| 「家族」を考える9冊+1冊 |
| 家族というテーマにこだわってみた。 今までの人生を振り返って、正直家族を大事にしてきたとは言いがたい自分だが、この年齢になってからでないと理解できなかったことも多々あり、じっくり考えてみる機会が欲しかった。 人間一人一人の人格形成に、家族というものが与える影響は本当に大きい。 そんあんことを最近漠然と考えていたが、今回取り上げた作品の数々を読み直して、改めてその大切さを痛感した思いだ。 しかし今の日本の環境は家族には厳しいことばかり。ただ単に父親の、母親の、子どもの精神的未熟さを攻めるのはどう考えても酷な話である。完璧な家族などありえないのが現実だ。だけど、完璧でない家族にだって幸せになる権利がある。時間をかけて少しずつ綻びを直していくことなら可能かもしれない。手遅れになる前にできること。今回ご紹介する作品からそのヒントを見出していただければ、選定者として幸いである。 日野(八千代台店) |
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機能不全家族 親になりきれない親たち 西尾和美 講談社+α文庫 ¥760 |
| 少年犯罪、児童虐待、ドメスティックバイオレンス。あるいは自閉症、引きこもり、アダルトチルドレン。こうした問題が起こる原因はその家庭のあり方にある。しかしこうした問題はごく一部の家庭だけでの不安にあらず。本書によれば世間の8割の家族が、本来あるべき機能を果しておらず、こうしたトラブル予備軍であるという。これが現代日本の典型的な家族。つまり「機能不全家族」だ。 極端な例を挙げれば、虐待された子どもが親になった時、自分もまた子どもを虐待してしまうというケース。こうした不幸の連鎖をどこかで断ち切らなければ悲劇は永遠に繰り返されてしまう。そうした悲劇を繰り返さないためにも、本来あるべき親の姿を掲示し、家族の機能を取り戻そうと試みるのが本書。しかしその実践は容易にできることだとは思わない。完璧な家族などあり得ないだろう。しかし、今日本のごく普通の家庭内で起きている些細な問題がいかに深刻で根が深いか、それを理解するだけでも本書を紐解く価値はあると思う。 |
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家族を「する」家 藤原智美 講談社+α文庫 ¥880 |
| 携帯電話を中心とした情報化社会、消費社会の急激な発展が、父、母、子どもをそれぞれ家族の外に向かわせてしまう現代日本。こうして家族の求心力は失われ、成立する意味がどんどん失われてしまっている。 家族の求心力を取り戻すためには、家族の役割、家族を成り立たせるための哲学というものが必要となってくる。それがない家族は破綻してしまうだろうと本書は警告する。 そのために「家族をする」ための家が必要となってくるのだ。夫、妻、子どもそれぞれの役割が機能し、夫婦、親子の絆が保たれる家とはどんなものか。部屋の間取り、構成と言った視点から考察。特に夫婦の寝室の重要性が指摘されている。 夫婦となって生活すればそれだけで自動的に家族が成り立つ訳ではない。むしろ意識的な家族作りの努力が必要であり、それほど家族とは大変で重要なことなのだという、本書の問題提起は限りなく重い。 |
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お受験 片山かおる 文春文庫PLUS ¥530 |
| さて次のテーマは子供の受験。私立校、それも小学校、更には幼稚園と早期教育に奮闘する家族を追ったルポルタージュ。 受験に「お」を付けて呼ぶこと自体に世間の皮肉が見て取れるが、その実態はあまり笑えない。そもそも公立校に対する教育内容や安全性の不安から親たちは私立へ通わせたいと願う。子供自身より親の安心感。しかしそのために払う経済的代償。受験を巡る産業の激化とトラブル。子供たちのストレスや早期教育の弊害など次から次へと問題が…。しかし物議を醸しながらも、涙ぐましい奮闘を繰り広げる子供と親を、愚かだと断罪することなど誰ができるだろうか? 事実受験を通して成長し、育まれる家族の絆という何物にも代え難い宝物を得ることもある。 社会の価値観の変化により、今や名門校への入学など必ずしも勝者への道ではなくなったかも知れない。だが選択した以上、それをどう生かすかは本人とその家族、そしてこの国に委ねられている。 |
