映像に負けない
   映画原作本
        素晴らしい映画を観るとき、全国の書店員が、きっと思っていること。
                  「映画もいいけど、原作もね!」




ミザリー S・キング著 文春文庫 ¥680
 選定した理由は単純。私が初めて映画を観る前に原作を読んだ作品だからだ。単行本で発刊当時1990年。普段あまり本を読まなかった学生にとってキングのホラーというのはとっつき安く、また監禁されたベストセラー作家とその熱狂的なファンの密室劇という背筋の寒くなる設定に興味を惹かれたこともあって紐解いた。当時はまだストーカーという言葉も一般化しておらず、一方的に追い詰められ、やつれていく作家の恐怖体験が見事に表現され、自分の中で残酷な映像的想像力が掻き立てられていった事は言うまでもない。
 さて映画だが、正直がっかりした。映像化とはこんなにつまらないことなのか?と失望した記憶がある。決して駄作だとも思わなかったが、原作の生々しい描写から涌き出た私の想像力に映画が勝てなかったという、実に自分勝手な理由。でも本作に限らず、原作を先に読んだという人にとって、こういうことは案外多いんじゃないだろうか?

日野(八千代台店)

ボーンコレクター ジェフリー・ディーバー著 文春文庫 ¥700
 空港からタクシーに乗った男女が行方不明になり、男だけが生き埋めで発見される。女の探索に、警察が協力を要請したのは、科学捜査専門家、リンカーン・ライムだった。
 映画では、ライムをデンゼル・ワシントンが、四肢麻痺の彼の手足となって動く女性巡査アメリアをアンジェリーナ・ジョリーが演じている。どの映像化作品でも同じことがいえるだろうが、小説のような細かい伏線をはることはきわめて難しい。緊迫した殺人シーンや謎解きはわくわくして見ていられたのだが、犯人の登場が突然すぎて、ラストのどたばた感は否めない。その点、原作のスリル感、緻密な伏線と人間関係は、まさに颯爽としていて完成度高し!本を閉じるのがもったいなくなります。特にライムとアメリアが衝突しながらも、互いに認めあっていくあたりや、ライムの世話をするトムとの皮肉の効いた会話が、殺伐とした殺人事件以外の見どころ。(読みどころ?)ライムシリーズは、既に二作品出ているので、そちらもおすすめ。

小峰(IY船橋店)

タイタニックを引き上げろ クライブ・カッスラー著 新潮文庫 ¥820
 今年、『死のサハラを脱出せよ』(第十一回日本冒険小説協会大賞受賞)が、『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』という題で映画化されて話題を集めたカッスラーの人気シリーズ。オイラ的には、ダーク・ピットはヒュー・ジャックマンあたりでやってもらいたかったな〜、などとムニャムニャ云いつつも、内心「ま、アレに比べりゃ合格点だけど」と思ってしまう、そのアレーー『レイズ・ザ・タイタニック』の原作がコレだ(なんだ、この文章?・笑)。国際謀略系のストーリーに、タイタニックを引き上げるという(しかもあんな方法で!)壮大なエピソードをぶち込んだ冒険物語は、荒唐無稽と云いつつも間違いなくミステリ史に残る傑作のひとつであり、いまなお高いリーダビリティと痛快な読後感を我々に約束してくれる。ぜひ、あなたの脳内映写機で存分に映画化していただき、あなただけの完全なる映画版『タイタニックを引き上げろ』を完成させて、大いに楽しんで欲しい。 

宇田川(本店)

野獣死すべし 大藪春彦著 光文社文庫 ¥620
 名画『野獣死すべし』は、松田優作を起用し、主人公――伊達邦彦を小説版とはまったく違うキャラクターにすることで、新たな魅力を獲得することに成功した。しかしそれは、云ってみれば、違うアプローチでしか小説『野獣死すべし』を映像にはできなかったということでもあるだろう。心の奥底にたぎる野望、それを実現に向かわせる闘志、計画完遂のための周到な用意、そして忍耐の末の実行。「犯罪の美学」などというと、快く思わないひとがいることは承知だが、それでもここにはどんな境遇でも我を貫いてみせる、屈することを赦さない者だけがまとう輝きが確かに存在する。だれがどんな生き方をするも自由だが、輝きをまとった生き様は、あまりにも数少ない。
 映像と小説――両方の『野獣死すべし』を体験することで、もしもあなたが妖しい輝きに目覚めたなら、この夏、本作を薦めた私にとって、これに勝る喜びはないーー。

宇田川(本店)

下妻物語 嶽本野ばら著 小学館文庫 ¥630
 たとえ好きな人と観に行くときでさえ、私は映画に笑いを求めてしまいます。笑いという観点からも、「下妻物語」の映画はすばらしいものでした。キャスティングも最高で、深田恭子は桃子のイメージにぴったりですし、イチゴは土屋アンナ以外には考えられません。  
だけど、原作には敵いません。まず、桃子の語り。ロリータであることを至上とし、我侭で、道徳や倫理の圏外に生きていて、本当に鼻につきます。けれど、私たちの心は、桃子に共鳴せずにはいられません。その筋の通し方は限りなくかっこいいのです。それから、イチゴ。本当におバカさんです。だけど、その純粋さとまっすぐさは桃子だけではなく、私たちの心を打ちます。二人の漫才のような掛け合いに吹き出しつつも、ラストでは涙が出るのを抑えられませんでした。
 この可笑しくも感動的な物語を、乙女だけでなく、おじさまやおばさま、男の子やご老人にも読んでいただきたいのです。

