「会社を辞めたい!」
 人のための文庫十冊

 会社を辞めたい!今思っているかどうかは別にしても、誰でも必ず考えたことはあるだろう。あなたが辞めたい理由は何だろう?仕事の中身?人間関係?逆にいろいろありながらも辞めなかった人の理由もあるはずだ。ニートやフリーターの増加が声高に叫ばれている昨今だが、定職に就いている人だって人生が安定したわけじゃない。本コーナー文庫のセレクションは、会社なんかさっさと辞めたら?という煽りでも、辞めないほうがいいよ、というスタンスでもない、もっと会社と自分の人生のあり方に幅広い選択肢を持たせたものになったと思う。会社とは無縁の生活だって選択肢の一つのはずだ。
 いずれにしても決めるのは自分自身。本コーナーの文庫たちがそのヒントを与えてくれるだろう。そういうお前は会社を辞めたいか?と聞かれれば・・・それは秘密です。




仕事のなかの曖昧な不安 玄田有史著 中公文庫 ¥620
 実を言うと、これを書いている私は転職経験者である。仕事上のいろいろな悩みや先の不安を、長年勤めた会社を退職して独立をしたばかりの知人に相談した時に勧められて読んだのがこの本だ。
 自分の持っている悩みや不安がどういうものなのか。今がどういう時代なのか。自分が社会の中でどんな位置にいて、転職をしたらどうなるのか。この本に書いてある詳細なデータと具体的な事例は、そういう問題を考える上で、実際に大きなヒントになった。本気で会社を辞めたいなら、この本を読んでからにしてほしい。これを読んで辞める気が失せる人もいるだろうし、本当に辞める人は読まないよりはすっきりと辞表を出せると思う。
 この本のテーマの一つである「自分で自分のボスになる」という言葉は、会社員として生きる人にこそ必要なのではないだろうか。私は今もその言葉に支えられて、毎日会社員を続けているような気がしている。

高頭(聖跡桜ヶ丘)

神様からひと言 荻原浩著 光文社文庫 ¥686
 この本は、決して名言集ではありません。若年性アルツハイマーをテーマにした「明日の記憶」著者荻原浩さんの作品です。
 佐倉涼平27歳は短気で喧嘩っ早い。転職した食品会社でお客様相談室に配属される。苦情電話の応対や訪問謝罪に辟易しつつ、逃げた彼女や音楽への未練を引きずり悩む。そんな彼を元気にしてくれたのが、神様だと思った人のなにげないひと言(実はホームレス)、相談室のメンバーが活躍するヤクザとの攻防、会社の不正、体質を告発する場面は、愉快・痛快・爽快です。彼の活躍もいいのだけれど、会社をやめたいと思っている人に読んでもらいたい一節があります。相談室の上司・篠崎薫、謝罪に関してはプロ中のプロだが、競艇狂い、オヤジギャグ炸裂のダメ中年(決して家族にしたくない)彼の言葉に「会社はおでん鍋・・」があります。夏向きではありませんが、じっくり味わってみませんか?

簡野(千城台店)

スズキさんの休息と遍歴 矢作俊彦著 新潮文庫 ¥660
 スズキさん、年齢、40歳を過ぎたくらい。広告代理店の副社長。社会的な地位もある彼は、怒っていた。妻が妹と海外旅行にでかけることをきっかけに息子を母に預け、初めて有給休暇をとるはずだった。妻を見送る朝、郵便ポストに入っていた「ドンキホーテ」。
 スズキさんは駆り立てられるように息子を連れ、シトロエン2CVで会津若松へ向かう。本の送り主であるかつて学生運動時代の仲間に会うために。時代は変わり、かつて共に闘った仲間も「それなり」の生活を営んでいた。そして旅は会津から八戸、最後は北海道まで続く。スズキさんの行動はどこかおかしく思えるのだけど、自分の信じることを貫き通すという、だんだんと失われていくものを持ち続ける彼は、読みながらとても眩しい存在になる。彼をこの旅へと動かした「ドンキホーテ」とスズキさんを重ねることもできるが、人はいつまでもドンキホーテのままではいられない。問題は、その夢のあと自分に何が残るか、何を思うか、だ。この作品を読んだあなたにも明日への何かが伝わるといい。

高橋(聖蹟桜ヶ丘店)

私小説 水村美苗著 新潮文庫 ¥660
 私が就職活動をしていた頃は就職難が叫ばれて久しかった。まだ学生だった私には、働いている大人はみな、安定しているように見えて羨ましかった。自分で選んだ仕事について、居場所があって、必要とされて、お金をもらえる幸せを世の大人たちはもっとしっかり噛み締めるといいと思っていた。
 本書を読むと、その頃の気持ちを切実に思い出す。不安と焦りと、自分がどこにもコミットしていけないような孤独感を。「水村美苗」とその姉が、日本にもアメリカにも居場所がないと感じ、職もなく、将来の展望も開けずにいた、その不安や孤独が読む者をものみこんでいくのだ。そういうときに私はいつも思い出す。楽しいことばかりじゃないし、落ち込むこともあるけれど、学生時代にもっと噛み締めればいいと思っていた幸せを、自分が手にしているということを。そうして、「また明日も仕事をしよう!」と思うのだ。

青木(聖蹟桜ヶ丘店)

「クビ!」論 梅森浩一著 朝日文庫 ¥525
 外資系企業の人事部長として、実に千人のクビを切った男としてついたあだ名が「クビキラー」。実際に「お前はクビだ」と宣告する訳ではないが、対象者から「辞めます」のひと言を引き出すのが彼の任務。
 本書を通して私達が学ぶべきは、どういう人物がクビの対象となるのかという事に尽きる。ひと言で言えば結果が全て。結果が出せない人間は身を引くしかないという事。
 非常に冷徹で身につまされる思いだが、どう思われようと人を辞めさせる事を仕事とし、プロフェッショナルに徹して遂行してきた彼の言葉は重い。だからこれはリストラ論という以上に、真摯な仕事論であるかも知れない。
 「会社を辞めたい」と思ったら、本書を紐解いて、社内での自分の存在価値を今一度確認してみたらどうだろう。自分がリストラ対象者に該当しない自信があるなら、いつでも辞めて他へ移れるだろう。だがもし対象者に該当するならば、このままで終るなんて悔しいじゃないか! 