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家族が「がん」になったら 森津純子 講談社文庫 ¥650 |
| 病気。家族を考える上で避けては通れない問題である。自分や愛する家族がいつまでも健康だという保証はない。年齢を重ねていくに連れて私たちの中で強まっていく不安だろう。特にがんという病気のもたらすストレスは患者にも家族にも重くのしかかる。 がん患者であった母親の介護経験を元に、ホスピス医である著者が記した本書は、患者よりもその家族の心構えと心のケアに重点を置いた本当に親切で誠実なテキストである。 患者にとって家族は何よりも精神的な支えになる反面、抱えるストレスも相当なもの。ちょっとした知恵や工夫で、患者も家族も、もっとストレスから解放されてもいいのだと本書はアドバイスする。とにかく無理をしないことこそよりよい介護への第一歩だ、ということが本書から私が学んだ大事なポイントである。がんのみならず、その他の病気での入院や介護といった問題を考える上でも本書は大変参考となる1冊だ。 |
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サグラダファミリア[聖家族] 中山可穂 新潮文庫 ¥420 |
| レズビアンとゲイと孤児の擬似家族の話と聞いて眉をひそめることなかれ。ここには人間としての根源的な愛の形がどうあるべきか読む者に問われている作品なのである。 人間は誰しも一人では生きてなどゆけない生き物だ。しかし、他人と生きていくこともまたとても大変なことである。常識や世間体、価値観の違い。そして愛する人との別れといったあらゆる厳しい洗礼を浴びながらも、それでもやはり人は一人では生きては行けないのである。 愛というものの甘美さも、残酷さも全て飲み込んで辿り着いた先に生まれた[聖家族]。一人一人の抱えた孤独が新しい家族の中で交錯する瞬間を目の当たりにしたあなたは、きっと今まで読んだことのないスケールの大きな[愛]に圧倒され、感動を覚えるだろう。 本書には家族小説として斬新だとか奇抜だとかいう表現はふさわしくない。むしろ僕は究極の家族小説と言ってもいいのではないかと思っている。 |
| 異人たちとの夏 山田太一 新潮文庫 ¥420 | |
| 家族がテーマの小説となると、登場人物は必ずと言っていいほど孤独である。だからこそ、家族の愛を欲するのだろうが、この物語の主人公も妻子と別れたばかり。しかも両親を子供の頃に戦争で失っているという、正に家族に恵まれない男だ。そんな孤独の日々を送る男の前に、死んだはずの両親の姿が。親の愛情を得られずに育った男が、その出会いの甘美さに抗うことなどどうしてできよう? 以来、憑かれたようにその[両親]のもとに通い続ける男。しかしそれは本当は会ってはいけない相手だった・・・。 物語は男の前に現れるもう一人の人物との恋愛を軸にファンタスティックに盛り上がる怪奇譚だが、夏のけだるい夕べに[親子]3人で円卓を囲んで麦酒を注ぎあうシーンは、子が親に求める安らぎ、温もりといったものを見事に表し、涙腺が緩まずにはいられない。読めば誰しも自分の親に会いたくなるかも知れない1冊。 |
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蛇蠍のごとく 向田邦子 文春文庫 ¥470 |
