乙女を知るための十冊
 乙女とはどんな意味でしょう。
 『大辞林』によると、「年の若い女。むすめ。しょうじょ。」という意味だそう。
 でも最近は「しょうじょ」の年齢がはるかに遠くなっても、むすめっていうよりお母さんだったりしても、はたまた男であったりしても、「乙女」を名乗る人々がいます。そう、「乙女」は一つの生き方、美意識をあらわす言葉なのです。
 私も乙女!という方にはもちろん、乙女って何?という方にも、お勧めの十冊です。興味ないなんておしゃらないで。この文庫たちを読めば、あなたの中の乙女が、発見できるかもしれませんよ・・・。




それいぬ 嶽本野ばら著 文春文庫PLUS ¥530
 現代における乙女のカリスマ、嶽本野ばら様の記念すべき第一エッセイ集です。乙女という生き方を選択した者にとって、この作品ほど功績の大きい書物はありません。
 乙女にはお友達なんていりません。根性ワルは乙女の基本。嫉妬する乙女は美しい…。
 こんなことを、美しくレトロでユーモラスな文章と独特の美学で綴っている方が、野ばらという名前で、しかも男子!この本を読んだたくさんの女子が、作家にせつない恋心を抱いてしまったのは仕方のないことです。それまでは、清く正しく花も恥らう若い女子にのみ与えられるちょっと古臭い称号だった「乙女」という単語は、この本によって生気を取り戻し、恥ずかしながら私にとっては、自身の生き方を表す言葉となりました。
 オマエいくつだよ、ですって?乙女であることに年齢も性別も関係ないのです。ボロは着てても、小じわはよっても(よりたくないけど)、心は乙女、ですわ。ね?乙女の皆さま。

鱗姫 嶽本野ばら著 小学館文庫 ¥500
 世は美白ブームですが、流行とは関係なく乙女の理想はいつだって雪のよに白く、絹のよにきめ細かい白肌です。肌荒れは、得体の知れない幽霊なんかより、よっぽど乙女心を脅かす問題。そんな乙女たちを、恐怖のどん底に突き落としたのがこのホラー小説です。
 家柄、財産、美貌、たぐいまれな美肌、そして超高い気位を持つスーパー乙女、楼子さんが主人公。その奇跡の美肌が、体に鱗が生える(ひえーっ!)という奇病に冒されてしまいます。体中がぞわっとかゆくなる恐ろしさなのに、なぜか抱腹絶倒のネタと乙女に嬉しいお洋服や西洋史、文学の知識も盛りこまれているいまだかつてない恐怖小説なのです。
 キャーっ!と言いながら読んでいるうちに、鱗病に冒されつつも自分の生き方を貫こうとする主人公と、超自己チュウでたぐいまれな高い美意識を持つ黎子叔母様のお姿に、感心したり変に励まされたり。美肌対策の役にはたちませんが、乙女は必読の1冊です。

あの道この道 吉屋信子著 文春文庫 ¥590
 吉屋信子先生を語らずして、乙女を語ることは出来ません。大正・昭和初期の乙女に絶大な人気を誇り、近年もさまざまな形で復刻されています。この作品は『冬の輪舞』のタイトルで今年ドラマ化され、文庫で手軽に読めるようになりました。
 同じ日に生まれた2人の乳飲み子が、運命のいたずらで入れ替わる。漁村で育ったしのぶ(本当はお嬢様)は美しく心優しい女子だけれど、お金持ちの娘千鶴子(本当は貧乏な家の子)はわがままで根性悪。少女になった二人は再開、とうとう真実が明らかに…。
 どこかで聞いたような話?と思う人も多いでしょうけれど、それは吉屋先生の作品がその後の少女小説や少女マンガの原点と言うべき物だからなのです。原作はドラマのようにドロドロしていない清らかなお話なので、小さいお嬢さんたちにも安心しておすすめすることができます。大正乙女になりきって、手に汗握り、二人の運命を見守ってください。

中原中也詩集 吉田ヒロオ 編 新潮文庫 ¥500
 大正から昭和初期にかけての詩歌には、素敵なものがたくさんありますが、中で最も乙女心をうっとりさせるのは中原中也ではないでしょうか。
 物語性があって、読みやすく美しい文体。死への連想に満ちていながらも、小さな声で口ずさみたくなるようなどこか明るいリズム。そしてなんといっても、端正すぎるお顔立ちとわずか30年の短く幸薄い生涯…。『中原中也詩集』を読むといつも、ああ、私も同じ時代に生まれて、こんなちょっとろくでなし気味の天才に情熱的な恋をしてみたかった、と意味のない妄想に耽ってしまうのです。
 数十年前に二十代の青年が書いた詩が、今もこうやって手軽に読むことができるのは、もちろんおバカな乙女の妄想のためだけではなく、たくさんの人の心に、ずっとずっと残り続けているからでしょう。詩なんて、教科書でしか読んだことないよ、という人にも、中也の詩はきっと響くと思います。

貧乏サヴァラン 森茉莉著 ちくま文庫 ¥567
 文豪の娘で、ファザコンで、ちょっぴり根性悪で、人に媚びなくて、気まぐれで、くいしんぼうというのが森茉莉という人のイメージです。なんて素敵!乙女として憧れずにはいられません。
 財産家の家にお嫁に行く時、父・鴎外が「お茉莉が西洋料理をうんとくうだろう」と言った、とか、室生犀星の家でしょっちゅう夕食をご馳走になっておきながら「鰻が出て困る」と書いて発表した、とか、文壇セレブな人々を相手にしたぷっと吹き出してしまうようなエピソードや、うっとりするほどおいしそうに描かれる数々の食べ物。そして、随所に出てくる若い女性への芯の通ったメッセージ。100年以上前に生まれた女の人が書いたと思えないほど、はっとするほど自由で新鮮な言葉に、背筋がすっと伸びるような気がします。
 こんな女性になるのは絶対無理だけど、茉莉さんのような贅沢な精神を持って生きたいと、この本を読むたびに思うのです。

