笑いの先に真実が見える!
戦争ユーモア作品
              十傑!
   前口上
「戦争ユーモア」という言葉を見て、不謹慎だと思ってしまう・・・。
「笑い」が軽んじられる(傾向の強い)日本じゃ、割りに多いかもしれない。
ここ数年、わかりやすい物語が、もてはやされている。
悪いとは云わない。それが大衆娯楽の基本だもの。
でも危惧を覚えるのも、正直な気持ちだ。
物語を「読む」のではなく、そりゃ文を追ってるだけじゃないかと。
今回、魂と目を磨く、そんな物語を挙げてみた。
真のユーモアは、戦争と人間を浮き彫りにする。
シリアスが真実とは限らない当たり前を、この夏に知ってもらいたい。 
本店 宇田川



ベトナム観光公社 筒井康隆著 中公文庫 ¥580

 銃器を手に喝采を挙げる男たちに混じり、年端も行かぬ子供たちが、カメラに向かって、男たち同様に幼い声を張り上げている・・・。そんなテレビ映像を見ながら、想像してしまうのが、あの子たちは、なぜ争いが起きているのか、いまなぜ相手の死や破壊に喝采を挙げているのか、分かってないだろうということである。戦場に生まれたなら、戦争は日常である。日常で銃を手にしない国に生まれたなら、戦争は遥か遠くのこと。無関心でいようと思えば、いくらでもそうできてしまう、それくらいのことだろう。
 『ベトナム観光公社』は、三十年以上前の小説ながら、天才筒井の嘲笑と皮肉が満ち満ちた非の打ち所のない傑作短篇である。
 戦争が見世物と化し、そもそもの目的さえ霧消した世界。あなたの笑いはいつしか引き攣り、愚かさに打ちのめされたのち、とり残されたような寂寞が容赦なく襲い掛かる・・・。

キャッチ=22 ジョーゼフ・ヘラー著 ハヤカワ文庫 上下各¥800
 この作品が、品切れ絶版の憂き目にあわず、こうしてわれわれの手に届くうちは、まだ世界は大丈夫・・・。そんな風に思うのは私だけだろうか?『キャッチ=22』は一九六一年に発表されているが、筒井康隆『ベトナム観光公社』同様、いま読んでも充分に刺激的であり、現在蔓延する諸問題をバッサリ斬り、新たな視野を与えてくれる多くを内包している。ここに描かれるブラックユーモアたっぷりの狂気や矛盾は、奇想天外、荒唐無稽であっても、「この登場人物を、あの国に、あのひとに〜」、なんて具合に置き換えると、途端に、いまわれわれを取り巻く危機的状況が浮かび上がり、読者の笑いは凍り付いてしまうだろう。だが、本書の優れた点は、こういった描写だけではなく、こんな破綻した世界でなお、前を向いて生き抜こうとする人間の強さを活写した点にも発見することができる。
 このラスト、私は大好きなんである。

山椒魚戦争 カレル・チャペック著 ハヤカワSF文庫 ¥903

 なにかの文章で、「ある小説を一字一句暗記したとしても、それがその作品を読んだことにはならない」、というようなことを見た記憶がある。なるほど、確かに。本書はSFの古典的傑作であるとともに、ナチス批判の書であることは有名な話だが、「山椒魚」 という無垢な存在が、文明に触れたことで歯車が狂いだす点、人間の愚かさを痛感させる点など、現代的な観点で読んでも充分に通用するものであり、多くの示唆に富んでいるゆえ、くれぐれも表層的な、たとえば奇抜な点だけをおもしろがるのではなく(いや、もちろんそれもいいのだが)、どうか、世情のあれこれを重い、作品と照らし合わせながら読み進めていただくと、濃い読書体験ができるだろう。
 あ、ぜんぜん関係ないが、当フェア実行委員の一部で表紙のイラストが好評です(笑)。

悪童日記 アゴタ・クリストフ著 ハヤカワepi文庫 ¥651
 「戦争ユーモア」という言葉を口にしたとき、「たとえば『悪童日記』みたいな?」と数人のひとに云われた。いかに強烈な印象を残す作品なのかが、お分かりいただけよう。
 戦火のなか、双子の少年が記してゆく日記は、オトナたちが我を忘れるほどの過酷な状況と、そこで屈することなくしたたかにたくましく生きる様子を、色付けを拒否するような乾いた文章で簡潔に綴ってある。ここでは同情したくなるような痛々しさは影を潜め、学校や宗教など、身を寄せるものがなくとも関係ない、生きる輝きが読者を魅了する。
 完成度の高い小説である。読み返せば読み返すほど、作品の本質とは別の、構成や分量や視点などの技術的な面においても、秀逸なことを確認できるだろう。
 ちなみに本書は『ふたりの証拠』、『第三の嘘』と続き、三部作を成している。クリストフの真意に触れるべく、ぜひこのニ作品もお読みいただければと思う。

