この夏読みたい
少年の成長物語十冊
 自分が最も好きなテーマを選定してみた。
 少年がオトナになるということは、すごく大げさに言えばこの世界に抗うことだと思う。戦いに敗れ世界と折り合いをつけて生きていくか、あくまで抗い続けて世界とは訣別して生きていくか。大半は前者だろう。だが自分の存在意義を確かめるためのエネルギーはいずれにせよこの時期に形作られてゆく。その過程がどんなものであっても、過剰にドラマチックに感じられてしまうのはそのせいなんだろうな。でもいいんだ、ドラマチックで何が悪い!男の子ってそもそもドラマチックな存在なのさ!(女の子も・・・かな?)
 ここに紹介する少年小説は時代としては少し前に遡るものがほとんどだ。つまり携帯電話も無い時代の物語なわけ。だから青春のあり方が現代と違う作品ばかりだ。そのエネルギーに触れることで、元気や勇気を与えられたら最高だな、とマジで思うのである。
 若い人も、かつて少年だった人も、ぜひ読んでみてください。
 日野(八千代台店)



ア・ルース・ボーイ 佐伯一麦著 新潮文庫 ¥380
 死人当然の高校生活に別れを告げ、折り合いの悪い母親から開放されるように家出した少年鮮(あきら)は恋人の幹(みき)と同棲生活を始めるが、幹には父親が分からない赤ん坊がいた。
 こうして始まった3人での小さな家族生活。
 職を得、協力者も現れた。貧乏で地味ながら順調に幸せに続くと思われた静かな生活。だがそう長くは続かなかった。
 幼少時のトラウマから母の愛を得られなかった少年が、ささやかな愛に幸せを見出したのも束の間、生活というものは愛だけではどうにもならないことを思い知らされる。
 しかしそのつらさと向き合い、再び少年は自分の生き方を決意し、自分の立つ場所の自由さを認識する。そんな力強いラストシーンがとても印象的だ。
 「ぼくは十八。アイ・アム・ア・ルース・ボーイ」
 ラストの台詞とタイトルにこれだけ深く幅広い意味と希望をもたせた小説を他に知らない。
 ぜひ多くの方に読んでもらいたい、

ダック・コール 稲見一良著 早川文庫 ¥672
 自然というものを、素直に、無邪気に見つめることができるのは、こどもの目線だけなのかも知れない。その目線は大人になるのと引き換えになぜか徐々に失われ、自分がそんなこどもだったことすら忘れてしまう。
 ここに収められた鳥をテーマにした6つの短篇は、大人と少年の出会いを軸に、自然の中でのそれぞれの邂逅が描かれた珠玉の短編集。特に猟で囮に使われる木彫りのデコイの視点から、口の聞けない少年との触れ合いが描かれたラストの「デコイとブンタ」が素晴らしい読後感を残す。
 どんなに自然を愛する大人だとしても、世の中のしくみを知ってしまった後では自然のことなど純粋に見ることはできないものだ。だが、著者はきっとそんなことも承知の上で自然と同様に人を愛したのだろう。この作品からにじみ出る優しさはそういうものだ。
 そういえば著者の晩年の仕事場は、花見川の傍に立てられた手作りの小屋だった。これを読んだ以上、いつか必ず訪れなければ。

楽隊のうさぎ 中沢けい著 新潮文庫 ¥540
 部活。中学に入学して初めて経験する放課後の課外活動。勉強以外に学校に残る理由ができ、そして先輩後輩の上下関係も知る。
 そんな中でも吹奏楽部って傍から見ていて羨ましかったなぁ。他の体育系の部活と比べ、チームプレイという共通点はあるけど、男女一緒に何かを成し遂げる事で、厳しい中に思春期特有の甘酸っぱさを共有できるような気がする(かくいう俺は何を血迷ったか卓球部に入部してしまい、そのまま幽霊部員と化した)。
 さてこの物語は、成り行きで吹奏楽部に入部した中学一年生克久君が、部活を通して音楽と仲間意識に目覚め、成長していく様が爽やかに描かれた名作。吹奏楽部がコンクールを目標に、部員だけでなく学校、PTAも巻き込んで一丸となっていく様子が微笑ましい。
 皆でひとつの音楽を作り上げていくまでのあの素晴らしい高揚感。そして幸福感と達成感に読んでいるこっちも心が熱くなってくる。懐かしさだけでなく、エネルギーも湧いてくる一冊。