カモイクッキング 鴨居羊子著 ちくま文庫 ¥546
 日本女性の下着に革命を起こしたデザイナーであり、エッセイスト・画家としても活躍した鴨居羊子さん。下着を実用的なものから自分自身が楽しむものへと変えたという彼女は、その活躍をリアルに知らない世代の乙女にとっても、気になる女性の一人です。
 そんな彼女が書いたお料理エッセイがこの本。経歴を聞くと、とびきりの才能と行動力に恵まれた「新しい女」でスーパーウーマンな羊子さんだけれど、この本を読む限り、案外大雑把でとにかく食いしん坊で、なんともかわいいおちゃめさんなのです!
 ひたすらおいしそうないろいろな国の料理。それを口にするとき、お行儀なんかより楽しさを優先する羊子さん。彼女が、いくつになってもどんな素晴らしいキャリアを持っても、自分らしさと日々の暮らしを大切にし続けたことが、このエッセイを読むとわかります。頼もしくて大好きな乙女の先輩、と言ったら、天国の羊子さんはどう思うかしら?

FOR LADIES BY LADIES 近代ナリコ 編 ちくま文庫 ¥882
 乙女心には、永遠に少女でいたいという気持ちと、素敵な大人になりたいと思う気持ちが両方あるものです。そんな乙女のお手本になる、大人の女性たちによって書かれたエッセイがたくさん詰まっているのがこの本です。
 今よりも、女として社会で生きることがずいぶん、もしくは少し困難だった時代に、自分らしさを失わず、夢をあきらめず、女であることにもきちんと向き合った個性と知性にあふれる女性たち。私たちの乙女生活も、彼女たちの存在がなかったらありえなかったのではないかしら。尊敬と敬愛の気持ちを抱かずにはいられないたくさんの先輩乙女に出会える。なんと贅沢な文庫でしょう。
 一番のお勧めは水森亜土ちゃんと吉行淳之介先生の対談です(47P)。百戦錬磨の大先生を前にしても、全くペースの崩れない亜土ちゃんのかわいさとかっこよさ、もちろんのこと全然負けていない淳之介先生。胸がドキドキ、そして大爆笑の傑作対談です。

ほうせんか・ぱん 大島弓子著 白泉社文庫 ¥570
 大島弓子というと、代表作の『綿の国星』や飼い猫・サバを主人公にした作品が人気ですが、乙女心をくすぐるという点では、やはり少女を主人公にした短編の数々の方がおすすめです。
 「ほうせんか・ぱん」の主人公、みどりの親友マーヤは、大人びた性格で人気者なのに、ある時から突然、身の回りの物を売り始めたり変なところでアルバイトを始めたり…、みどりや大人たちを心配させます。マーヤだけでなく、大島作品に出てくる風変わりな少女たちの突飛な行動や妄想は、周囲の人々を困惑させますが、それには少女なりのきちんとした考えがあってのこと。人からどう思われるかを気にするより自分の考えを貫く少女の切なさは時代も年齢も超えて、読者の胸を打つのです。
 舌の上でさっと溶けるはかなさと、いつまでも記憶に残る確かな甘さ。大島作品を読むたびに、乙女が大好きなそんなお菓子を一つずつ大切に食べているような気持ちになります。

小春日和 インディアン・サマー 金井美恵子著 河出文庫 ¥672
 乙女の自覚を持つ人々と「好きな作家は誰か」という話をする時、かならず名前が出るのが金井美恵子という作家です。中でも乙女支持率ナンバーワンなのが、大学生になったばかりの少女たちを主人公にしたこの作品です。
 舞台は華やかなバブル経済真っ只中の東京、といっても、主人公の桃子と花子は、当時人気のあったトレンディドラマに憧れたりなどしません。映画や読書を楽しんだり、一緒に住む小説家のおばさんとビールを飲んだり、親や同級生を意地悪な目線で批評したり。そんな二人の生活と、小説家のおばさんが書いたエッセイや短編が、とびきり読み心地のいい文章で綴られていきます。
 読みながら、桃子と花子ってちょっと自分みたい、と乙女は思ったりします。「乙女」なんて言葉を使う人は、あまりいなかった時代の桃子たちからは、なんだそれ、と迷惑がられてしまうかもしれませんけれど。

東京ホリデイ 杉浦さやか著 祥伝社文庫 ¥750
 現在の乙女にとって、等身大の憧れであるイラストエッセイストの杉浦さやかさん。かわいいものを発見することと日々の暮らしに楽しみを見つけることの天才が書いたこの本は、乙女がお散歩をする時の大切なお供です。
 下北沢、代官山、吉祥寺、銀座、浅草、合羽橋、神保町…。なじみの深いお買い物スポットから大人の街、下町まで。杉浦さんの「かわいい」と「楽しい」には、「わかる、私もそうだよ」という共感と「そんな見方があったんだ!」という尊敬の気持ちがいつも絶妙に混ざり合います。だからこそ、杉浦さんの言葉とイラストは、どんな情報よりきらきら楽しそうに思えるのです。
 この本はお散歩のマニュアルじゃなくて、とびきりセンスのある大好きな女友達からの絵手紙みたいなもの。この本を片手にお散歩に行けば、乙女じゃないあなたにも乙女という暮らし方の楽しさが、わかっていただけるのではないかと思います。