入院したときに読みたい本10冊
      経験者は語る…
 入院した。厄年恐るべし。病名は卵巣嚢腫茎捻転。嚢腫だけでも痛いがそれがよじれてねじれた痛みを想像していただきたい。更には破裂し、開腹したとき中は血の海であったそうな。腹膜炎にもなりかけていたそうで、あと一日遅ければ危なかったですよ、と言われたが、危ないって命が?朦朧とした意識の中「3日くらいで退院できますか?」とマヌケなことを言い医者にあきれられたという。
自らの入院中のエピソードだけでも、1冊のブックレットが出来そうであるが、さておき「入院本」である。
 ここにご紹介する本は、直球ものから番外編まで、暗くなりがちな療養生活に、彩りを与えてくれるラインナップとなった。中には私的な理由でセレクトしたものも含まれているが、どの本も一字一句読み飛ばさずにしっかりお読みいただきたいものばかりである。
片山(千城台店)




愛しの筋腫ちゃん 横森理香著 集英社be文庫 ¥580
 世の中には切らずにすむために努力している人が多いという事実をこの本で知った。高校受験を前にした中学三年の夏に盲腸で手術をした経験があったので、あんなものと思っていたのが甘かった。もう腹を切るのは二度とごめんだと思うが、わがときわ書房には、二度の開腹手術に耐えぬいた強者がいる。
 たしかに切り取ってしまえばよいという西洋医学に従って治療を受ける一方で、割り切れない思いを抱えていた私は、この本を読み、術後の辛苦を味わう位ならば自然治癒をめざし生活習慣の改善に取り組むほうが良いと思えた。(といっても、異変にもっと早く気付いていたらのおハナシ。)実際に筋腫を患い、自然治癒をめざし取り組みを体現した彼女の徹底ぶりには頭がさがる。本書を読んだ方にはぜひ、続編の「もっと健康、もっと幸せ!」と「地味めしダイエット」もおすすめ。
ポジティブになれる1冊。

どんな病気も「温めれば治る!」 石原結實著 ワニ文庫 ¥570
術後、代替医療の必要に迫られ、様々な家庭医学書を読み漁っていた頃に出会ったこれまた直球な本である。著者は「思いっきりテレビ」などで有名な医師で健康実用書でもベストセラーを連発している。本書であるが、あらゆる病気は冷えからくる血行不良の部位に起こるので、体を温め血流を良くすれば病気は治るという石原理論をわかりやすく事例に沿って説明し、冷えのタイプ別改善方法と症状別温めレシピなど、知りたい情報がギュッとつまりコンパクトにまとめられた一冊。
 私は療養中、生姜紅茶を欠かさず飲んでいたが低血圧症の診断をいただき、低体温を誇っていたのが、これを飲むと確かに体温が上昇し、体調も安定していたのだ。季節的なこともあり最近はやめていたのだが、近頃また体調が悪いのも体を温めることとは程遠い生活を送っているからだと思い当たった。民間療法と侮るなかれ。
早速、171ページを読み返したのはいうまでもない。

おぼれる人生相談 松浦理英子著 角川文庫 ¥580
 当時月刊カドカワに連載されていたコーナーの文庫化。のためか相談者も年齢が若い人達が多い。お悩み本といえば、昨年のラインナップで取り上げた「明るい悩み相談室」とか今東光和尚の毒舌ものなど、インパクトのありすぎるものが浮かぶが、フツーの人たちのフツー(であるとは限らないが)の悩みを知りたい気分になった。そこでこの本である。著者だけに、終わりにある対談で、五木寛之氏が述べているように、シニカルなものを想像しつつ読んだのだが、誠意あふれる回答にいつしか心にじわーんと響き、ひきずりこまれていた。若者ゆえの思い込みにも、決して大人ぶらず真剣にひとりの人間として向き合う姿には、心うたれる。時折みせる辛口の松浦節にはスカっと爽快。しかし他人事だからこう感じるのだな、きっと。相談52には思わずツッこんでしまった。(って内輪ウケ)理由はあえて言いますまい。自分ひとりが辛いわけではないと、逆に前向きになれるのであった。

某飲某食デパ地下絵日記 東海林さだお著 文春文庫 ¥740
 入院患者にとって、食事が何よりの楽しみであるのは、一度でも入院生活を送ったことのある方ならおわかりであろう。今から8年前に肝機能障害で入院した当時の食にまつわる欲求についての記憶が全くない。あまりの煩悩の恥ずかしさから記憶を消してしまったとしか思えない。それほどに、今回の入院生活は、食欲との闘いであった。病状も危機を脱し安定してくると食事制限に耐えられない食欲が湧いてくる。差し入れにもらう雑誌のグルメ欄ではあきたらず、しまいにはdancyuをリクエストする始末。実際に食せないからこそ、視覚で楽しむ孤独な遊びに興じるのであった。本書は小田急百貨店・デパ地下の新聞広告が一冊にまとめられたもので、ショージ君の漫画と自筆の文章に商品の写真付き。
 楽園、デパ地下に行ける日を夢見て、涎をたらしつつページを捲るのであった。

