| 漲る老年小説十傑 |
| 老いてなお輝くー。 そんな生き様を見せてくれる主人公たち。この活力漲る傑作の数々をご覧あれ。目指すべき晩年がここにある! 本店 宇田川(沢庵) |
| 超老伝 中島らも著 角川文庫 ¥483 | |
| らもさんが旅立って、気が付いたらあっという間に一周忌である。 このひとの老年期は、ぜひとも見てみたかったなあ。さぞやとんでもなく、すこぶるおもしろい生き様を見せてくれたことだろう。だって、老人を主人公にしたこの物語を読むだけでも、こんなにバカバカしく、騒がしく、それでいてあったかい気持ちにさせてくれるのだ。 カポエラというマイナー格闘技の達人――菅原法斎と、彼を慕いともに暮らすモヒカンパンク少年と小娘が、つぎつぎと襲い掛かる刺客と戦いを繰り広げる。枯れることないエネルギッシュな日常を生きる姿は、元気になれる小説として太鼓判。自分が老いを迎え、気持ちも萎え気味なときは、真っ先にこれを読もうと心に決めている。 |
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大誘拐 天藤真著 創元推理文庫 ¥882 |
| 私にとっての最高のミステリは横溝正史『獄門島』(角川文庫)なのだが、この至高の一作に僅差で迫るのが、何を隠そう『大誘拐』である。 出獄したばかりの犯人たちが山林王である老婆を誘拐するも立場が逆転、元気なうえに頭の切れるお婆ちゃんの指揮のもと、巨額の身代金――百億円をせしめる大作戦が、TV中継されるなか展開する。個性的なキャラクターを始め、連続する駆け引きに隠された巧妙な仕掛けなどなど、あふれる魅力には、事欠かない作品だが、これから読まれるみなさまには、ぜひとも注目していただきたいのは動機である。この大誘拐を完遂してみせようと思わせた強い想いには、だれしもが心動かされるに違いない。 二時間サスペンスもおなじみのノベルスもいいが、どれもどんな内容だったかすぐに忘れてしまうなら、たまにはずっと胸に残る極上の物語を味わってみるのも悪くはあるまい。 |
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老人たちの生活と推理 コリン・ホルト・ソーヤー著 創元推理文庫 ¥861 |
| とにかく、前向き! 闊達な老人たるもの、こうでなくちゃいけません。コリン・ホルト・ソーヤーの描く〈海の上のカムデン騒動記〉シリーズは、そんな元気いっぱいな老人探偵団の活躍する人気のユーモアミステリ。高級老人ホーム《海の上のカムデン》を舞台に、小柄で舌鋒鋭いアンジェラと偉大なる女丈夫キャレドニアが、強すぎる好奇心と、あり過ぎる行動力を駆使して暴走するさまは、シリーズを通して痛快のひと言。 ぜひ本作が面白かったなら、続編『氷の女王が死んだ』、『フクロウは夜ふかしする』、『ピーナッツバター殺人事件』をお読みいただきたい。 衰えを知らぬ老年パワーが、シリーズを追うごとに増していく展開は、きっと多くの枯れた心を潤すはずである。 |
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バガージマヌパナス 池上永一著 文春文庫 ¥590 |
| 第六回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 タイトルは沖縄の方言で「わたしの島の話し」という意味で、もちろん内容は石垣島を舞台にしたど真ん中の沖縄物語である。島の娘―綾乃が巫女(ユタ)になるまでを描くなかで、海、空、風、そしてゆったりと流れる時間を言葉に乗せて感じさせてくれる妙は『バガージマヌパナス』の大きな美点だが、やはり特筆すべきは綾乃の一番の友達にして良き理解者の老婆――オージャーガンマーである。老いを迎えても、心や感情は柔軟であるべきことを教えてくれる、魅力的なキャラクターだ。 ラストの、温かさと哀しさが混じった感じは、あからさまに泣かせることだけを狙った書き散らしの文が到達できない、高い浸透度で心に染み入ってくる。 |
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古書店アゼリアの死体 若竹七海著 光文社文庫 ¥680 |
| 先ほどご紹介した『老人たちの生活と推理』は海外のユーモアミステリだったが、日本の作品にだって、元気で、笑えて、驚かせてくれる、素晴らしき傑作がある。 ますはみなさま、この『古書店アゼリアの死体』の表紙をご覧いただきたい。スレンダーな着物姿でタバコをくわえながら仕事にいそしむ、そのお姿。ロマンス小説専門の古書店アゼリア店主――前田紅子さんの、なんとまあ強烈なキャラでありましょうか。これだけで、ある意味、海外勢に勝っている感さえあるが、純粋にストーリーや仕掛けの妙を比べても遜色はない。 遊び心と本格スピリットを併せ持つ、極上の物語を、ご堪能いただきたい。 |
