スポーツから学ぶ「品格」2008

「日本人で1番品格があると思える有名人は誰?」というアンケートで、男性部門で1位となったのはイチローだったそうだが、そもそも“品格”って何?ちなみに広辞苑によると、【@物のよしあしの程度A品位・気品】と説明されているが、いまいちピンと来ない。
昨年大きな話題となったこのフレーズが持つ意義が、スポーツという世界からわかりやすく伺えることを、以下に紹介する本にて感じ取っていただきたい。
『雷電本紀』
飯嶋和一 小学館文庫 ¥730
『プロ野球「人生の選択」』 
二宮清純 廣済堂文庫 ¥600
『蹴球戦争(フットボール・ウォー)』
石田雄太 文春文庫 ¥620
 個人的なことを言わせて貰えば「品格」なんてものは一冊二冊本を齧ったところで身に付くものではない。「品格」は単に纏うものではないのだ。行ないに非なき生き方を貫く者だけが自然と備えるものなのだ。だから流行りに乗じて少しばかり「品格」を上塗りして悦に入っている輩には醜悪なのでやめてくれと言いたい。とは言え人のことを言えるほど俺自身が立派な「品格」を備えているわけはない。そこで「品格」の何たるかを識ってもらう最高の一冊として『雷電本紀』を挙げておく。生涯に僅か十敗。史上最強の力士と謳われる雷電為右衛門を描いた傑作中の傑作。悪政や凶作による貧困で苦しむ民衆の心に豪快に相手を薙ぎ斃す雷電の闘志が希望を与える。彗星の様に現れ人々の記憶に刻み込まれた闘神の「品格」。この物語のラストで飯嶋和一が描いたのは死してなお人々を照らすほどの最上の「品格」と言えまいか。
栗田(商品政策部)
 あのイチローに「彼のバッティングは僕の見本」と言わしめる男、彼の名は前田智徳。この本では彼の他に、松井秀喜や高津臣吾、スローボールのエース・星野伸之など、個性的な選手数人を取り上げているが、中でもこの前田に、勝負の世界に生きる男としての「品格」というか「カッコよさ」を感じた。彼の発言を挙げると、「ピッチャーがど真ん中にボールを投げてきたら、『ああ、自分はまだ所詮その程度の選手としか思われてないんだ』という気持ちになる」、「甘いボールはピッチャーも気持ちが入っていないから、打ってもちっとも面白くない」、「バッターボックスでいつも考えていることは、結果より自分で納得できる理想の打球を打つということ。そのこだわりがなくなったら野球を辞めます」など。これ、二〇歳過ぎの青年が口にした台詞ですよ。そして、イチローも言いそうな台詞。こうまで言える確固たる信念を持てる人間には、自然と「品格」を感じるのだ。
依田(IY船橋店)
 本フェア開催時、北京では熱いフットボール・ウォーが繰り広げられている頃だろうか。著者の馳星周は、仕事も愛犬も、ほっぽり出して、現地に赴いているかもしれない。本書は二〇〇二年日韓ワールドカップや、欧州でのフットボール観戦記をまとめたものだ。思えば六年前、オフサイドすら理解できない運動音痴の私も終日TVに釘付けになった。紳士のスポーツと称される野球などとは明らかに異なる圧倒的な迫力。サッカーの何が、かくも我々を魅了するのか? 求道者の如く球技場を巡り歩く馳星周の姿に、その答えの一端は有る。所収の名文「サッカー・ジャンキー」のくだりを、是非、熟読玩味していただきたい。馳星周は時に激烈な言葉で無能な指揮官や選手を罵る。選手のプレイも又、荒っぽい。真の品格とは、付焼刃のお行儀でも偏狭な国家主義でもなく、人がその全ての能力を傾け、自らの尊厳を賭けて戦う時にのみ輝くものであることを、この本が教えてくれるだろう。
斉藤美穂(いわき店お客様)
『ベースボールと陸蒸気』
鈴木康允、酒井堅次 小学館文庫 ¥600
『ポリスマン』
永瀬隼介 幻冬舎文庫 ¥560
『イチロー、聖地へ』