九月の空 高橋三千綱著 角川文庫 ¥483
 思春期には、大人から見れば悩まなくてもいいようなことを悩むことが多々ある。だが葛藤が大きければ大きいほど、青春を生きた証として鮮やかに記憶に残るものだ。
 高校に入学したばかりの主人公小林勇は剣道部に入部。部活の厳しい練習や先輩の理不尽な仕打ちにも耐えながら稽古に励む一方で、このまま剣道だけを続けることが果たして自分の生きる道なのか?という葛藤に陥る。
 そんな中、家族との不和、性の誘惑、若さゆえの衝動、そして己の無力感などあらゆるものが勇の青春に絶えず降りかかっていく。
 しかしそうしたものを全て振り払うかのように、勇は一本の竹刀に思いを込めて打ちつける。それは生きている自分を感じる証として何物にも替えがたい瞬間なのだ。
 このまま勇が剣道を続けていったのかどうかは定かではないが、刹那的なこの一瞬を生きていくという真実を、これ以上ないほど鮮やかに描いた、青春小説の傑作。
 第七十九回芥川賞受賞作。

岸和田少年愚連隊 中場利一著 幻冬舎文庫 ¥600
 あのだんじり祭で有名な大坂は岸和田。男の世界に満ち溢れたこの街で、世間からはみ出し、ケンカに明け暮れる若者達の生き様を描いた青春群像だ。
 が、この物語が素晴らしいのは、そうした少年たちの鬱屈した青春は、あくまでも笑い飛ばすほどにユーモラスにPOP(これが重要)に描いている点に尽きる。だから不良少年の更生物語みたいな辛気臭さは全くなし!
 「ケンカ」「殺す」「ボケ」といった言葉がこれほどユーモアをもってポジティブに発せられている小説なんてありえない。そこには岸和田の男たちの何もかも極限までやりとげる精神の放つポジティブさが根っこにあるのだ。だからケンカだって勝つまで絶対にやめたりしないんじゃ、ボケッ!
 主人公のチュンバを初め、小鉄、サイ、アキラ、サンダ、とガイラの兄弟、そしてあのカオルちゃん(出番は少ないけど)など愛すべきキャラクターがパワー全開で繰り広げる一大成長物語。奴らだって素敵な大人になるのだ。

半パンデイズ 重松清著 講談社文庫 ¥730
 重松清という作家が好きだ。なぜならこの人の作品には本当のことしか書いていないからだ。人間の持つ心の奥底の闇の部分がそういうものか、この人はよく知っている。だからこの人の描く人物は皆人間臭くリアルだ。表向きはハートウォーミングな作風であっても、それは一貫している。だから感動のための感動だけに終わらずに読者の胸に突き刺さっていくんだと思う。
 この「半パンデイズ」は典型的な少年小説だという印象を受ける。都会から田舎に転校してきた不器用な少年が出会いと別れを経て健気に成長していく様子は誰もが共有してきたような少年小説の寓話に映る。
 しかしわかっていても思わず目頭が熱くなってしまうのは、文面に滲み出る人間臭さを描き出す筆者の圧倒的筆力に他ならない。
 闇の部分を凝縮して絶望を描いた昨年発表の問題作「疾走」とは対極にあるような作品だが、著者の人間の見つめ方は変わらないのだ。

