この事実がすごい!
  ノンフィクション
                         十冊!
 このジジと銘打っておりますが、凄い老人特集ではありません。すべて、ジジツであるという意味ですよ。念のため(笑)
 小説の世界ではよくあるハナシ。でも、これから読んでいただくのは私たちが生きている世界で起こっている話、なのです。そのように、現実だと言うことを踏まえて読むと、哀しみも喜びも空想小説に比べて何倍にも膨らむのです。まさに事実は小説よりも奇なのです!
 あなたの知らない、この世の真実を、少しだけ覗いてみませんか?



真剣師 小池重明 団鬼六著 幻冬舎アウトロー文庫 ¥560

 これは、生活能力ゼロのへたれだったけれど、こと将棋に関しては鬼のように強かった男の人生録である。プロやアマになるチャンスも、女や借金でことごとくおじゃんにし、結局いつも酒びたり女びたりの生活に戻る。それでも将棋だけは誰より強いのだ。そこが面白いではないか。
 借金とりたてに、小池の対極場に押しかけた酒屋をなだめた山田記者や、返ってこないとわかっていてお金を貸した団鬼六。経済観念のなさを芸術的だと褒める宮口。小池をとりまく人々は、そのダメっぷりにうんざりしながらも、彼から離れていくことはない。そして、追悼座談会が、故人の悪口言いたい放題の酔談会になってしまったという微笑ましいエピソードこそ、彼がいかに人間的魅力に溢れた人だったかをあらわしている。本書は将棋を知らなくても十分楽しめるが、将棋がわかったら要所要所の対極場面がもっと楽しめると思い、私は本書をきっかけに将棋を始めた。それくらい夢中になれる本なのだ。

聖の青春 大崎善生著 講談社文庫 ¥680
 平成八年、羽生善治氏が七冠を達成したときのことは、当時中学生だった私も覚えている。そして、私のなかで将棋や棋士に関する知識は、その時代で停止している。記憶の隅にあった棋士の名は、羽生、谷川、中原、そして村山。私の中で、名前だけの存在だった村山が、本書によって始めて血肉をもった人間として見えてきた。
 村山聖は、腎臓病に侵されながらも将棋を指し続けた。名人にはなれず、病の果てに命を落としたけれど、その勝ちへの執念、将棋への熱い思いは胸にぐっとくるものがある。と、同時にプロになれなかった友人を負け犬呼ばわりした挙句、殴り合いの喧嘩になったり、一晩中麻雀と酒に溺れたり、好きな子をデートに誘うように羽生を馴染みの定食屋につれていったり。そんな小さなエピソードのひとつひとつが、青年・村山聖の短い青春を輝かせている。感動作であり、泣ける話ではあるけれど、決して悲しい話ではない。これは熱い魂をもった男の戦いの実録なのだ。

被差別部落の青春 角岡伸彦著 講談社文庫 ¥560
 この本には様々な部落に関わる人々の声が寄せられている。部落解放運動に参加している人もいれば、差別が嫌で出身者であることを隠している人、そして出身者であることを全く気にしていない部落出身の若者。そんな本物の声を聞いていると、彼らがとても身近に感じられ、部落の何たるかさえ知らなかった私は、知らなかったことに対しうしろめたい気持ちになった。
 部落って何?私の疑問はそこからだったので、筆者の思うところを全部受け止められたかは怪しい。しかし、現代においても部落差別が根強く残っていること、そして部落出身を気にしない若者たちに、著者が新鮮な驚きを感じていることは伝わってきた。現代でも就職や結婚の障害になることが多いと知り、かなり驚いたというのが本音だ。私のように部落について何も知らない人というのは、意外と多いのではないだろうか。そんな人に是非本書を手にとってほしい。知ることからはじめませんか?

無敵のハンディキャップ 北島行徳著 文春文庫 ¥540
 副題が「障害者がプロレスラーになった日」とあったので、障害をもちながらも頑張った、というありがちな話かと思っていた。しかーし、まったく違う。今までこんな形で障害者を描いた作品はない!何しろ、障害者レスラー浪貝や慎太郎が「オレに言わせりゃお前が障害者」「障害者をやめることはできない」と毒づくのだ。
 流血してまでリングで闘う姿は、健常者のプロレスと同じ。いや、それ以上にかっこいいが、ソープにもいけば女を取り合って喧嘩もする。ストレスを酒で解消する。そんなこんなで、体は不自由でも心は綺麗で一生懸命生きている人たちという、ありがちな障害者のイメージが一瞬にして払拭されること間違いなし。
 本書は、彼らが所属するドッグレッグスというボランティア団体のプロレス興行だけを描いたものではない。雀の涙ほどの給料だったり、恋愛・結婚、将来の不安といった問題に悩む姿も描かれており、等身大の障害者の姿を身近に感じることが出来る。

死にゆく妻との旅路 清水久典著 新潮文庫 ¥380
 これだけ泣いた本は久しぶりだった。実際の出来事だということも、この旅路の結末も先に知っていたので、夫婦の会話のひとつひとつに、凝縮された時間を感じた。
 自己破産寸前に追い込まれた工場、返すあてのない金。それらを置き去りにして夫婦は旅に出た。古ぼけた業務用のワゴンで、各地を放浪する。社員旅行で訪れた温泉、修学旅行でいった姫路城。最初は職安に立ち寄ったり、海で戯れ、目を輝かせていた。そんな前向きな、表紙通りの晴れたスカイラインを走るような旅は、妻の癌再発を機にゆっくりと落日の黄昏の風景に変わっていく。ただ、死ぬまで好きな人と一緒にいられた妻・瞳さんは幸せだったろうと、涙で霞む字を追いながら思った。
 昔。今より不便だった時代、無事に旅から帰ることは難しく、相当な覚悟をしたという。思えば癌に侵された妻と夫の道行きはそれに似た「覚悟」を伴っている。読むときにはハンカチを用意されたし、一気読みがベスト!