キャパ、その青春 リチャード・ウィーラン 訳・沢木耕太郎 文春文庫 ¥620
 以前にアマチュア写真部に所属していた頃キャパの写真に没頭した時期がある、という個人的な理由で選んだ一冊。待望の文庫化、没後50年目に三分冊にて登場である。
 伝説の戦場カメラマン、ロバート・キャパの名は写真に興味がない方でも御存じだろう。だが、彼を単に戦場写真家と言い切れないのは数々の写真が示すように、「戦場を通して人の感情をとらえるからであり、同時に暖かさと知性を伴って平和をもとらえるからである」とは東京で戦後50周年に開催された回顧展によせた著者自身の言葉である。
 彼を戦場へ駆り立てたものが何だったのか、それが知りたくて本書を手にした。ぜひ第二部、第三部と続けてお読みいただきたい。併せて「ちょっとピンぼけ」もお勧めする。

チャリング・クロス街84番地 ヘレーン・ハンフ 訳・江藤淳 中公文庫 ¥680
 まずは、かなりのペースで文庫であろうと絶版となる昨今で、こうした良書が版を重ね店頭から消えることなく読まれ続けている幸福に感謝したい。私にとっては何かと読み返すことの多い一冊である。今回の推薦理由として、きれいな話が読みたい気分のとき。
 ロンドンとニューヨークに暮らすフランクとヘレーン、その周辺の人々との心温まる交流を描いたあまりにも有名なこの往復書簡は、メールやモバイル主体の今だからこそスローライフぶりが心にしみる。待つ楽しみ、人との関係を築いてゆく過程の大切さを改めて教えてくれる。昔滞在したイギリスで、対応してくれた書店員を思い出し、フランクの博識な顧客相手に人柄のよさが滲みでる仕事ぶりが重なって、結果として自分の仕事に対する気持ちを見つめ直すことにもなった。しかし、フランクの死が、盲腸破裂と腹膜炎の併発であったのか、と因縁めいたものを感じた。

旅をする木 星野道夫著 文春文庫 ¥470
 この本を何人の人にすすめたことか、定かではない。贈ったり、人に貸したままで何度か行方不明になり、今回またここで読み返そうと探してみたが見当たらず、2度も買い直した。今手元にあるのは03年第八刷。99年の文庫化初版からほぼ一年に2度の増刷を続けている計算となる。彼がいかに多くの人に愛されているかがおわかりであろう。この冊子を手にしてくださった方のなかにも既に読まれたことがある可能性が高いので、今更であるが、とにかく美文、に尽きるの一言だ。どんな状況でも受け入れる強さを持つ人の、人間性にじみ出る文章の美しさには、幾度心を洗われたか。日常に追われ感受性が鈍くなっていると感じた時、きっと心に何か響く、そんな1冊である。私にとっての、ヒーリング・ブック。表題作の次の「十六歳のとき」は、進路や人生の岐路に迷いを感じている人必読。
 解説・池澤夏樹。

がん患者学 柳原和子 中公文庫 TU¥1200 V¥1100
とても400字では書ききれない、衝撃。
 実際にがんを患いながら5年以上を生きた人たちの言葉、医療にかかわる専門家たちとの対話、著者自身の記録。著者がいうように一ページ目から最終ページまで順を追って一本一本読み遂げていった。あるときは、精神が不安定になるほど過酷な体験にページを閉じ、あるときはやり場のない怒りでいっぱいになった。私自身の療養中に感じた思いがそこにあったからだ。医療につきものの冷酷さと、それに対する患者のやりきれなさを両者が感じているにもかかわらず歩み寄れないしくみの複雑さに、なぜもっとシンプルになれないのか、と。それにはやはり最後は損得、打算のない「心」が求められるのではないだろうか。
 またこの本は3巻の解説・白石一文の終わりの一行に集約されている。

昨日と違う今日を生きる 千葉敦子著 角川ソフィア文庫 ¥357
がん闘病の手記といってまず思い浮かべるのは彼女の著書だろう。彼女の気質かジャーナリストとしての職業柄か、センチメンタルに流れずありのままを冷静な視点で綴った文章は、だからこそ心に響くのだろう。
 がんとうまくつき合いながら仕事を続ける
 生きてやるべきことがあるのだ
 この言葉どおりの生活を死の直前まで貫いた彼女を、ときわ書房部長のH氏は「日本人離れ」したと評したが、確かに我々が持つがん患者のイメージとはかけ離れている姿がそこにはある。
 この本は正確には闘病記録ではない。癌を抱えながらもニューヨーク移住を決意し、移住後も癌患者だからこその実感として浮き彫りにされた、彼女の生きた当時の日米の医療における温度差などを綴ったレポートたりえている。
 この本が突きつける現実を考えることが、残された我々にとって、単に彼女の生き方が素晴らしいと褒め称える以前に大切なことではないか、と思えてならない。

スピリチュアル セルフ・ヒーリング 江原啓之著 王様文庫 CD付き¥700
 まずこの本は宗教と一切関係がありませんのでご安心を。著者は各メディアでひっぱりだこの有名人なので特に説明は不要だろう。
 病気になったときに自らを振り返ることが出来る点では、誰にでも一番にオススメできる本である。だが、予防としても最適な一冊である。江原氏が述べるように「どこかが痛みはじめてようやく自分を振り返るのではなく、日頃から自分自身の心と体をみつめ丁寧に日々を過ごすこと」である。私が患ったのはいわゆる「肉体の病」であった。これを書いている今、当初予定していた締切から大幅に遅れ、ここに書かれているのとは正反対の生活に陥っており、再び肉体の病への恐怖をうっすらと感じはじめている。
 巻末の付属CDには、音大で声楽を学んだ著者による独唱が聴け、耳からも癒される。
 冊子が完成したらまず部屋の掃除をしたいと切実に思うのであった。