プレオー8の夜明け 古山高麗雄著 講談社文芸文庫 ¥1365
 昨年、古山高麗雄の『断作戦』、『龍陵会戦』、『フーコン戦記』の「戦争三部作」が、立て続けに文春文庫から刊行された際、多くの読者に歓迎され、新聞などで紹介されるほどの話題を集めたことは記憶に新しい。『プレオー8の夜明け』は、そんな古山高麗雄の芥川賞受賞作である。
 捕虜生活というと、外側から見れば危機的な状況に見えるもの。ところが、内側では重苦しい緊張感もほとんどなく、毎日毎日同じ朝夕が繰り返されている生活を、古山作品独特のユーモアを交えて描き出した本作は、戦争の持っている直接的残酷な面の正反対、なんとも、ゆる〜い部分を垣間見せてくれる。機能しているものの、効果的かどうかは疑わしいシステム。その中の、現状を忘れてしまったかのような、捕虜たちの滑稽ともいえる立居振る舞いは、ありがちな戦争文学にはない、笑いと悲哀を誘うのである。

兵隊よもやま物語 冨澤繁著 光人社NF文庫 ¥795

 「戦争ユーモア」という括りで作品を選んでみると、人間の愚かさを暴き立てるような作品が比較的挙がりやすいのだが、愚かさとは別の滑稽さ、いわゆる人間臭さにあふれたものもご紹介したいと思い、本作を選んでみた。
 私は正直、将軍などの、上の方にいるひとたちには、あまり興味がない。時代モノでも、武将よりは、庶民や職人などの世界に強く惹かれる。特別視したものから分かることなど、せいぜいたかが知れているのだ。その時代、世情の真実を知るには、下の方から(くれぐれも見下しているわけではないので念のため)汲み上げたネタのほうが、よりいいのである。
 戦争というと、特攻や大空襲や侵略からばかり知ろうとしがちだ。もちろん、間違いではない。が、本書のような点から戦争を知ることも、私は大切だと思うのである。

兵隊やくざ 有馬頼義著 光人社NF文庫 ¥660

 『兵隊やくざ』で、その人間臭さをみなさまにオススメしたわけだが、本書はそれを小説の力でさらにパワーアップさせた、飛び切り痛快な物語である。この『兵隊やくざ』、そして『続・兵隊やくざ』は、表紙をご覧になってお分かりのように、勝新太郎主演で劇場公開され、『座頭市』、『悪名』と並ぶ、人気シリーズとして親しまれたことは、いまさら説明もいらないだろう。けれども、若いひとたちは知らないかもしれないので、念のため(一応、私、二〇代ですけどね・・・)。ビンタなんかなんのその、上官にさえ拳を繰り出す一等兵・大宮貴三郎は、戦争という愚かしく痛々しいなかで、燦然と輝いて頼もしい。どんな状況下でも自分を曲げず、わが道を突き進みながら、それでいて「兵長どの」に見せる愛嬌など、愛すべき無頼の姿に誰しも魅了されるに違いない。

続・兵隊やくざ 有馬頼義著 光人社NF文庫 ¥660
 愛すべき無頼コンビの活躍(暴走?)を紹介するに、「戦争ユーモア」の括りのなかでは、『兵隊やくざ』のみでもいいかとは思ったのだ。だが、やはりアノ拍手喝采のラストの後、ふたりはどうなったのか気にならない読者は皆無であろう。というわけで、考えること数秒で『続・兵隊やくざ』を入れてしまった次第である(笑)。
 自分を見失うことの多い職場において、我を貫き続けた大宮の豪快な人間性は、愚かしさなどの弱さとは別の、ひととしての強さ、正直さをガンガンに見せてくれた。本書では、追われる身となったふたりが、さらに波瀾万丈の道行きのなかで、前作とは違った痛快さと感動をわれわれに与えてくれる。
 もし、映画を知らずに本書を読み、存分に楽しまれたなら、どうか映像のほうもご覧いただきたい。
 時を忘れること請け合いである。

水木しげるのラバウル戦記 水木しげる著 ちくま文庫 ¥998
 水木大先生(知ってるひとは知ってるだろうが、「ダイセンセイ」ではなく、「オオセンセイ」と読む。「ダイ」より「オオ」の方が、上、なんである)の登場である。
 意外な話だが、おそらく今回の選定本のなかで、いちばん「笑い」度の低いのは、本作なのではないだろうか。上官のビンタが、ビビビーン!と、漫画と同じように描かれてはいるものの、全体的にはユーモアを抑えた筆致で、当時のラバウルの様子が、そして水木大先生がどんな目にあったかが淡々と描かれている。
 この「ラバウル戦記」も名作だが、私がとくにイチオシしたいのは、その後の「トーマの日々」と題された、イラストとコメントで構成されたパートである。戦争に直接触れたものでなくても、そこから、その時その場所のナマな感じが、むわっ、と立ち上ってくる様は圧倒的である。

不肖・宮嶋 史上最低の作戦 宮嶋茂樹著 文春文庫プラス ¥600
 ご存知「不肖・宮嶋」さんである。
 「戦争ユーモア」という括りでコレを挙げるのは、チョイト違うんじゃないか・・・。そんな声が聞こえてきそうだが、 いやいや、そんなことはないのである。たとえば、普段あまり本を読むことなどなさそうな若いひとたちが、宮嶋本は買っていく。口では「戦争はいけない」とは云っても、その実、関心などビタ一文ないだろうひとたちが、「不肖・宮嶋」なら関心を寄せる。コレって、素晴らしいと思うのである。「のるまんでぃ〜? 聞いたことはあるけど」、「自衛隊って、なにしてんの?」というひとも、本書をゲラゲラと爆笑しながら読めば、その一端に触れ、知識と情報を得ることができるのだから。
 まあとにかく問答無用、抱腹絶倒の作品ゆえ、なにも考えず手にとってみていただきたい。
 あ、最後、ちょっと泣けますよ。