泣ける!

笑える!

禁電車本


 電車に乗っている、と思っていただきたい。あなたの右隣に座る中年男性が、文庫本を読みながら「ぐひぐひ」云って泣きじゃくってたら、いかがだろうか?まだ、左隣に座るお嬢さんが、文庫本を読みながら「くひーっ!」などとはを食いしばって肩を上下させ、爆笑を必死でこらえていたら、いかがだろうか?「禁電車本」とは、まさに電車内では読めない本のことである。もし勇敢にも、車内でチャレンジする方がいらしたなら、前述の「中年男性」や「お嬢さん」のようにならぬよう、ご注意を。当方、どんな眼で見られても、責任は負いませぬゆえ・・・。



翼はいつまでも 川上健一 集英社文庫 ¥650

 ご存知の方もあるかもしれないが、私の涙腺は極端に緩い。本を読んでいて思わず目頭を拭うなんぞは、しょっちゅうだ。しかしそれでも、さすがにバケツ三杯泣いたことは一度もなかった。私を滂沱の海に沈めたここ十年間の落涙小説ベスト1――それが本書だ。
 いや、バケツ三杯というのはいくら何でもオーバーか。実際にはおそらくコップ一杯・・・もしかしたら、お猪口1杯くらいだった可能性もある。が、それにしてもだ。ここまで泣かされた本は、かつて一度もなかった、中盤以降は、もう涙、涙の連続である。しかもこれが、実に笑える。涙あり笑いありの、爽快感溢れる感動作。いくら褒めても褒め足りないほどの傑作である。
 怒涛の落涙攻撃と笑いの電車道。本書は、涙と笑いが渾然一体となった究極の禁電車本だ。読者におかれては、ゆめゆめ、電車の中で読むことなかれ。


   茶木(本店)


クロノス・ジョウンターの伝説 梶尾真治 朝日ソノラマ文庫 ¥630
 男なら誰しも一度や二度は「この女性のためなら命を投げ出しても構わない」と考えたことがあるだろう。そんな感情は、思春期にありがちな青臭い空想の産物だったのかもしれないが、きっとその後も心のどこか奥底に生きつづけているはずだ。
 本書は、「クロノス・ジョウンター」と名付けられた、一種のタイムマシーンを巡る四つの物語から成る作品集である。第1話に登場する青年・吹原和彦は、悲惨な事故に巻き込まれた女性を救うべく、まだ開発途上のクロノス・ジョウンターで過去へと跳んで、事故が起こる前に彼女を逃避させようとする。しかし時間移動には思わぬ副作用が・・・
 きっと自分も同じ立場ならば、和彦と同じことをするはずだと、そして物語の結末が語る彼の運命を思って、ただ涙するしかない。

   池田(IY船橋店)

ドラえもん 感動編 藤子・F・不二雄 小学館コロコロ文庫 ¥460

 「おばあちゃんのおもいで」(コミックス第四巻)、「あの日あの時あのダルマ」(コミックス第十八巻)など、『ドラえもん』には、これで泣かずば人非人! という号泣エピソードがあるのは有名な話。熱心な読者でなくとも識っている人は多いと思う(特に「おばあちゃんのおもいで」は映画でもやりましたものね)。だが、この国民的漫画には、ほかにもまだまだ読み継がれるべき感動のエピソードがあることを、みなさん以外とご存じないようである。この一冊は、そんな傑作、秀作をいいとこ取りでパッケージングした贅沢な逸品である。私のお気に入りは、「ぞうとおじさん」と、「さようならドラえもん」。もう二十年以上前に、コミックス版で繰り返し繰り返し読み返した。愛すべき物語である。とくに「ぞうとおじさん」の、あの構造とメッセージ性を少ないページ内にまとめ、さらに見事な着地を成した点は、いま読んでも感嘆に値する。

   宇田川(本店)


ぼくんち熱血母主家庭 下田治美 角川文庫 ¥520

 下田治美『愛を乞う人』と出会ったのは、私の前の勤め先であるブックス深夜プラス1を開店して、間もない頃だったと記憶している。
 最初のきっかけが何だったのか、今となっては定かに思い出せない。畏友・北上次郎に薦められたのか。それとも、『愛を乞う人』の版元であり、当時親しくしていた情報センター出版局の営業氏に強力にプッシュされたのがきっかけだったのか。いずれにしても一読三嘆、感涙に咽んだのは事実だ。作家が命を削って書いた作品――そう感じたのを覚えている。行間に漂うある種の凄みと、書かずにはいられないという作家の使命感が、旨を締め付けるほど如実に伝わってきた。
 あわてて読んだ前作が、本書である。これが負けず劣らず凄かった。泣かせるうえに、ほのぼの笑わせるのである。読んだら元気がでること請け合いだ。読め!