ぶどうの木 坂本洋子著 幻冬舎文庫 ¥560
 人の縁とはなんだろう。子に恵まれない親と、親に恵まれない子。坂本夫婦は、事情があって親元で暮らせない子どもたちを里子として引き取り、育てている。育て上げた子供は十人。お互い手探りで、信頼関係を築いていくさまは微笑ましく、温かい。
 坂本家にやってくる子供たちは、事情で親と一緒に暮らせなかったり、虐待をうけたりと過度の緊張状態にあった子供たちだ。そんな彼らに、坂本夫婦は「大好きだよ」と言葉で伝える。愛情に飢えていた子供たちには、どんなに幸せな言葉だったろう。
 人は一人では生きられない。だからこそ他人を求め共に成長していくのだ。本書を読んでいると、そんなことを自然に考えさせられる。三歳の純平がネコを見て「おうちがるのかな」と心配する場面。彼らの成長過程を読んできたのでいい子に育ったなぁ、と涙。そして子供以上に成長するのは親のほう、という坂本さんにも涙。優しさが一杯の本です。

刑務所の王 井口俊英著 文春文庫 ¥760
 著者の井口氏は、一九九五年大和銀行ニューヨーク支店での巨額損失事件で、ニューヨーク連邦拘置所に拘置されていたという。そこで偶然隣の房にいたのが、三十年以上を刑務所の中で過ごした「刑務所の王」ジョージ・ハープ氏だ。彼らはたった数ヶ月の付き合いで自伝を書くほどに親しくなった。
 プリズンギャングの親玉のジョージだが、黒人差別の根強かった当時、黒も白も関係なく、ただ道理の通らないことや、弱いものいじめを嫌う姿には好感がもてた。精神的にも肉体的にも「強くなりすぎた」と作中にあるが、まさにそれゆえに「刑務所の中」でしか生きられなかったのだろう。壁の中の地位は社会では通用しないのだ。そんナジョージの最初の事件が十七歳のときの軽い酒泥棒だというのだから、絡まった運命の糸のようなものを感じだ。井口氏の話す日本の話をジョージは目を閉じ、想像しながら愉しんだというところは、微笑ましくて、少し笑ってしまった。

シルミド イスグァン著 早川文庫 ¥749

 本書は、シルミド事件について、最も真相に近いといわれている。三年四ヶ月もの間、実尾島で兵士としての訓練を受け続けた六八四部隊。彼らは元罪人や死刑囚で構成されており、北朝鮮によるソウル襲撃未遂事件に対抗するため、大統領が命じたいわば「死んでもいい兵士」だ。死者がでるほどの過酷な訓練を受け続け、一流の兵士になってゆく。しかし、国際舞台での政治的駆け引きの結果、実尾島部隊は行くあてを失いそして・・・
 かれらの行動だけを追っていては見えないものが、本書にはたくさん描かれている。犯罪者になるほどつらい過去があり、一人一人に愛する家族がいて、夢があること。人選から、事件後の軍法会議まで、人の命があまりにも軽く扱われていることにショックをうけた。
 「使い捨て」られ「忘れ去られ」ようとしていた六八四部隊。地上から戦争がなくならないかぎり、私達はこの話を読み続けなければならないと思う。

心臓を貫かれて マイケル・ギルモア著 文春文庫 上¥650下¥700
 痛々しいタイトルのとおりに、非常に重苦しく、深刻な内容だ。真っ暗な穴の深淵を恐る恐る覗き込むような、見てはいけないものを見てしまった気分だ。
 著者の兄、ゲイリー・ギルモアは殺人罪で銃殺刑に処された。当時、アメリカでは何十年も死刑は行われてはおらず、そのまま廃止される流れだった。しかし彼は自ら銃殺刑を望み、大きな話題となった。本書は、暴力と迷信、そして怒りに満ちた、ギルモア家の闇を、それでも家族の一員として愛情をもって描いている。父親は暴力をふるい、母親はモルモン教徒で霊の存在を説く。そんな両親が、幼い子供の心に与えた影響は計り知れない。結局、家族みんなが愛を求めていたのに、誰も成功しなかったのだ。その意味では永遠に閉鎖した家族であり、負の鎖によってではあるけれど、固く結ばれた家族だったのだろう。人の心の闇を見事に描き出している恐ろしいノンフィクションだ。

オールドルーキー ジム・モリス著 文春文庫 ¥620
 快晴の空の下、白いボールを追いかける少年たち。観客の声、笑顔。太陽の光。そして失った夢をもう一度見る教師。爽やかできらきら輝いている。昼夜逆転生活の私にとっては、サングラスが必要なくらい輝いて見える光景だ。
 肩の故障で野球界を引退したジム・モリスはコーチをつとめる野球チームの少年たちとの約束を守るため、プロ試験をうけにいく。そしていつしか、マイナーリーグ、ついにはメジャーリーグでも活躍するようになる。少年時代、転校ばかりでいつも一人で投球練習をしていた少年は、一度の挫折を乗り越えて見事に夢を実現させたのだ。
 まさにアメリカンドリームを絵に描いたような話だが、これは事実なのである。一人の人間がもつエネルギーの凄まじさを肌で感じた。家族間や、金銭面での問題など、様々な障害が立ちはだかるが、それを乗り越える情熱こそ、夢を叶えるために大切なものかもしれない。