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あなたの夏のおもひでに・・・ 恋愛小説十冊 |
| 「夏の恋」 某夏限定バンドではありませんし、ありきたりなフレーズではありますが、なんとなく特別な響きをもった言葉ではないでしょうか。 ここに集められた作品群は、恋愛という共通のテーマがありながら、その登場人物、状況はバラエティに富んでいます。 まず、自分の身の上には起きないだろう恋や、青春を思い出させるもの、あるいはこれから起きてもおかしくはない恋、あなたが一番良いと感じるのはどの物語でしょうか。 「夏の恋」をしたことのある方は、そのときの気持ちを思いだしながら・・。 またこれからする予定のある方はどうぞ予習代わりに。 最もシンプルな、誰かを好きだという思いから生じる複雑 かつ不可解、しかし時に美しい物語をどうかお楽しみください。 |
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御伽草紙 太宰治著 新潮文庫 ¥540 |
| アナタの目の前に太宰好きを公言する人がいるとしたらこう思わないだろうか?生まれてきてすみません、なんて書くヤツを好きだなんてこいつもきっと、と。しかしそれは根拠のない(こともないけど)言いがかりである。それはフォークロアに太宰なりの解釈を加えた作品を収めたこの短編集を読めばわかるはず。特にオススメなのが「カチカチ山」で、これをクスリとも笑いをもらすことなく読むなんて不可能だと断言させていただく。事実選者は周囲に人がいる状況でこの作品を読んで爆笑していたら変な目でみられたという過去がある。しかしこの作品をその人にすすめたらその人も爆笑。それぐらいおもしろいのである。笑いのスイッチは、涙のスイッチのすぐ側にあって間違えて押しやすいらしい。また、喜劇と悲劇は紙一重ともいう。とうことは、最高におもしろい話を書く人であるといえる。太宰とはそういう人だ。 桑村(本店) |
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ねむりねずみ 近藤史恵著 創元推理文庫 ¥546 |
| 著者近藤史恵は「凍える島」で第四回鮎川哲也賞を受賞、デビューしたミステリ作家。その後もシニカルな恋愛小説や時代小説を執筆したりもしていますが、本書も敢えてカテゴライズするならばミステリ小説であり、決して恋愛小説とは呼べないであろう作品です。それでも、歌舞伎の舞台で起こった事件を追ってゆく只中で展開する、狂おしいほどの愛蔵劇。その悲痛、狂気。そうした場面を読んでいると、やはりこれは恋愛小説なのではないかと思わずにおれないのです。 特に233ページの小菊の台詞。ここには、恋愛ということにおいて、日頃つい忘れられがちな真実が示唆されているように思えます。(こう感じてしまうのは、私の幼さでしょうか?) さておき、甘くて切ないだけの恋愛小説に食傷気味な方にもお薦めの一冊です。 池田(IY船橋店) |
| 君を見上げて 山田太一著 新潮文庫 ¥450 | |
| 世の中の男性は、自分より十九センチ背が高い女性と付き合うことを想像しますか?逆もまたしかりです。大抵の人は想像もしないことでしょう。しかし、それは何かおかしいとは思いませんか?何故、男性のほうが女性よりも背が高くなくてはいけないと思うのでしょうか? この物語に出てくるカップルは、女性のほうが背が高いのです。しかし、二人は恋愛物語の補足に乗っ取ってお互いに好意を抱きます。しかし、この二人はいっしょにいると当然のように奇異の目で見られます。二人はそれにささやかで、静かな戦いを挑みます。もちろん、自分の中に残っている偏見にも。 登場人物の一人がこんなことをいいます。「時代はかわったとかなんとかいったって、背丈にこだわっているようじゃあ、たいした事はない」つまらない思い込みを、思い込みとも思わないまま肝心なことに気付かない。そんな誰にでもどんな状況でも起こりうることを考えさせられる作品です。 (瑞江店・太田) |
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春の雪(豊饒の海第一巻) 三島由紀夫 新潮文庫 ¥660 |
| 夏の100冊なのに季節にそぐわぬタイトルだが、恋愛本ときき真っ先に浮かんだのはこの、松枝清顕と綾倉聡子の美しくも悲しい恋物語である。若い二人の屈折した不器用さにもどかしさを覚え、未成熟なゆえの一途さにはらはらしながらも本多のように「人間の情熱は、いったんその法則に従って動き出したら誰もそれを止めることはできない」のを知るのである。豊饒の海は、輪廻転生というテーマのもとに書かれた四部からなる大作である。ここに張り巡らされた幾つもの伏線が、四部を読了したとき、ああ、と合点のゆく物語の壮大さに気付かされるのである。三島は、この四部作を完成させた直後に、市ヶ谷駐屯地で割腹自殺をとげた。 夏休みを過ごす鎌倉の終南別業という別荘は、旧前田公爵邸で、現在は鎌倉文学館となっている。ここからみる景色は素晴らしいので、興味をもたれた方は訪れてみてはどうだろう。 (千城台店・片山) |
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パラレルワールド・ラブストーリー 東野圭吾 講談社文庫 ¥780 |
| じつは現在、この東野圭吾の隠れた傑作をイチオシしている書店は何店舗も存在している。そのため、今回のラインナップに本作を加えるかどうか、当初は躊躇していたことを告白しておく(天邪鬼なもんでね)。だが、裏を返せば、これは全国の書店員たちがイチオシしたくなるほどの作品ということでもあり、考えた結果、えいや!っと、ご紹介した次第である。 ひとりの女性が、友人の恋人である世界と自分の恋人である世界。ふたつの世界を案内し、読者を引きずりこむとともにその世界を収斂させ、施された仕掛けを鮮やかに、そしてせつなく描き出す東野マジックは、驚きと涙を同時に誘う抜群の冴えを見せる。恋愛小説として、ミステリとして、SFとして、自信を持ってオススメする一作である! (本店・宇田川) |