   茶木(本店)


海がきこえる 氷室冴子 徳間文庫 ¥
 季節外れの時期に東京から転向してきた女の子。その女の子の恋愛感情を持つ優等生。そしてその親友で、はからずも女の子と親しくなってゆく主人公。という設定だけを並べたらいかにもベタな恋愛小説のようだが、実によくできた作品。この作品の特色は恋愛部分にだけあるのではなく、登場人物たちの巧みな性格づけにある。たとえば主人公は、自分の通う高校が、ライバル校に有名大学への進学者数で負けたという理由で、修学旅行を中止すると学校側から通告されたとき、ここで反対の手をあげなかったら自分は本当にそうすべき場面でうつむいていなくてはならないだろう、それは格好悪いことだと手をあげる(ここでは主人公より先に手をあげたのが前述した親友)。こういった実に細やかな描写が主人公をはじめとする登場人物たちにほどこされていて、それがこの作品を素晴らしいものにしている。ちなみにスタジオジブリによってアニメ化されている。

   桑村(本店)

妄想炸裂 三浦しをん ウィングス文庫 ¥609

 木枯らしが吹きすさぶ冬の日のことであった。電車に乗り込んだ私は、一冊の文庫をおもむろに取り出し、ひらいだ。数分後、車内で笑いが炸裂しそうになるのをこらえなくてはならなかった。病院でレントゲン写真について説明を受けながら、三浦しをんが考えていたことは、「その黒い板に映っている白いモヤモヤとしたものは、私の恋心よ、きっと。ウフフ」である。
 その日は他にも本を持っていたので、別の本を読もうとした。だいたい電車の中で読むにはかなり相応しくないタイトルだし。そう思いつつもページを捲る手が止まらない。三浦しをんもおかしいが、祖父もかなりおかしい。祖父の家は「火炎放射器によって焼失した。火炎放射器をぶっ放す放火魔によって焼かれてしまったわけではなく、火炎放射器で庭の雑草を焼き払っていた祖父が、誤って家まで一緒に燃やしてしまったのだ。」・・・・・・もういいの。電車で本を読みながら笑ってしまう変な人で。

   青木(本八幡店)

ナンシー関の記憶スケッチアカデミー 角川文庫 ¥500
 ある提示されたお題に対して、記憶だけを頼りに絵を書くということが、どれほど難しいことなのか。頭の中では確かに見えているはずの映像を、実際に描いてみるとどこかが違ってしまう。でも、おもしろい。そんな作品が集う場所、記憶スケッチアカデミー。ここには全国各地から、時代に愛されなかった画伯達の作品が寄せられてきます。
 カエル、ペコちゃん、サンタクロース。
 言われた瞬間に映像が浮かんでくるのに、どうしてイメージ通りに描けないのか。それは記憶というものが、全体像をビジュアルで把握しているというよりも、部分部分を箇条書きに辞書化して覚えているからではないだろうか?本書にはこんな思わずうなずいてしまう考察も掲載されていますが、とりあえず、絵とコメントを読んでお楽しみください。笑いのツボは人それぞれですが、私のオススメはウルトラマンと小便小僧です。

   吉岡(八千代台店)

バカの瞬発力 ゲッツ板谷 絵・西原理恵子 角川文庫 ¥580

 ほんまにおるんかいな?とツッこみどころ満載な強烈な人たちのおバカな話に腹がよじれるほど笑った、笑った。実はこの冬、開腹手術をした直後に本書を読んだが、傷口が開く恐怖に脅えつつもページを繰る手を止めることが出来なかった。幸い個室であったが、大部屋であったなら同室の方々に白い目で見られていたであろう。そういう意味でキングオブ電車本にふさわしいこと間違いナイ。通勤通学が億劫に感じる少々ウツ気味の方やパンチの効いた茂樹を求めるあなた、この本を鞄にしのばせページを開いてみてください。見開き1ページで5回は笑えます。どうしても笑えないかた、そのまま医者へ直行しましょう(ウソ)。笑いのなかに時折あるホロリとくるエピソードがいい!ゲッツ本初読の私が彼の本の売れる理由がようやくわかったのであった。あー面白かった!

   片山(千城台店)


牛乳アンタッチャブル 戸梶圭太 双葉文庫 ¥1000
 バカ、残酷、外道、鬼畜、下品、不謹慎等、あらゆる賛辞を独り占めする小説界の暴走列車その名はダーティー戸梶。この男の書く小説には品位というものが全くないどころか、読書の喜びや感動などといったものとも一切無縁だ。本作はもうタイトルからしてバカである。社内でも本書を指して「ナニコレ?」と異物を見るような目で言い放った女性スタッフを5人は見ましたね。
 内容は大手乳製品メーカー[雲印乳業]の牛乳による食中毒事件に端を発した企業内経営陣の暗躍とそれに抵抗する従業員たちの壮絶なバトル・・・書いててアホらしくなってきたがまあそういうお話です。もちろんモデルはあの某○印乳業ね。事件を通して食品会社の実態を暴き、消費者への問題提起を、なんてことは微塵も考えていません。単に変態バカ博覧会がしたいだけ。」ちょっとブラックすぎるがセカチュウ好きな人にもオススメしたい(笑)。

  (世界の中心で「私は寝ていないんだ!」と叫びたい八千代台店・日野)

BLUE(平面犬。収録) 乙一 集英社文庫 ¥620
 余り布でつくられたぬいぐるみ、ブルーが同郷(同じ人形作家の手による)のぬいぐるみたちにいじめられながらも、買われた先で一生懸命頑張る。そんな話です。ストーリィを先にいってしまっていいのかって?いいのですよ(笑)ストーリィがわかっていても、感動できてしまうのですから!
 王女と同じ金髪になろうとして、毛糸をくっつけたり、白い肌になろうとして小麦粉をはたいたり、とにかくブルーは健気なのです。嫌味が無くて、涙がでるほどに純粋なのです。ラストのとらえかたは人様々だと思うけれど、私は悲劇だったとは思いません。少なくともブルーは満足だったのですから。
 ぬいぐるみが動いたり、死体が主人公だったり、よく考えてみれば異常な出来事なのですが、氏の作品では当たり前のように受け入れることが出来るのです。そしていつもラストでやられてしまいます!最後にそこはかとなく漂うセツナさがなんともいえません。おススメです。

   小峰(IY船橋店)