値観で自分を貫いた兵士たち。
 歴史を俯瞰し、全体を見ることの大切さ。そのことも充分に分かるが、ぜひそのつぎには、個人というところまで視線を下ろすことを忘れないでいただきたい。

宇田川(本店)

戦艦大和ノ最期 吉田満著 講談社文芸文庫 ¥987
 昭和二十年三月、天一号作戦
 戦艦大和、全長二百七十米、幅四十米
 乗組員、三千三百三十二名
 目的地、沖縄米軍上陸地点
 燃料等裁量、往路のみ――「神風大和ヲシテ真ニ神風タラシメヨ」
 この世界海戦史上類を見ない特攻作戦に参加したとき、吉田満はまだ二十二歳だった。一人の青年が、沈みゆく大和の中で何を見て、どう感じたのか。客観的な描写、戦争局面での本音と建前。文語体でなければ、当時の戦況をここまで鮮明に表現することは不可能だろう。奇跡的に生還した吉田は、終戦後ほとんど一日でこれを書き上げたという。
 今年十二月、戦艦大和映画化決定。原作はハルキ文庫『男たちの大和』。大和を語る上で、こちらも外せない作品である。

吉岡(本店)

戦場から届いた遺書 辺見じゅん著 文春文庫 ¥700
 ハリウッド映画など観ていると、絶対に死なない(当たり前だが)主人公の横で、つぎつぎと死んでいく名前も与えられていないキャラクターたちによく出会う。だいたいこういう時は、がんばれ主人公! といった感じになっていて、そんな名もないキャラのことなど数秒も憶えていないものだが、そのひとりひとりにも人生があり、家族があり、故郷があり、夢や展望を抱き――などと考えると、実はそこにこそ大切なものが多くあるのではないかと思ったりする。
 本書は、戦争を俯瞰したときには見過ごされてしまうような、兵士ひとりひとりの遺書をひとつひとつ紹介している。戦争はいけないこと――そう口にはできても、重みある真意を伝えることはなかなか難しい。だが本書を読んでもらえば、その難しさを越えて、真意を理解してもらうことができるだろう。

宇田川(本店)

戦士の遺書 半藤一利著 文春文庫 ¥500
私は戦争のことを何も知らない。本書を読んで、まずそう思った。授業で習うような、歴史上のできごととしての戦争を、知識として知らないわけではない。戦争が一人一人の人生を強い力で変えていってしまうものであるということを、改めて気付かされなければならないほど、私は戦争を他人事のように感じていたということだ。
 本書には、太平洋戦争で亡くなった二十八人の軍人の遺書と、人物像がありありと浮かんでくるようなエピソードが書かれている。今年は戦後六十年。戦争の話を直接聞く機会はほとんどない。そんな時代になったからこそ、本書のような本が大切なのではないかと思う。戦争が、私たち一人一人の身に大きな、取り返しのつかない影響を及ぼすものであるということ、どのような想いで人々が命をおとしていったかということを自分自身のこととして考える必要があると思う。

青木(聖蹟桜ヶ丘店)