青木(聖蹟桜ヶ丘店)

凶気の桜 ヒキタクニオ著 新潮文庫 ¥580
 文字通り狂気の物語。映画化なんて一瞬耳を疑ったほど。渋谷に現れたネオ・トージョーなる結社。と言っても、渋谷の不良少年3人組がネオナチをまねて安易に作った組織。東條秀樹を祖とし、ナショナリストとして志高く活動していく・・・なんてのは表向き。その思想や信条なんて気まぐれや思いつきレベルの薄っぺらさ。ただただ自分達の苛立ち解消の為に気に入らないものを次々と狩って行くロクデナシ3人組。本来ならこんな奴らに肩入れする気なんて全く持てないハズなのに、物語のスピードが加速し、少年たちが本気になるにつれ、読む方も主人公たちに同化して気持ちが凶暴化していくアブナイ小説。なぜならこの少年たち、クールでも小利口でもなく、ひたすら「熱い」んである。その熱さゆえに罠にかかってしまうのだけれど…。
 申し訳無いが正直映画は未見。あまり芳しい評価は聞かない。が、この小説は読むべし。Read or die!!

日野(八千代台店)

ハイ・フィディリティ ニック・ホーンビィ著 新潮文庫 ¥740
 勉強ができない、スポーツも苦手、何よりカッコよくない。唯一の拠り所が音楽。そんな人が回りにいないだろうか(俺のことを指差すな、コラ)。そんな男が好きな女性のために曲を編集してプレゼントする。そのセンスだけで自分はバッチリだ、と勘違いスレスレのオタク男(だから指さすなっつうの!)。正にそんな人たちのためにあるような、愛と音楽に溢れた最高の小説、そして映画。
 中古レコード店店長のロブと、女性弁護士ローラの恋愛の行き詰まりの果てを描いた、他愛もないストーリーだが、全編に流れる音楽のセンスと、登場人物たちの魅力的なキャラクターがこの小説&映画を味わい深く盛り上げていく。危機を乗り越えて再び愛を獲得した主人公の語る最後の1行なんて結構ジーンときたりして。映画のエンドクレジットでは、スティーヴィー・ワンダーの「アイ・ビリーブ」がフィーチャーされていて、これまたジーンとくるのである。

日野(八千代台店)

シービスケットあるアメリカ競走馬の伝説 ローラ・ヒレンブランド著 ヴィレッジブックス ¥998
 シービスケット・・7歳で89戦、その競馬人生に移動した距離約9万キロ・・競馬に詳しくない方にはピンとこないかもしれないがこれは尋常ではない数字なのだ。そのスゴさに字数をさく余裕はないので、興味のある方は、オグリキャップの本でも読み、比べてみてください。
 北上次郎氏の言葉を借用して申し訳ないが、これは「馬と人との物語」としかいいようがない。彼らの波乱に満ちた歴史を見てきたように描ききる才能に脱帽。今回読み返してみて6回は泣いた。昨年の「このジジ」★(何のことかわからない人は去年のブックレットを手に入れて読もう)に入れたかったくらいだ。とにかく読んでくれ〜!としかいえない己の文章力が呪わしい。鳥肌ものの感動レースシーンのベスト3はステージハンド戦、2は対ウォーアドミラル戦、そしてベスト1は・・・。涙して下さい。
★この事実がすごい!略してこのジジ。「このミス」のモジリ

片山(千城台店)

ブリキの太鼓 ギュンター・グラス 集英社文庫@¥459A¥479B¥438
 ナチス政権下のドイツ、主人公オスカルは3歳にして世界に絶望し、自ら成長を止めて大人になることを拒絶する。いつまでも子供の視点で見る大人達の悪夢の世界に、オスカルは母からもらったブリキの太鼓を鳴らす事で小さな抵抗を繰り返す。そうしたオスカルの数奇な運命をグロテスク紙一重の映像美で見事に描き切った映画は、本当にとんでもない傑作。まさに活字を超え、映像でしか成し得ない領域に踏み込んでいる。
 しかし、映画しか観ていない方、この作品には続きがあるのをご存知か? 成長を止めていたオスカルが太鼓を捨てて再び自ら成長を始める、といった所で映画は終っていた。原作では第三部でその後のエピソードが記されるのだ。それは終戦後のドイツの復興と、オスカルの成長が重なり合うようにして描かれた、新たな混乱と悪意の物語の幕開け。
 まさに活字でしか成し得ないグラスの狂気に満ちた悪夢世界の続きをどうぞ。

日野(八千代台店)

飛ぶ教室 エーリッヒ・ケストナー著 講談社文庫 ¥520
 ケストナーの代表作のひとつであるとともに、児童文学史に燦然と輝く名作中の名作である。よもや私ごときが口を開くこともあるまい。どうぞ、お読みくださいませーーと筆を置いてもまったく差し支えないのだが、なんだかそれでは、のほほん男の怠慢と映りそうな気がするので、長すぎる蛇足を。
 キルヒベルクの学校の寄宿舎に暮らす少年たちを主人公にした物語が発表されたのは、ナチスの台頭と同じころ。学校の規律や友情というテーマは、この歴史的背景とまったく無関係ではない。人間性を無視し、厳しい規律によって統率することへの強い反発を、児童文学という形で子供たちへのメッセージに昇華した、ケストナーの偉大なる仕事。映像ともども、末永く世界中で愛されて欲しい作品である。