佐々木譲 新潮文庫 ¥780
 この本を読もうと思った理由は、サブタイトルの「日本で初めてカーブを投げた男」に興味を持ったからだ。野球のカーブを投げられるのは、確かに大した特技ではあろうが、「日本で初めて」と言う程に誰かが注目していたのか。だとしたら、どんな人物だったからなのか。平岡煕という男は、江戸っ子で、子供の頃は悪童だったらしいが、運動神経も良く、絵や邦楽にも人並みならぬ才能を発揮し、「江戸袋物コレクター」の道を極め、何より事業家として新しい分野で成功を収める「非の打ちどころのない」カッコイイ人物なのだ。アメリカでカーブを習得する迄のエピソードも面白い。だが、本当の魅力は、自信をもって自分を貫く代わりに、自分と関わりのあるあらゆる世界の人々ひとりひとりを大切にした「人間らしさ」ではなかろうか。今から八年前、著者の鈴木康允さんが、ときわ書房の店頭に本を宣伝にいらした事があり、熱く語られていた印象が残っている。
恵福(東習志野店)
 警察小説と勘違いされそうなタイトルだが、主人公はプロレスラーである。ポリスマンとは「団体のルールを乱す厄介なレスラーが登場したら、そいつをリアルファイトで容赦なく叩き潰す仕事」だ。つまりプロレス界の影の番人という役どころ。ポリスマンたるためには圧倒的な力量がなくてはならない。小柄で中堅の地味なレスラーが実はポリスマンというのが本書のミソで、謎めいた過去を持つこの男がどれほど強いか、読者はページを繰るたびに知ることになる。このリアルファイトが、まずは抜群に読ませる。プロレスに疎い筆者でも、ページを繰る手が止まらないほどの迫力と緊迫感だ。格闘技小説としても出色だが、そこにロシアをめぐる国際的謀略を組み込み、一級のエンターテインメントに仕上がっている。しかも義理の息子との絡みがじっくり読ませて泣かせるのだ。本書で描かれるのは、まさにアスリートの品格に他ならない。隠れた傑作ここにあり!
茶木(本店)
 「非難された方がよっぽどマシだと思いますから」。現代の世の中で、こう言い切れる人間はどれだけいるだろう? そうそう簡単に言える台詞ではないし、こんなこと望まない人間の方が多いはずだ。それでもそんな一言を言ってしまう男―それがイチローである。
 この本はそんな彼の米国での一年目を中心に、さらには二年目、シーズン安打記録を塗り替えた四年目の足跡と言動に触れている。読み進めていくうちに、あなたは彼の意外な一面や徹底したこだわり、そして意外に冗談が好きということを知るだろう。現に、本の中で彼はよく(笑)っているのだ(笑)。それでも冒頭のような台詞がさらりと出た時に、確かにハッとしてしまう何かがあるはずだ。
 ちなみに冒頭の台詞がどこで出たのかは、ぜひご自身の目で確かめていただきたい。
依田(IY船橋店)
『野球で学んだこと ヒデキ君に教わったこと』
伊集院静 講談社文庫 ¥940
 「松井と接したことのある人は、たいてい彼のファンになる」という話が、いつかTVか新聞・雑誌であったそうだ。
 この本は、そんな彼とヤンキースを取材した作家の伊集院静が書き下ろしたエッセイであるが、伊集院氏も松井との最初の対談で彼の人柄に好感を持ち、以来彼に何度も会いに行っているそうだ。日米二つの名門球団の主力打者として確固たる地位を築き、老若男女を問わず人を惹きつける松井の、野球選手として、さらに一人間としての魅力を、この本から窺い知ることができる。最もそれが顕著に表れていたのが、「もしかしたら、一生に一度しか球場に来れない子供やファンがいるかもしれない。だから僕はできるだけ試合に出続けたい」という台詞。こういう気持ちを常に持ち続け、そのための努力を惜しまないからこそ、今の松井があるのだろう。
依田(IY船橋店)