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終業式 姫野カオルコ 角川文庫 ¥619 |
| このタイトルを見て、「どうせ学生時代の淡い恋物語なんでしょ、ふんっ」と思われたお客様がいらっしゃったら、騙されたと思って読んでみてください。 本書には恋愛小説にありがちな予定調和がない。運命の出会いをして、多少の障害があったけれど、最後にはハッピーエンドで終わる、ただそれだけの恋愛小説にはちょっと食傷気味なのだ。だって実際の恋愛では、好きな人が横からさらわれてしまうことも、恋人とうまく気持ちが通じ合わなくてわかれてしまうことも、突然の結婚も、決して珍しいことじゃないのだから。人を好きになって、わがままになって、取り乱して、一喜一憂して、それでも相手に近づきたいと思う気持ちや、どうしようもなくすれ違っていく気持ちや、お互い好きなのにどうしても発展していかない関係をもどかしく思う気持ちなどで一杯になってしまう。軽く見て、侮ってはいけない小説だ。 (本八幡店・青木) |
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水の戒律 フェイ・ケラーマン(高橋恭美子訳)創元推理文庫¥945 |
| 「人生には二つの大きな悲劇がある。愛するものを失うことと、愛するものを得ることだ」と、かのオスカー・ワイルドは言った。けだし名言であろう。恋愛の妙味は、それが成就する過程にこそある。平たく言ってしまえば、男女の関係は結ばれるまでが時めくのだ。フィジカルな関係になってしまえば、恋愛においてそれは、終わりの始まりでしかない。だとすれば、理想の恋愛はプラトニックに尽きる。それも相思相愛の意志を確認せず、曖昧なまま留めておくのがベストだろう。何事も、秘すれば花、というやつだ。 そんな理想の恋愛を実践するのがーー正確に言えばせざるを得ないのがーー本書のカップルである。バツイチ同士の二人がある事件をきっかけに知り合い、互いに深く惹かれていくが、厳格な戒律が二人の間に大きな障害として立ちはだかる。 おぢさんたちも、きっと胸が時めくぞ。 (本店・茶木) |
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リプレイ ケン・グリムウッド著 新潮文庫 ¥780 |
| もし人生をやりなおすことができたら。切実に願ったことはないが、私の場合帰れるものなら大学時代だろうか。ほぼ引きこもっていたので、やりなおせるものならバイトなんぞをしてみたいと思う。 ラジオ局のDJをしているジェフは、ある日死に、気がついたら十八歳に戻っていた。二十五年分の記憶をもったまま。記憶を頼りに、投資や競馬で成り上がっていく様は、まさに笑いが止まらない状態だ。しかしいくら成功を収めても、幸せを手に入れても、毎回同じ年齢に彼はリプレイする。 おなじようにリプレイを繰り返すパメラと出会い、幾つかの試みをしてみて、自分たちには歴史を変えるほどのことはできないことに気付く。毎回愛する人と結ばれるわけではないということにも。最初はうらやましかったが、未来の記憶をもったまま経験する人生、終わりの見えている人生は、儚い夢のようで美しくも悲しい。哲学的でもあり、見事な幻想小説にも思える、いつまでも色あせない名作。 (IY船橋店・小峰) |
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一瞬の光 白石一文著 角川文庫 ¥780 |
| 心に絶望を抱えた人間ほど、愛の選択において悲しい結論を出してしまう。勿論その愛によって自分が報われるようなことは無い。 それを究極の愛などと書くと反発を喰らいそうだが、主人公の橋田浩介は物語ラストにおいてそういう愛を選択する。 この物語は人間の欲望と愛情の本質を余りにも生々しく浮き彫りにする。たとえ幸せな恋愛をしているように見えても、人間の本質は所詮汚れていて空虚なものだという、大きな絶望を主人公に背負わせている。 だがこの絶望を描かないことには、人間の本当の姿は見えてこない。白石一文はそこを描き切ることで人間の、愛というものの本質に迫ろうとしている。読んでいてこんなに辛い小説も無かったが、これほど感銘をうけたものもここ最近無かった。 救い無き物語の結末に「一瞬の光」が見出せるとしたら、それはやはり橋田の選択が、究極の愛だったと・・・私が勝手に思いたいだけかも知れないがそう結論づけておこう。 (八千代台店・日野) |
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わたしが・棄てた・女 遠藤周作著 講談社文庫 ¥520 |
| また読み返し、流れ落ちる涙、こみ上げる嗚咽を止めることができなかった。 哀しい物語だ。しかし、比類なき美しさを見せてくれる物語でもある。 過酷な運命に翻弄されてしまった田舎娘、ミツの最後の言葉は、凡百の恋愛物語が束になったところで敵わないと断言する。この世に神はいないのかと叫びたくなるような状況は、いまも昔も場所を選ばずおびただしくあふれている。そしてそれは、強い影響力で、ひとを残酷なまでに変えていってしまう。だが、そんな影響に左右されず、確たる意志で保ち続けた想い、貫いた信念、また凛とした生き方は、神々しく光輝く・・・。 これは、手軽に読み捨てできるお話ではない。読み終えた後、大きな課題を残すかもしれない。だが、それを避けずに受け止め、心に止めることができたら、比類なき美しさは、今度はあなたから発せられるかもしれない。 (本店・宇田川) |