| 家族を舞台にした物語といえば、この人を外すワケにはいかないだろう。「阿修羅のごとく」「あ・うん」などの傑作を生み出した脚本家の、ユーモア感覚溢れる魅力が凝縮された作品。とにかく面白いのひと言。真面目一筋で生きてきたサラリーマン古田は、部下の女性との不倫を計画。ところがそこへ自分の娘が不倫同棲を始めるなどという一大事が。当然そんな娘と相手の男を許せぬ古田だったが、自分も不倫に走ろうとした負い目がある。そんな中での登場人物の心理的な応酬が可笑しく、時には切なくて、実に心地よい読後感を残してくれる。 どんな家族にも綻びがあり、人は愚かな行為を繰り返す。そうしたリアルな部分をおざなりにせず、しかしそれを承知の上で家族というものを愛すべき存在として描く。だから向田作品の登場人物はみな魅力的なのだ。 ドラマで実際に主役を演じた小林圭樹の解説もとても素晴らしい。 |
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お父さんの石けん箱 田岡由伎 角川文庫 ¥680 |
| このエッセイに描かれる父親像、母親像はとても理想的なものに映るはずだ。この2人とは、日本最大のヤクザ組織の組長とその妻。山口組三代目田岡一雄とその長女の交流は、読んでいて本当に心が洗われるエピソードに満ちている。日本の極道社会の頂点に立っていた男は、家庭内ではよき父であり、これだけ特殊な環境だったにも拘らず、娘は誰よりも[普通の人]として正しく育ったのである。ここで言うよき父とは、物分りのいい家庭人ということではない。人として大事な事をさりげなく、しかし誰よりも熱く子供に伝えることのできる父親ということだ。 勿論、現実に組織の活動は暴力と金にまみれたものだろう。本書はあえてそうした事柄には触れていない。しかし美化された印象が無いのは、却って極道組織の長、そして一人の人間としての田岡一雄の苦悩が透けて見えるからだ。そしてその裏で親と子の愛情がこれほど自然に育まれていたなんて、とても奇跡的なことに思える。 |
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幼な子われらに生まれ 重松清著 幻冬舎文庫 ¥600 |
| 正に家族とは何かを問う物語。過去の家族と今の家族との間で揺れる主人公。妻の妊娠をきっかけに、妻の連れ子の長女の態度が豹変。それぞれ苦い過去を捨て、理想を求めて結びついたはずの新しい家族が音を立てて崩れ始める。そして主人公は、家族とは何かという問いに自らがんじがらめとなり、追い詰められていく・・・。 しかしそのあまりにも辛いやりとりに、自分を見失いそうになっても、やはり彼の人間としての心を繋ぎとめたのは、彼をとりまく様々な人々であり、前妻であり、前妻との子であり、今の妻であり、今の娘たちであり、そしてまだ見ぬ息子だった。 全篇に亘り、家族を考える上でのヒントとなりそうなフレーズに満ち満ちてはいるが、結局「家族とは何か?」という問いに主人公も、私たち読者も最終的な答えなど見出せないまま物語は終焉を迎える。だが模範解答などすぐに出なくともよいのかもしれない。ラストに生まれた新しい生命にその問いは受け継がれていく。 |
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未確認家族 戸梶圭太 新潮文庫 ¥620 |
| ああ神よ!許したまえ! 至極真っ当に選んだハズのセレクションの最後にこのバカ作品を入れてしまう我が不謹慎体質を!しかもこれが今年の百冊ラインナップ大トリだぜ?ホントにいいのか!宇田川! 毎度おなじみダーティー戸梶の描く家族小説は最早説明不要のグチャグチャぶり。内容もあまりにもバカタレすぎてここでは書く気がせん、というか書けん!。 しかし、ここ昨今の少年犯罪や家庭内犯罪を語る時にやたらと使われる「心の闇」とかいう常套句。戸梶はこういうもっともらしい言葉を笑い飛ばすかのように、登場人物たちの異常さや変態ぶりだけを強調する。そして気が付けば果てしない殺戮と死体の山。これが戸梶流家族小説。この変態ぶりの裏には、個人一人一人よりも世の中の方が狂っているという著者の真摯なメッセージが・・・なわきゃないよな。 というわけで本コーナーでこれだけ番外編・・・いやここだけ異次元空間だと思ってご勘弁願いたい。ああ、神よ! |