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ひらけ!勝鬨橋 島田荘司著 角川文庫 ¥880 |
| このひとが現れなかったら、我々はどれだけの驚愕と感動に出逢えなかっただろう。それほどまでに島田荘司という巨大な存在がミステリシーンに与えた影響は計り知れないのだが、多くの眼が人気のシリーズばかりに向かいがちで、単発作品の評価がいまひとつおろそかになっているのは、まことに残念な話である。『ひらけ!勝鬨橋』はそんな、これから正当に評価されるであろう、島田作品の裏ベストといえる痛快ユーモアミステリの傑作である。老人ホーム引渡しを賭けた、能天気な老人たち「青い稲妻」チームと汚いプレーのヤクザチームのゲートボール対決。失踪した仲間が殺される殺人事件。そして、仲間のために立ち上がった老人たちの一世一代の大勝負。笑い、涙、そして胸の熱くなるラストのカーチェイス。ページをめくりながら、きっとあなたも「開け、開いてくれ!勝鬨橋!」と声を上げずにはいられないだろう。こんなカッコイイ老人に、私はなりたい! |
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流れ者の冬 大沢在昌著 双葉文庫 ¥800 |
| 老いを迎えた人間には、ふた通りの生き方がある。 ひとつは、過去に眼をつぶり、いまの安定に寄りかかって、終りを待つ生き方。 もうひとつは、過去から眼を逸らさず、誇りある最期のために挑み続ける生き方。 『流れ者の冬』は、終りを待つ生き方を選んだーーはずだった、男の物語である。 そして、過去の因縁と向かい合う覚悟を決め、最後の戦いに挑んだ男の物語である。 ここには、私利私欲の為にあがく強欲な生命力はない。しかし、守るべきもののために必死に立ち向かう強靭な力が漲っている。 現代最高のハードボイルド作家が描く「老い」。この生き様を理想と思うか否か、あなたのこれまでの生き様と、目指そうと考える方向によって、読後感は違ってくるだろう。 |
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パイド・パイパー 自由への越境 ネビル・シュート著 創元推理文庫 ¥735 |
| ネビル・シュートといえば、SFの名作『渚にて』で知るひとがほとんどだと思うが、実はこんな作品も上梓していたのである。 第二次大戦下、独軍の侵攻が始まったフランス。パンクで立ち往生していたパスが機関掃射を受け、自らの脚で移動を余儀なくされた老人。戦火の広がるなか、単独でも困難な行程を、彼は託された子供たちの手を引いて、故国イギリスを目指すーー。 戦時下において非力な存在である老人と子どもが、機智と忍耐で歩き続ける緊張感は、冒険小説のそれに少しも劣るものではなく、物語の芯がしっかりしているため、過剰な演出がなくても読み応えは充分。加えて温かな感動さえもわれわれに与えてくれるのだから、単なる異色作とは一線を画す傑作であり、銃撃戦も派手な攻防もないが、これは紛れもなく老人を主人公にした一級の冒険小説である。 |
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老人と犬 ジャック・ケッチャム著 扶桑社文庫 ¥650 |
| 名付けて「動物愛護暴力小説」。 凄惨な描写と後味の悪さで定評のあるジャック・ケッチャム。『老人と犬』は、少年によって面白半分に銃殺された愛犬の復讐に乗り出す老人の物語だ。地主の息子ゆえ、そして法律では飼い犬は「所有物」としか見なされないため、老人の受けた大きな喪失感に見合う裁きが下されない状況は、読むほどに怒りが湧き上がってくる。 ここには、老いや孤独を包み込む希望や輝きは存在しない。厳しい理不尽が容赦なく押し寄せる、救いとは程遠いリアルが老人の前に立ちふさがる。 この先の人生、そしてこの国の未来は、必ずしも良いものであるとは限らない。自らの老後が、絶えがたい理不尽に見舞われる可能性は皆無ではない。暗雲が頭上を覆っても、なお自分を貫く生き様と死に様を、あなたは示せるだろうか。 |
| 星の陣 森村誠一著 角川文庫 ¥上・下各530 | |
| 方向性は『ひらけ!勝鬨橋』に近いのだが、ヴァイオレンス濃度がこってりし過ぎて凄いことになっているのが、この『星の陣』だ。老人たちが復讐のために結集し、隠しておいた武器を手に暴力団を殲滅するという、なんとも大藪春彦リスペクトな内容は、おもしろさ抜群で、森村作品の裏ベストに推すひとも実は多い(らしい)。多くの犠牲を伴う過酷な戦争を耐え抜いた結果、いま存在している日本。だが、そこには当時を生きて支えた世代を敬い尊ぶ精神ははく、心の荒廃した者どもが無数に蠢き、蛮行を抑える力は上っ面の平穏を安寧と錯覚し、すっかり堕落してしまった。下す鉄槌がないならば、己が鉄槌と化すーーこの怒りと熱量。これこそ、老いてなお、ひととして最後まで失ってならない芯のひとつであり、また正しく生きる若い世代が、いつか老いを迎えたときにも、そうであるものと信じたい。 |