日野(八千代台店)

働くことがイヤな人のための本 中島義道著 新潮文庫 ¥420
 『できることなら働かずに生きたい。人間なら誰しも思うことではないだろうか?勿論、私も思うわけで時々仕事なんかやってらんねぇっ!と投げ出したくなるわけである。しかしなぜか世の中のしくみは、働かなければ生きていけないということになっていて、それをやれ「前向きに」だ、やれ「生きがい」だとかいうもっともらしい言葉の罠にかけて、また人々は何事もなかったかのように仕事を続けるのである。大体「生きがい」って何なんだ?そんなA(C)物言いに促されたとしても、所詮人間は食う、寝る、出すだけの生き物である。それ以上何を欲張るというの?四六時中ポジティブになれるわけなんかないのである。と、言いつつ、でも働かないとまずいよな…。』という私のボヤキに、バカ言ってねえでさっさと働け!という方は本書とは無縁です。どうぞいつまでもキッパリとしていて下さい。そうでない方はご縁があるかも知れません。読んでドップリしませう。

日野(←上の「クビ論」と同一人物)

週末アジアに行ってきます下川裕治著 講談社文庫 ¥650
 週末アジアにいきたいです。というか、もうどこでもいいので旅にでたい、と切実に願う今日この頃。
 「貧乏旅行ライター」下川氏が提案するのは、金曜の夜に出発して、日曜の夜中もしくは月曜早朝に帰ってくるという、強行軍だけどゆったりアジアな旅。定刻になっても一行に発車しない、ベトナムのバス。路上で圧力をかける、インドの物乞い。想像すると、いらいらすると思うけれど、文章から伝わる自由の匂いに「旅欲」をかきたてられてしまいます。国ごとにおすすめの週末旅モデルコースも載っているので、実際に行けずともいったような気になるのはお得。いや、実際行きたいのですけどね。所違えば考え方も、常識も違うということが実例でわかって、それぞれのお国柄見聞もとても面白い。おいしいコーヒーを求めて7時間バスにゆられる、といった調子の下川氏の旅につきあうと、こちらまでゆったりした気分になるからフシギです。

小峰(IY船橋店)

ホームレス入門 風樹茂著 角川文庫 ¥740
 仕事をしたくないといったって「ホームレス入門」を紹介するのはあんまりだろうと思われたお客さま、ごもっともだと思います。でも、もし本当に本当に仕事をしたくなくて、ホームレスになってしまったときのために、本書を読んでおくのもよろしいかと。人生、備えあれば憂いなしでございます。
 本書は、自身も失業中の著者が実際に上野公園などを回り、ホームレスに取材したルポなのです。ホームレスといっても元は様々な職業についていたわけで、そこにいたる過程も人それぞれです。彼らは力強く生きていますが、問題は山積みです。私は軟弱者なので、やっぱりホームレスになるのは無理だろうと思いました。巻末についている「ホームレスにならないために」と「ホームレスにならざるをえない場合」を読んで、実践することにしましょう。

青木(聖蹟桜ヶ丘店)

擬態 北方謙三著 文春文庫 ¥700 
 最初から静かに、しかし逸らすことを許さない力強さで惹きつける。それが主人公、立原という男であり、『擬態』という物語である。
 平凡な会社員である立原が、取引先のビルの立ち退きから生じた抗争の中で少しずつ毀れていく様は、恐ろしくもあり、そしてまた快感でもある。圧倒的なリアリティをもって立原と読者の仕切りを取り払ってしまうからだ。読者は日常という枠の中にいながら、本書を読むことによってその枠を飛び越え、自分が体験したことのない境地を覗くことができる。
 しかしどんなに追体験しても、読者は立原ではない。日常を忘れて熱中し、会社に遅れるなどということがないようにご注意を。

永守(本店)

人間関係でいちばん大切なこと 斎藤勇著 三笠書房王様文庫 ¥530
 今年の春、めでたく就職が決まり、巣立っていった元バイトさんたち。早い者で半月、それから二ヶ月ほどの間に、一度は「やめたい」という声をきいた。いろいろ話をきいてみると、すべて人間関係が原因らしい。性格ではなくて、仕事を前提として集まった集団であるわけだから、合わない人がいるのは当然。とりあえず本書を渡してみたところ、7月になる今日、まだ離職の噂はきいていない。役立ったなら幸いなのだけれど。
 本書は簡単な心理テスト形式になっており、四つの選択肢を選ぶことでビジネス面での性格判断ができる。自分の深層心理をさぐることで、苦手な人のホンネを理解しよう、という趣旨である。まぁ、人間誰しも誤解されることはあるわけで、悪気があるのではなくてこういう考え方をする人なのね、とわかれば苦手のレッテルもとれるというもの。
 ちなみに、苦手な誰かさんの答えを想像して、心理テストをやってみるとさらに面白いのでおすすめです。

小峰(IY船橋店)