何かが道をやってくる レイ・ブラッドベリ著 創元SF文庫 ¥777
 二人の少年ジムとウィルの住む町に、真夜中怪しげなカーニバル団がやってきた。そのカーニバルの回転木馬に魅せられた人々が我を失い、悪夢の世界に引き込まれていく。
 ウィルとその父親チャールズは、悪魔のサーカス団に捕らえられたジムを救うために勇気と知恵を振り絞って立ち向かう。それは人間の果てしない欲望から、誇りと勇気を取り戻す戦いなのだ。そう、この物語には人生のすべてがあると言っても過言じゃない。
 悪夢的世界で展開するジムとウィルの友情、ウィル親子の愛情に思わず胸が熱くなる。そしてとにかく台詞が素晴らしい!
「男の子って、なぜ窓を広く開けたがるんだろうね」「血が熱いからさ」
「微笑みにもさまざまあるーその明暗のちがいを見分けることが大切なんだ。」
「おまえが泣けば泣くほど、彼らは、ますますおまえの頬から塩をなめるだろう。」etc
 巨匠ブラッドベリが贈る一大ファンタジーは、少年小説としても最高の作品だ。

ぼくは怖くない N・アンマニーディ著 早川epi文庫 ¥798

 主人公少年ミケーレは、友だちと遊んでいた廃屋の裏で隠し穴に鎖で繋がれ弱った少年を発見する。それが村中を揺るがす大事件に繋がっているとも知らずに。
 自分と同い年のその少年を不憫に思ったミケーレが彼にこっそり水や食べ物を与えていくうちに、2人に友情が芽生えてくる。やがてこの少年には、自分の父親を含む村の大人たちの組織的な犯罪が絡んでいることを知る。
 南イタリアの深刻な貧困事情を背景に、大人たちの不穏な動きと、ミケーレをはじめ何も知らない子供たちの対比が痛々しく映る。
 そして心優しいミケーレの友達を思う純真さと、父親を疑わなければならない哀しみが交錯した時、身を引き裂くような葛藤がまだ幼い彼を襲い、悲劇へと繋がっていく、だがその悲劇こそが少年を誰よりも大人にしていく。ラストシーンには不覚にも涙してしまった。
 イタリア文学の最高峰と謳われ、映画化もされた感動作。ぜひ紐解いて頂きたい。

くそったれ!少年時代 C・ブコウスキー著 河出文庫 ¥1260
 ご存知酔いどれ無頼派作家、我らがブコウスキー御大の当然想像し得る少年時代をベースにした、まさにどん底の自伝的長編小説。
 世界恐慌に見舞われた一九三〇年代、失業者の溢れるL.Aで、時代の鬱屈した空気がもたらす社会の影響をモロに受けて育った少年。親からも学校からも蔑まれ、劣等感と人間不信を募らせていった少年。全く生きる希望もへったくれもないわけだ。まさに世界の中心で「FUCK」と叫びたくなる青春ってわけさ。
 原書を読んではいないが、この小説の原文は間違いなくFUCKとSHITだらけだろう。FUCKとSHITに溢れた青春。その行き着く先は、酒とドラッグに溺れ、場末でのセックスに溺れるしかない絶望の果て・・・。
 だがこれはどん底に落ちながらもしぶとく時代を生き抜いたかつての少年への、ブコウスキーが送る醜くも美しき青春謳歌なのだ。
 これ読むと新宿三丁目どん底あたりで一杯飲りたくなるぜ。BGMはトム・ウェイツで。

うつくしいこども 石田衣良著 文春文庫 ¥470
 主人公の少年は、同じ学区内で起きた少女殺人事件の犯人は自分の弟だという事を知らされ、14歳にして重すぎる人生を背負わされる。だがそんな地獄の中で少年がとった行動は、弟の犯した罪と正面から向き合い、真実を探ることだった。そして弟の背後に意外な人物の存在を嗅ぎ付け、学校内を支配する生徒間の不穏な力関係を知る。少年は被害者のため、親友のため、そして弟のために勇気をもって立ち上がる。事件を通して成長していく少年の姿が実に感動的に描かれ、これだけ重い内容なのに驚くほど鮮やかな印象を受ける。
 この作品を選定した時、奇しくも佐世保の児童殺害事件が起きた。こどもによる犯罪が後を絶たない現実社会の救い難さに、私達は絶望するしかなく、小説に真実なんて見いだせないほど世の中は複雑になってしまった。
 しかしそれでも私は推薦する。この小説の持つ優しさと作者の真摯な思いこそ、もっと人々の心に伝わるべきだと。そして読む人の心を少しでも豊かにできるのが小説の力なのだと信じたいから。